表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
62/100

62・回想(53)




 アーラカの研究発表の材料になればと思って、人工で作り出した微少魔石の作成日時を忘れないうちにメモする事にした。

 消えた時間もラァフに食べられた時間も込みで、書き込んでゆく。


 後は、他の形状……なのだが。


 小型ではあるが、人工魔石は作り出せた。

 ラァフがすぐに食べてしまったので触れるかは分からなかったが、糸が出来るのも分かっている。


 あとは何を作ろう?


 アーラカが作り出した果物ナイフは触れなかったが、もし実体を持つ物が出来てしまったらと思うと怖くて試す気にならない。


 そうだ、まずは糸巻き板を作ってみよう。

 人工糸はそれなりの長さを出し続けられた気がするから、巻き付けておく物が必要になる。


 繕い用の糸の糸巻き板しか詳しくないが、それよりも大きい方が理想だ。

 イメージしながら、手に力を注ぐ。


 出来てしまった。


「……触れる」


 しかもイメージ通りに糸の端を挟む、切れ込みまで入っている。


 もし、しばらく経っても糸巻き板が消えなかったら。

 これは、どれくらい長く糸を伸ばせるのか試してみるべき、だよな?


 糸を出しながら巻き付けていくのは大変そうだから、誰かに手伝ってもらわないといけない。

 エノンは卒園試験、アーラカは発表論文に集中したいはずだから、あと頼めるのはタッゾしかいない。


 微少魔石研究の主体であるアーラカが、研究成果や実験などの諸々を、タッゾとレミには見られても問題にしないと言ってくれた事でもあるし。

 使える者は使おう。


 こうなると研究棟まで押し掛けてきて、実験に茶々を入れてきたタッゾは使い勝手がいいかもしれない。

 ただ僕の雑用に使われるだけのタッゾにとって、茶々を入れた甲斐あってといえるのか、果たして謎ではある。


 とりあえず人工糸を作り出すのはタッゾが来てからだな。




 実験はここまでにしようと思った時、部屋の扉を優しく叩かれた。


「はい?」

「リティ、貴女に面会を求めている子が来ているのだけれど」


 珍しい、寮母さんだ。

 寮母さんにとっては、園の寮を出た者は皆、どれだけ大きくなっていても自分が世話をした子供扱いになっている。


 珍しく卒園した仲間の誰かが、僕に声を掛けに来てくれたのだろうか?

 だが普通はまだ園に残っている仲間を通して、僕に声を掛けてくる。


 もしくは、お小遣い制度の後輩を通じて僕に連絡を取ってきて、スエートの街で待ち合わせをする。

 わざわざ寮母さんを通して、僕に会いに来る人物に心当たりがない。


「誰でしょう?」

「貴女の妹だそうよ。昨日、入園してきた子で名前はリュディーナ」


「分かりました。会います」

 寮母さんに付いて、僕は部屋を後にした。



 ミンド島内のあちこちに園はある。


 にも関わらず、なぜ目の上のたんこぶである僕のいる園に、わざわざ異母弟妹が入園してくるかというと、スエートが島内では1・2を争う大きな街だからだ。


 大きな街には、ただでさえ多くの人が暮らし、訪れる。


 将来有望な子供の為に、良き講師が付き。

 そんな講師に育てられた子供達の何人かが、目覚ましい活躍を見せる者となり。


 更に講師が集められ、そしてまた……を繰り返して。

 島内のみならず、国にとっても素晴らしい人材を輩出した園として、スエートの園が知られているからだ。


 そうしてエノンを始め、タッゾとレミのように、有望視される子供や人物だけではなく。


 スエートの園を卒園したという肩書を求めたり、もしくは、講師陣によって少しでも成長させてもらえとばかりに。

 例えば僕のような、微妙な存在が寄付金と共に放り込まれる様にもなっている。


 本当に有能な人材はスエートを飛ばして、王都の園に入園・移籍するらしい。

 もしかしたらエノンはスエートではなく、王都の園を薦められたのではないかと思うのだが、僕は聞いていない。



 異母弟妹の何人かが、スエートの園で学び中だったり、僕よりも早く卒園していっている。


 同じ空間にいると、たまに異母弟妹やその友人達と視線が合う事もあった。


 たが、異母弟妹に対して、どんな表情・態度をとれば良かったのか僕には全く分からなかった。

 分からなかった僕は異母弟妹となるべく会わないように心掛けたし、すれ違い時に挨拶すらしなかった。


 異母弟妹からも僕に話し掛けてくるような事は1度もなかった。

 園内に居る事はお互いに知っていたのだが。


 笑い掛けたら良かったのか、せめて目礼くらいするべきだったのか?

 未だに決めかねていて、どうにも対応出来ずにいた。


 それが面会を求められるなんて。

 今回が初めての出来事だ。


 しかも会いに来た異母妹は昨日入園したばかりだと、寮母さんは言っていた。


 僕は今、外から見ると、タッゾという平民に骨抜きにされ、貴族としての誇りを忘れているように見えるだろう。

 異母弟妹の親族にしてみれば、僕が貴族から外れる方が嬉しいはずだから、傍観の一択に違いない。


 だから今頃になって、異母妹がタッゾとの件で何か言って来る事なんてないと思う。


 あと思い付くのは、エノンの卒園試験。

 それとも、アーラカとの微小魔石の研究。


 そのどちらか、もしくは、どちらともか?

 それを直接、僕に問い質しに来たというのは穿ち過ぎだろうか?


 でも、いくらなんでも両方とも情報が漏れるのが早い気もする。


 もしかしたら友好的に姉妹しましょう、なんて事も……。

 まずは会ってみて、それからだ。


 余計な先入観は持たない方がいい。

 そう理解してはいるのだが、なかなか難しい。


 僕は内心、溜め息を吐いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ