59・回想(50)
その後も何個かアーラカは魔石を作り出した。
その成功で埃以上の大きさの物が、聖域以外でも人工で作れるという大きな成果を得られた。
「魔石なら出来たんだから」
そう言ってアーラカは何度か試してみたのだが、結局ナイフが実体を持つ事はなく、しばらくすると消えてしまった。
「何でだろう?」
「形が複雑だから?」
やはり杖は聖域だからこそ、作れたのだろう。
とりあえず、一安心だ。
武器持込み禁止の場所で、凶器を自作する事は出来ないと思われる。
「自作の微少魔石で人工物を作るのは難しいんだろうか?」
「どうしたのかい、リティ?」
「構想の2つ目は、微少魔石を糸状にして、魔術が込められる防御服を作る事なんだ」
「あぁ~リティ、構想はあといくつあるんだい?」
「2つだけで終わりなんだが」
「良かったよ……」
わくわくした気分で訊ねると、逆にアーラカから問い返され。
それに答えたら答えたで、しみじみと呟かれてしまった。
「試しに微少魔石で糸を作ってみるか」
「じゃあ僕も」
僕はあーんと口を開けて待っているラァフの上に手をかざし、ゆっくり糸が伸びていく様をイメージした。
「あっ、リティ、糸が出た……のにっ、消えていくっ!」
エノンが横で残念がるが、僕はそれどころではない。
可愛いラァフのあーんに頬が緩んでしまわない様、なるべく無表情を保とうと勤める事に必死だ。
「う~ん。今日は調子が悪いなぁ」
「リティの具現化も波があるんだねぇ~。ちょっとほっとしたよ」
「当たり前だ。その時々で違うぞ」
特にラァフがいると、ほぼ食べられちゃうよ。
ね~、ラァフ~っ。
旺盛な食欲を見せるラァフに、いっぱい作ってあげるから、今日はアーラカが作ったのは食べたらダメだよと思念で伝える。
……食べながら頷くラァフ。
ほんと可愛い。
どんどんと糸を出してあげた。
「あ、出来た!」
「おおっ。アーラカ凄いじゃないかっ!」
ラァフから目を離し、アーラカの方を見ると、確かにどんどん糸が伸びていく。
「アーラカが作った微小魔石の糸には、どの級の魔術が込められるかな?」
僕が声をかけると集中が切れたのか、糸の伸びが止まってしまった。
「ごめん、アーラカ」
「いや、止める機会があって良かった。あんまりたくさん糸があっても持て余しただろうからね」
「それで? どうやって魔術を込めるんだ?」
エノンは楽しそうに糸を覗いていた。
「私も魔術が込められるかどうか試してみたいが、まずこの魔石と糸がどのくらい持つか見てみないと」
「そうだった、つい気が急いて」
「いいよ、エノン。エノンは卒試で忙しくなるからね」
エノンの卒試を考えて、ちょっとしんみりしてしまった。
するとラァフが僕の手をつついてくる。
ラァフを見ると、口を開けて待っていた。
集中が途切れ、糸が出ていない。
慌てて糸を再度伸ばし始めた。
「……それにしても、アーラカ。初めの方に出来た魔石あたり、いつもなら消えてしまっている頃合いじゃないか?」
この前アーラカに微小魔石作りを見せてもらった時は、お茶をしている間に消えたのだ。
果物ナイフや糸を作り出そうとしていた時間を考えると、明らかに持ちが良くなっている。
「確かに。大きさが変わったからだろうか?」
「なぁなぁ、アーラカ。キラキラ団子と糸だったら、どっちが出しやすかった?」
「キラキラ団子の方かな」
「あっ! それじゃ、オレでもキラキラ団子の魔石だったら作れるんじゃ……っ?」
そうエノンが言い出したので、しばらく固唾を呑んで見守った。
ちなみにタッゾはまた僕の背中にへばり付き状態に戻っていて、ずっと人工魔石や糸作りを見ていた。
どうやら人工魔石作りには興味がなく、もはや挑戦する気もないらしかった。
そんなタッゾは僕の糸を出していない方の、手首辺りを掴み上げたかと思うと、自分の頭に僕の手のひらをぽんぽんと乗せ出す。
僕はタッゾの操り人形ではないが、一体何がしたいのやら?
かといって、別に筋を痛めるような操られ方はしていないから、逆らうのも面倒だ。
「暇ならどこかへ行ってきたらどうだ、タッゾ?」
「いやで~す。俺は婚約者を迎えに来たんですから、ここを出る時はリティさんと一緒じゃないとっ」
まだその設定が続いていたらしい。
すると唐突にエノンが匙を投げた。
「出来な~~~いッ! 何でだっっ」
「「う~~~ん」」
エノンの叫びに、アーラカと僕は唸る。
微小魔石と同じで、どうやら人工魔石も作れる者と作れない者がいる様だ。




