57・回想(48)
「とりあえず現時点でリティの事を知っているのは、この3人以外ではレミと……アイツ」
「あいつもか……」
お、アーラカが自己嫌悪から戻って来たらしい。
タッゾも意外な所で役に立つな。
「4人で聖域に行ったから。タッゾも一緒にじゃないと、行ける場所じゃなかったというか……」
「エノンの彼女の事を悪く言うけど、こういうのを作って欲しいとか言われたりしてないかい? 兄妹から情報が漏れたりは?」
「オレは、レミは大丈夫だと思うけど。何か言われてる、リティ?」
エノンから訊ねられて、僕も首を横に振った。
「今のところ、何も言われてない。レミは綺麗な物を自分で探し当てる事自体、好きなんじゃないかな、エノン?」
「あ~。言われてみれば、確かにそう」
「タッゾも自分で狩った魔物の素材から厳選して、好みや使い勝手に合わせて作ったり、作り替えたりで。僕に作ってくれなんて一言もないな」
「アイツ、そんな事やってんのか。戦利品の見せびらかし?」
「見る人が見れば分かる素材なんだろうけど、どうだろうね。僕は珍しい素材なんじゃないかと感じるぐらいだ」
タッゾは僕に褒めろとは言うが、周囲の評価を気にする様子はない。
全くのマイペースだ。
もともと僕はエノンの特別になったレミの事を気に入らない。
だから悪い意味で僕はレミを意識しているが、レミは僕の事など眼中にないのではないだろうか?
タッゾは横に置いておくとして、特にレミについてはそう強く感じる。
「どちらにせよ兄妹共に、例え高性能だとしても物をぽんっと与えられるだけじゃ、自分の楽しみを奪われたって感じそうだな。そんな相手に時間を割くぐらいなら、自分の興味を優先させて動く」
どちらにせよ……の辺りで、タッゾが部屋に乱入して来た。
「……と、僕は思ってるんだが? 言われた本人として、何か反論は?」
横目でチラッと見ると、エノンとアーラカは、何で来やがった的な苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「大好きです、リティさんっ。ちゃんと見てもらえてるんだな~という、リティさんからの愛を感じました」
「兄妹共に、だ」
「そうですね~。反論するなら、雛先輩に杖を作った時みたく、リティさんが自主的にプレゼントしてくれる物なら、俺は何でも喜びますってところかな」
「全く参考にならない。というか、よく守衛さんに止められなかったな」
何となく、タッゾは守衛さんを脅したりして、入ってきたんじゃないかと疑ってしまった。
ネームタグを渡されているのだから、平和的にここまで来たのだろうが……。
「リティさんの人徳の賜物ですね。婚約者を迎えに来たって言っただけで、この部屋までの順路も教えてくれましたよ~」
「「はぁっっ?」」
う、う~ん?
今、思いっ切り聞き慣れない言葉が聞こえた様な?
空耳かと一瞬思ったが違ったらしく、エノンとアーラカが素っ頓狂な声を上げている。
「この面、確かにこいつだ。こいつがリティちゃんを~とか、守衛さんには散々睨まれました。怖かったです、リティさ~ん」
「お前の場合、面白かったの間違いだろうが。自分の楽しみの為に僕をダシに使うなよ……」
背後からタッゾに抱き付かれ、しかも頬擦りまでされる始末。
躾けるのは無理だと分かってはいるのだが、ついつい条件反射的にタッゾを叱ろうとしていたら、エノンに遮られた。
「待って待って、リティっ! 婚約者って、コイツとっ? いつッ?」
「婚約者なぞ僕にはいない」
確かに客観的に見ると、タッゾと婚前交渉は致している。
でもそれで婚約とするなら、タッゾには婚約者が多数いる事になる。
「確かに1番近いのはタッゾだ。だが一体いつ僕は婚約した?」
貴族同士で婚約する場合は、王の許可が必要になるはずだ。
それ以外の場合はどうなのだろう?
「酷いです、リティさんっ。リティさんに弄ばれたんですか、俺っ」
「お前を、僕なんかに弄べるわけがないだろうが」
「じゃあリティさんも真剣な気持ち……」
タッゾが言い掛けたところで、今度はアーラカに止められる。
「待てぇ~いっ! そいつの口先に巻き込まれたら駄目じゃんか、リティっ! 王侯貴族以外の婚約は、近々結婚しよう的なお互いの意思。で、聞くよ? リティはプロポーズしたわけでも、されたわけでもない?」
「プロポーズには覚えがない」
「じゃあ問題は、そいつがリティの婚約者であると守衛に詐称した事だ」
「……想像以上の反応が見られたって事で、今回はここまで、ですかね~」
どうやら守衛さんだけでなく、エノンとアーラカと僕の反応を見て、楽しんでいたらしい。
「「お前~~~っ!」」
エノンとアーラカが完全に怒っている。
誰かが代わりに怒ってくれると、逆に落ち着いてしまうもので。
「結局、お前は何で来たんだ?」
今日は研究棟に行くから付いてくるなと告げた時、うだうだ言いながらも一応了承していたはずだ。
「リティさんが研究棟に行くたびに、置き去りにされるのは寂しいなと思い直しまして。やっぱり来ちゃいました~」
「お前の気まぐれのせいで完全に話が逸れた。しかも今、お前の信用度は底辺だろうな」
「それなら俺が悪さしないかどうかを、ず~っとリティさんが見張ってればいいんですよ」
「見張り役が僕じゃ、お前に問題ないと言ったって信憑性がない。ここへ入って来た時に聞いていただろうが。僕はお前達兄妹が悪用しない・漏らさないと、考えている側なんだから」
そうすると、エノンかアーラカが見張り役になるのか?
う~ん?
すぐに気付かれて、撒かれてしまうんじゃないだろうか?
結局のところ無駄足になりそうだから、その役目は必要ないのではと思っていると、頬擦りついでにリップ音付きでキスされる。
「あのな。いつもの恥じらいはどうした?」
怒りが削げ、呆れて溜め息しかない状態になるくらい、エノンには見慣れてしまった光景かもしれない。
が、アーラカに対してはタッゾが恥じらってもいい場面だと思う。




