56・回想(47)
今日も杖が消えてない。
ここ数日、毎朝出会い頭にエノンから無言で訴えられる様になってしまった。
でも何で杖は消えないんだ?
これまで作った微少魔石は長く持っても、2・3日で消えていたのに。
「今日はアーラカと約束してる日だから、相談? してみるよ。エノン、杖を返してもらっても……」
作り出した一見、木の棒な杖が、いつまでも残り続けるのは僕も何だか恥ずかしい。
なので。
エノンから杖を返してもらい、アーラカに実物を見せた後、可能ならラァフに食べてもらって証拠隠滅してしまいたかった。
「なら、オレも行くっ!」
だが、目論見はあっさり崩れた。
「大丈夫だよ、エノン。アーラカに見せれば何とかなるだろうし、1人で行くよ」
そう悪あがきをかねて声を掛けたが、
「アーラカに聞きたい事もあるしさっ」
そう返してくるエノンの視線は、硬い決意を出しており、全く聞いてくれそうになかった。
というわけで、今日はエノンと2人で研究棟へ向かう。
「見てくれ、アーラカっ! この杖、リティにもらったんだッッ」
「良かったねぇ~、エノン」
入るなり、まずは自慢だとばかり、エノンがジャジャ~ンッと杖を高らかに掲げる。
もしかしてアーラカは僕からだけじゃなく、エノンからも自慢話を聞かされたりしているのだろうか?
一方、木の棒を見せられた事になるアーラカは、微笑ましい表情だ。
エノンから自慢気なこんな姿を見せられたら、僕だって同じ様な表情になっているところなのに。
プレゼントしたのが自分でさえなければと、返す返すも口惜しい。
「良かったけど、良くないんだっ。これ、リティが、微小魔石から作ったんだよっ」
「アーラカ。聖域の、微小魔石で、だから」
「聖域を出たら消える、もうすぐ消えるって言って、もう何日になるんだよ、リティっ?」
「それは、その……」
自力じゃないからと追加を入れたのだが、藪蛇だった。
言葉に窮していると、エノンと僕の様子を見ていたアーラカの表情が真剣なものに変わった。
「エノン、落ち着こう。始めっから私に説明してくれるかい?」
「もちろん。それもあって今日は、オレもアーラカの所にお邪魔したんだ」
エノンがアーラカに聖域での事から話していく。
「ホントなら今頃、卒園試験に向けての緊張とかしててもいいはずなのに。オレが居ない場所でリティが何かやらかしてるんじゃないかって、もう心配でしょうがないんだ」
「エノンが卒試を受ける話は初耳だけど、それじゃそうなっちゃうよなぁ~」
エノンとアーラカから視線を向けられた。
「面目ない?」
そう僕が答えた途端、2人から同時に分かってないと首を軽く振られた。
解せぬ。
「私も分かるよ、エノン。この前ここに来た時のリティも、止める間もなく作っちゃった物があって」
「それって、オレも見ていいヤツ? とにかくリティは自分がどれだけの事をしてるのか、自覚が全くないんだ」
「瞬く微小魔石だったんだけど、それはもう消えちゃったんだよ。うぅ~ん、どうするか……」
アーラカは悩み出しているが、僕はその言葉に溺れた時の藁を見た。
「やっぱり聖域の微小魔石製だから、何日も持っているんだ。それ以外に考えられない」
と思ったのだが。
またしても、エノンとアーラカから首を横に振られる。
「冷静に説明出来そうにないから、アーラカに任せたっ」
「引き受けたよ、エノンっ」
どうして、こんなにツーカーなんだ?
2対1で、何だか妬けてくる。
「形が持つ持たないも、確かに問題ではある。が、リティ。聖域の微少魔石のもの限定だったとしても、しっかりしたイメージ図さえあれば、物凄い短時間で、リティは何でも作り出せるという事になるんじゃないかい?」
アーラカの声の重みから、悪い方向の意味でというのが伝わって来る。
今回はイメージが適当だったせいか、木の棒みたいになってしまった。
でも杖が作れたという事は……。
もしかしたら、他の武器も作れてしまうかもしれない。
もしかしたらだけど、凶悪さを加えた物を。
だけど、そんな物。
「作る気がない」
人の命に関わりそうな物、恐ろしくてとても無理だ。
「普段のリティなら、そうだろうね。でも、もしも……エノンが人質に取られていたら?」
「「……っ」」
「うわぁ~~~えぇ~っと、ごめんッ! 例えが悪かったッッ。2人ともそんな顔をしないでくれ……」
アーラカの言葉に、ついついエノンと息を呑んでしまった。
なぜなら、実際にそうなったら僕は……いや、大丈夫だ。
例え1人の時を狙われたとしても、エノンにはラァフが憑いている。
だから大丈夫だ、大丈夫。
「いや。ありがとう、アーラカ。分かりやすかった」
「うん、説明任せて良かった」
「あ~~~~~」
例えに使われたエノンも、意外なほど落ち着いている。
むしろ今、1番動揺しているのはアーラカだろう。




