50・回想(41)
次の日から、僕は図書資料棟へと通った。
聖具に関するものが書かれた書籍を見つけては、ひたすら漁って目を通していった。
何冊か読み込むと、聖具には色々なタイプがある事が分かってきた。
まずは場所。
だいたい聖具は、一定の場所から動かない事が多い。
この前の聖杖の様にダンジョン内に封印されていたりもあるが、基本的には神殿に保管されていたり、どこかの宝物庫内に秘匿されていたりする。
だが何事にも例外は存在する。
その最たるものが、突然その使い手の目の前や手の中に出現した聖具だ。
今回探した資料で、そんな聖具もあるとの記述された書籍で知る事が出来た。
聖具の使い手が伝説級となって久しい今日でも、聖具は自らの使い手以外にその扱いを許さないと、世間一般に知れ渡っている。
いくら誰かが聖具という力を望み欲しても、聖具にその気がなければ選ばれない。
逆に全く思いもしない時に、聖具から選ばれる事もある。
中でも特に有名どころは、やはり片手剣だろう。
選ばれた者にしか台座から抜けない剣。
王道である。
聖具の形状はさまざまで、片手剣以外にも両手剣や短剣等の刃物類・鈍器・弓そして、杖といった武器だけではなく、防具や装飾品、農具、果ては台所用品まで聖具として認められている。
備わっている力も、それぞれ特徴のある力を放っていた。
僕が書籍を読み込む限り、聖具は物をいう形を取った、魔法の様だった。
それまでガラクタとして扱われていた聖具が、その使い手が現れた時、まさに異彩を放った。
中でもなぜ片手剣が聖具として一般的に知れ渡っているのかというと、よく権力者の交代劇や魔王討伐に、片手剣の聖具が使われたからである。
当然片手剣の聖具の使い手達は、その時代の権力者達に象徴として取り込まれ、聖具も権力の象徴の1つとして代々受け継がれていった。
今でも王侯貴族や神殿などが、家宝や宝物として奥深く仕舞い込んでいる。
だが、もともと聖具は大きな事件が起きる起きないに関係なく、使い手を選ぶ事も書籍から読み取れた。
特に片手剣以外の他の形状の聖具が現れた時代には、争いがない平和な時代な事もあった。
聖具の使い手達の中に、平和を満喫し、その生涯を終えた者もいた記述を見つけた時、僕は本当にほっとしたものだ。
もし大事件が起きる時にしか聖具が現れず、その聖具の力でしかその件が解決出来なかったとしても、もう聖杖はない。
ダンジョン内にあった聖杖は、ラァフが食べてしまった。
しかも聖杖に選ばれ、起きていたであろう大事件に巻き込まれていたら、どれだけエノンが苦労するか計り知れない。
神殿に囲われるよりも、ふざけるなッである。
僕はエノンと平和にのんびり過ごしたいのであって、大事件に巻き込まれ、ばたばたする気はま~ったくないのだ。
図書資料棟から貸し出してもらった書籍を積み上げ、ほっと僕は一息ついた。
教室の窓からエノンが居るであろう温室を眺める。
「そろそろ温室を手入れした方が良くないか?」
「何でです、リティさん?」
「兄のお前と違ってレミは綺麗なものが好きなんだろ? 温室も綺麗な方が良いんじゃないのか?」
「気に入らなければ、レミが綺麗にしますって」
「そうか」
まあ、レミが手入れを始めたら手伝えばいいな。
そう考え、また本に没頭する事にした。
聖具についての資料を探し始めた時、僕は図書資料棟で見つけた書籍を読んでいた。
だが数日後には、不満を前面に出したタッゾが気付けば目の前に座っていた。
その時の僕は資料集めに夢中で、全くタッゾを構わずにいた。
そしたら今度は、べったりくっ付いてきた。
僕の肩に頭を置いてきたり、がっしり腰を抱えてきたり。
それでも資料を漁り、目を通す事に夢中だった僕は、タッゾの存在をスルーした。
「タッゾ、重い」
たまに一言発したが。
あの時、少しだけでもタッゾに構ってやれば、今でも僕は図書資料棟で資料漁りが出来ただろうか?
いや、無理だな。
棟内は私語厳禁だというのに、しきりにタッゾは話し掛けて来る。
しかも揚句には体当たりでちょっかいを出され、僕は本をゆっくり読めなくなった。
しかも、駄目押しのように、
「いい加減に構ってくれないと、暴れますよリティさん」
何とも恐ろしい台詞をささやいて来る。
仕方なく僕は妥協した。
貸出禁止以外の本を借りて来て、温室の見える教室に持ち込み、タッゾを背もたれにゆっくり書籍を読む事にしたのだ。
今読んでいるのは、聖獣と聖具の関係が書いてある書籍だ。
数多ある伝説の中には、聖獣と聖具に選ばれた人物もいた。
しかし、聖獣と聖具の関係性が載っている書籍はあまり見つけられなかった。
聖具の器からしか聖獣が魔石を食べなかったとか、聖具の止まり木しか聖獣が掴もうとしなかったとか、記述があるのはそれくらいだ。
とりあえず書籍上は、ラァフの様に聖具を食べた聖獣はいない。
それともスエートにある資料に記載がないだけなのだろうか?
僕は思わず唸ってしまった。




