48・タッゾ⑤
だがちょうど園で、3日間の校外学習とやらの行事の話が出た。
大して面白くなさそうなのに参加して、3日間もリティさんに会えないなんて認められない。
当然俺はサボる気だった。
それでも、リティさんにサボるなと言われたので、参加後のご褒美を取り付け、渋々参加してみた。
園でやっぱり学ぶ事がないとの思いが、ますます強くなっただけだった。
元々これまで俺達がこなして来た事の、思考的裏打ちが得られるかもと、覗くだけ覗いてみるか~程度に考えていたくらいだ。
園の講義で習う魔物は、一般的に知られているものばかりで、もうすでに倒し方は分かっている。
魔物の名称や特色には俺は興味がない。
俺にとって魔物とは殺られる前に倒すだけの存在だ。
まして聖獣や、災害級の魔物が出現した云々の歴史の講義は眠くなるだけだ。
知らなかった体術を行い、武器を扱うのは、初めのうちこそ目新しさもあって、取り入れる気になった部分もあった。
魔術も、属性が何だとか、効率よくだとか、効力がどの等級なのかとか、色々講義で言われた。
だが俺は考えず、実践で試せるだけ試した。
でも結局、俺の場合は自己流の動きが出来上がってしまっているようで、新たに取り入れた武器も魔術も、どうにも攻撃の流れがぎこちなくなってしまう。
少しだけ取り入れた体術もあるが、結局のところ武器は元通りの攻撃方法に戻っている。
魔術も新たに何個か覚えたが、その時々で使えるものを使えばいいんでないかな~と思う。
講師に推されて、少しだけ上の級の講義も覗いてみた。
リティさんのクラスメイトという響きは魅惑的だったが、同じ教室内にいると意識が固定されてしまうので意味のない講義である。
しかも講義中は、お貴族様がのさばっていて笑えた。
あれ?
リティさんもお貴族様のはずだよな?
しかも、相当ご立派な上流のお家柄らしいのだが……う~ん?
もしこの国の一般的なお貴族様があの、のさばっているお貴族様だというなら、大した事はない。
あんな奴ら拳1つで黙らす事が出来る。
だが、リティさんは全く講義に対する態度が違う。
着実に講義内容を自分の知識にしていっているのが分かる。
これから先、万が一園で得られそうな知識が必要になったとしても、リティさんが俺の側に居てくれれば大丈夫だろう。
己が無駄と感じるものに拘束されるのは、俺にとって苛立ちでしかない。
しかも寝てしまうくらいの講義に出席するぐらいなら、俺は狩りまくっていたい質である。
ぜひともリティさんに働き者だと褒めて欲しい。
ただ講義をサボって制度仕事をしていたと告げると、逆に叱られそうなのが悩みどころだ。
俺にはリティさんだけだ。
そして、リティさんにとっても俺だけにすべく日夜邁進していた。
それが気付かないうちに、捨てられ掛け。
蚊帳の外に置かれて、リティさんと雛の長年の絆を、しかも目の前で見せつけられる羽目になるなんて。
これまで体だけの関係がざらだったのに、リティさんに対しては心も含めた全てで混じり合えたような気になっていた。
本当に俺の存在を受け入れてもらえたと、思っていたのに。
妬いて、その実、ヘコんでいた。
けれどそんな風に正直カッコ悪い己を見せたら、リティさんが更に俺を不要だと切り捨てて来るのではないかと恐れた。
そうされない為に、もっと己が役立つ存在だと示せれば、今回のような事にはならないだろうと思ったのだ。
だから自信のあった魔物退治に、ちょくちょくリティさんを誘った。
まあ、ほとんど付き合ってくれなかったが。
だが、リティさんが一緒に行ってくれた時に限って、倒した魔物の魔石が、常とは異なる事に俺は気が付いていた。
だから何かあるとは思っていた。
今回はレミの希望で、雛同伴の遠出。
周囲に気を配りつつも、情報を得るべくちゃんと耳はリティさんと、仕方なく雛の声も拾う。
そして内心俺は驚いた。
雛に憑いている人外が、どうやらリティさん絡みらしい事。
そして雛は自分に憑いている人外なのに、その存在に確証がない事。
なのに、リティさんにはその人外が見えているらしい事。
しかもその人外への視線が、時々雛に向けているような柔らかさだとか……。
さすがにイラつきのネタの宝庫。
チラッと殺気の視線を雛に投げてしまった。
リティさんが憑き主の雛にさえ、存在しているらしい人外について秘密にしているようなので、俺は口にしなかった。
わざわざ俺が雛に教える義理はない。
だが結局俺は、リティさんと雛の仲睦まじさに、露払い役として出向いたダンジョンで、嫉妬心が抑えられなかった。
半ば強制で、リティさんを腕の中に囲い込んだ。
リティさんと雛の関係に、表面上は邪魔出来ても、本当の意味では割って入れない。
今までも、これからも。
誰から言われずとも分かっていたのに。
だから例え怒りという感情であっても、俺を見て欲しかった。
なのに、また、リティさんがっ!
俺に揺らされてばかりだとか。
見限らない俺が悪いのだから、お互い様だろうとか。
それは違うと声を大にして訴えたい。
確かにリティさんはそう思っているのだろう。
だけど、リティさんは俺だけに揺れているわけじゃない。
絶対に俺の方がリティさんに乱され、手の内で踊らされている。
でもご褒美もついてきた。
てっきり雛の前ではしてくれないだろうと思っていた、リティさんからのキス。
信じられなくて、でも感触は本物で。
嬉し過ぎて。
もう俺はご機嫌の絶好調で、バンバン露払いに勤しんだ。
神殿跡についてからも俺のウキウキは止まらなかった。
天井や壁からの明かりに照らされたリティさんはキレイだった。
雛はレミが連れていったし、のんびりムードでリティさんを眺めていられた。
なのに、急にリティさんの様子が一変した。
またかよっ!
良い雰囲気だったのに、また雛が邪魔しやがった。
もし神鳴りの様な強制力のある声で、リティさんが止めなければ、レミの言う通り、雛は聖杖に選ばれていたのだろう。
それが何だというんだ。
俺には全く関係ない。
ただリティさんの意識が雛一色に染まるのが認めがたい。
俺に向いてほしかった。
でも俺に指を舐められても、嫌がるわけでも、感じ入るわけでもなく。
リティさんにしたら、本物の犬が舐めているという感覚なのだろうか?
つれない、つれな過ぎるッ!
それでも、リティさんが俺を飼い続けてくれるなら。
もしリティさんが俺に対して、特別な……有り体にいうなら、恋愛的な感情を持ってくれなくても。
別にいいんじゃないかと思えるところまで、俺は突き抜けてしまった。
でも、なぜ聖杖が消えたのだろう。
リティさんは知っているっぽいが。
だがリティさんが言わないのなら、俺もそれに倣うだけ。
後でリティさんとの細々とした取引材料に使わせてもらうけど。
これからもリティさんと雛との事で、俺は妬くし、警戒するし、邪魔もする。
もちろん精一杯、全身全霊でリティさんの気を引こうと俺は頑張る。




