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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
47/100

47・タッゾ④




 知れば知るほど、リティさんの口は硬い。

 飼い主の悪口は言わない主義らしい。


 リティさんが一族にではなく、両親にコンプレックスを持っているだろう事は、情報を集める中で想像が付いた。


 でもリティさんは飼われているんじゃなくて、飼われてやっているだけだ。

 リティさんは飼われてやっていて、俺は飼われたい。


 俺は聖人君主なんて信じられない。

 いくつもの美談が語られていようとも、必ず自己中心的な部分があるに決まってる。


 誰だって1度は誰かを恨むだろうし、死んじまえとも思うはずだ。

 そう思うだけじゃ収まらなくて、色々な形で表現したり、爆発させる奴もいる。


 それなのにリティさんはまるで、不満を感じてしまう己が悪いとでもいうように、それらの感情を内へ内へと沈み込ませて、表に出す事を罪悪だと考える。


 その上、リティさんは優し過ぎる。

 人間、最終的には己が1番大切。

 くれるっていうなら、金はせびれるだけせびって、後は突っぱねるか無視だ。


 それで親がどう思おうが、傷付こうが知るかって感じだ。

 リティさんを寮に放り込んだくらいだから、傷付く様な印象もない。


 そんな風に出来るほど強くないだけだと、リティさんは答えそうだけど。


 それならせめて、理性を保ち続けて来ている己をもっと誇っていい。

 雛という存在がいたとしたって、己をコントロールしているのは、リティさん自身の力なんだから。


 む~。

 俺も雛みたく、もうちょっと癒し系な外見だったら良かったかも。

 そうすれば己の存在自体で、リティさんを和ませる事が出来たはずなのだ。


 俺の頭だって、あんな風に撫でてくれたかも知れない。

 リティさんを誘拐する前に見た光景を思い出し、らしくない、非常にらしくない考えまで出て来る。


 八つ当たり半分に。

 俺は向かって来た魔物を必要以上の力を込め、引き裂いた。

 これが人間ってもんでしょ~。




 全く、リティさんの自制心には敬服するばかりだ。

 それでも昨日の去り際を見るに、精神状態はかなり疲弊しているはず。


 さぁて。

 一体どこから突くべきかと考え、決める。


 そしてそれは当たっていたわけで、表面上はいつもとほとんど変わらないのだが、リティさんが揺れている事は間違いなかった。

 リティさんはどうやら、俺に罪悪感を感じている自体も、気付かれたくなかったらしい。


 気が付けて良かった~。

 秘密主義反対~ッ!


 俺に対して、そんなものは必要ないのだと、ひたすら押しの一手を貫いて、静かに名前を呼ばれた時。

 ようやくリティさんが俺の意を受け入れ、折れてくれたと思ったのだが……。


 何、何、何ッ?

 何でキス?


 いきなり逃げる事は許さないとばかりに引き寄せられて、リティさんの顔が近付き、もう訳も分からないうちに唇が重なった。

 リティさんの目は閉じておらず、従ってそれに釘付けになった俺も見開いたままで、その行為を受け続ける。


 リティさんの手の内に落ちているのは俺で、この状況に流されているのも俺だった。


 普段の感情を完全に押し殺している時も悪くはないのだが、どっかキレてる時のリティさんの方が数段好みだったりする。

 どんな状況下にあっても、不屈の精神を捨てない強さを瞳に宿し、その圧倒的な存在感で俺の本能を追い立てる。


 我が物顔に入り込んで来たリティさんの舌が絡まり、それに劣らぬ激しさで応じながら、このまま嬲り殺しにされてもいいような気さえした。


 なのに、突き放されて。


 ふいに離れた唇を惜しみ、誰かの名前を呼ぶ日が来るなんて。

 じっと見上げられただけで、震えてしまう己がいる事実も。

 つい数ヵ月前までは、笑える発想でしかなかった。


 瞳と同じく、憎々しげに聞こえて来る声にうっとりする。

 もしリティさんが本気で俺を排除したら、今度は無視も出来ないくらい、思いっ切り憎まれるのも楽しそうだ。


 ……って、まずい。

 完全に場をリティさんに掌握されてるじゃないか。


 受け入れてくれなくても、ましてや折れてくれなくていい。

 今ここでリティさんに言うだけ言っておかないと。


 ちゃんと俺の気持ちを伝えておかないと、なぜかリティさんに捨て置かれる未来しか見えない気がした。

 リティさんを失うとか、恐怖でしかない。


 軽口を叩くふりをしながら、何とか、そりゃ~もう本気で、態勢を立て直したというのに。

 リティさんが全く想像もしていなかった方向に、突っ走って行くから。


 素で拗ねてるんだよな、これ?

 あ~、すっげぇかわいい。

 このままどっかにお持ち帰りしたい。


 今思い返すに昨日は一瞬、恥ずかしがっていた気がする。

 餌の時間にだって、そんな素振りは見せなかったっていうのに。


 しかも何で、さっきの今で、この態度になるんだよっ?

 気が付けば、俺は吹き出してしまっていた。


 睨まれたけど、きっと俺にだけの顔だなと思って、俺は。


 あ~愛しいって、こういう感情なのか~と。

 昨日キタ何かが、何なのかを自覚した。


 う~ん、憎まれたらこの可愛い表情は見れなくなるなぁ。

 最後の最後の、本当にどうしようもなくなった時だけにしよう。




 もし俺が釣られた魚なら、ホントは放置しようが破棄しようが、リティさんの自由にしていいのだろう。

 が、リティさんの場合これを言うと、これ幸いと俺を放り出し兼ねないので、絶対に口には出さなかった。


「さっさと芸の1つでもして見せろ」


 放課後リティさんが迎えに来てくれて、それはもう驚いて、じ~んと感動すらしていたのに、コレだ。


 芸とはつまり、虫ヨケの事。

 それでも、雛の前ではさせてくれないんだろうな~と思う。


 こうなったら思う存分、リティさん狙いのうるさい虫へと見せつける為に、とことんベッタベタにやってやる。

 役得、役得~っ。


 あとで、闇夜に背後から襲撃が来るかもしれないが、全部返り討ちにしてやる。

 それでリティさんが手に入るなら安いものだ。

 リティさんは、雛じゃなく自分が好かれてる事に全く気付いてないからな。


 ホント適わない、この人には。

 実際に溺れているのは、俺の方なのだから。

 俺に抱き寄せられ、リティさんが満足そうに微笑んだ。


 例え思惑があったとしても、リティさんとこうしているのは事実。

 お互いの表情は目を閉じた瞬間に消え、後に直接的な感触だけが続く。


 本能が暴走したら、リティさんが止めて来るに違いないので、俺はその感触だけに骨の髄まで浸ってしまう事にした。

 そして、……案の定だった。


 その直後のリティさんからの希望には、耳を疑った。

 リティさんは1人暮らしの男の家に行くのが、どういう意味になってしまうのか全く分かっていない。


 俺はリティさんを大好きですと宣言しているし、愛してますだって、今言った。

 しかも、ここで俺が断れば他を当たる気満々らしい。


 どう考えても危険過ぎる。

 最悪、虫ヨケした意味がなくなる可能性だって……。


 その先の事は、想像だけでも許せない。

 黒い感情が沸き上がる。


 しっかり理解してもらわないと。

 いや、リティさんには実地体験してもらう。


 俺はリティさんをお持ち帰りし、じ~っくりと話し合いをした。


「定期的に魔力の残滓を付けとかないと、マズイんじゃないですか?」

 で、リティさんをその気にさせた。


 世間知らずが判明したリティさんは、そこら辺の知識も曖昧らしい。

 正直、俺も真偽は疑っている。


 ただリティさんの不安を煽る事には成功したらしい。

 俺は定期的に餌の時間を作ってもらえるようになった。





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