45・回想(40)
もう1度、視線を板に戻したアーラカと僕は呟き合う。
「なぁ~、リティ?」
「何かな、アーラカ?」
「私の気のせいじゃなければ、ゆ~っくり瞬きながらキラキラしてないかい?」
「奇遇だな、アーラカ。僕にもそう見えるよ」
僕がそう答えた途端、アーラカが心外な事を言い出す。
「何したんだ、リティっ?」
「いや、待て。これは僕のせいじゃなくて、暗い所で見たのが初めてだからだろう。やったなアーラカ、新発見だっ!」
「待つのはリティだっ! ……落ち着け~私、やれば出来る」
深呼吸を数回繰り返し、アーラカが微小魔石を作り出した。
「ほらっ! キラキラはしてるが、瞬かないじゃんかっ!」
「え? 本当だ、う~ん?」
アーラカを真似て、僕は自分でも微小魔石を作ってみた。
なぜだ、瞬かないぞ?
「力の込め具合は変えてないはずだ」
「じゃあイメージの方だな」
たまたま偶然出来たで、すぐさま片付けないのがアーラカと僕だ。
アーラカが僕を尋問して来る。
「さぁ~答えるんだ、リティ。作る時に何か考えていたんだろう?」
「正直にか、アーラカ?」
アーラカに大きく深く頷かれた。
思い当たる事は1つだけだった。
「作る時じゃないんだが、その前に少々」
「少々。何を? 吐け~っ。全部吐くんだ、リティっ!」
「昨日行ったダンジョンにあった、瞬く、空間を思い出した」
「それだ~~~っ! どぉ~~~考えても、それしかないっっ。 これで分かっただろ、リティ?」
一体、何が分かったというのか?
アーラカの言いたい事がさっぱり分からず、僕は首を傾げた。
「リティはイメージの具現化能力が高いって事が、だよ」
今度は探る様にではなく、結論を出されてしまった。
「……薄闇でこうして話していても、何だから。明るくしていくよ」
外光の遮断から僕はゆっくり解いていった。
「せっかく試しを行ったんだ。どの板が良かったかの感想を出そう、アーラカ」
「そうだな」
意見の取りまとめは簡潔に済んだ。
「僕はこれが好きだな」
「私も同意見で」
「壁一面の時も、瞬いた方がいいと思う」
「それも同じく、かな」
同意の言葉しか出ないアーラカの頭の中は今、他の事でいっぱいらしい。
取りまとめが終わった途端に言い出した。
「というわけでっ! 次の議題」
「はあ」
「リティの具現化能力について~。はい、リティの見解は?」
「え~? 僕の具現化能力が高いと仮定して……」
「異議あり! 仮定じゃない。本当に高いんだ」
「……そうだとしても魔力が低い以上、僕が中級の魔術までしか使えないのは変わらない。それじゃ意味がない」
同じ中級内ではイメージで多少効力は上がるかもしれないが、それだけだ。
乞われるままに答えたのだが、アーラカがむっとする。
「クソな親族にはそうだろうが、少なくとも私には意味があるっっ。微小魔石にとっても大有りだっ!」
「微小魔石には、まぁ……そうなるのか?」
「リティ、ウザがられるのを承知で言う。やっぱり一緒に共同研究をしようっ!」
「そう来ると思ったよ、アーラカ。でも、ごめん。今回みたいなお手伝いだけにしてほしい」
プロポーズもどきをされる前の言葉を僕は言った。
すると、アーラカが目に見えてがっくりした。
「私との研究がエノンに負けたぁ。そりゃ、エノン相手だもんな~。勝てるわけないよなぁ~」
「そういえば、アーラカ。話は戻るんだが、どうしてエノンは微小魔石の実用化について話さない方がいいと言ったと思う?」
再度訊ねると、アーラカが一気に真面目な顔をする。
「それはリティも知っての通り、微小魔石は新しい分野の研究になる」
「うん」
「これまで魔物からしか入手出来なかった魔石が、自分達で作り出せるなんていう発想がまずなかった」
「アーラカの言い方が大袈裟だけど、そうだろうなぁ」
「これは立派な大事件だ、リティっ! しかも転用可能となったら、どうだっ?」
「どうだ? って、どうなんだ? 面白いっ! で、終わりじゃないのか?」
魔物が落とした魔石はせいぜい削るくらいしか、形は変えられないけど、だからって?
さっぱり分からずに問い返した僕に、アーラカから見覚えのある表情を浮かべられた。
僕が1人暮らしをしたいと言って色々話を聞いた時に、皆が隠しながらも浮かべていた表情だ。
「え? まさかこの件も、僕が世間知らずだっていう話に繋がるのか?」
「全く新しい世界を変える偉業を成したと、名声が轟くだろう。研究費も下りて……あ、これはどうでもいいか」
「世界って、そこまで凄い事か?」
微小魔石という名が付いたとはいえ、ただの埃にしか見えないキラキラが?
「エノンが心配してるのは、偉業に必要不可欠な固定化が長くもつ微小魔石を、今のところリティにしか作れないって事だと思う」
「だから、それは。コツが掴めればアーラカにも」
でもアーラカには首を横に振られてしまった。
「もちろん練習は続けるけど、私には無理だと思うんだよなぁ。実用化出来れば、お金も人も集まって、リティと同じ能力を持った人材も見つけられそうだけど、それまで微小魔石は実質リティ1人が作り出す事になる」
アーラカはあくまで真剣に続けて来た。
「微小魔石の件を独占したい様な質の悪い所へその情報が流れたら、リティは狙われるかも知れん。それを考えると、家の庇護から離れる真似をしたのは少し早まったかもなぁ」
「……」
「怖い話でごめん、リティ。私も誰にも言うつもりはない。けど研究を続けたら、もしかしたら起り得る話ではある。作るのが嫌になっちゃったかい?」
「ごめん、まだピンと来ない。少し考えてもいいか、アーラカ?」
「ああ。急いてしまって本当に申し訳ない」
なんて言いつつアーラカは、次に研究室にお手伝いに来る約束を僕に取り交わしてきた。
すべてが中途半端な状態だったが、今日の手伝いは終わりにして僕が帰る事にした。




