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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
41/100

41・回想(36)




 ラァフが聖具を食べた?

 口の大きさと合っていないのにも関わらず、ラァフが啄んだ途端、杖が吸い込まれていくところを目撃してしまった。


「な~~~いッ! え、どうしてッ? どこにいっちゃったのッ?」


 聖具が消えている事に、まず気が付いたレミが騒ぎ出す。


「あれッ! ホントだ、ないッ!」

「え~~~っ! うそ~~~っ! もしエノンが触れるなら、あの杖を持つエノンを見たかったのに~~~っっ」


「レミ、願望漏れすぎ」

「今の感じ、エノン絶対に杖に触れてたッ! あんた、何かしたッ?」


 当然、レミから疑惑を向けられた。

 僕、そう僕は。


「叫んだだけだ」

「む~~~。確かにそうなんだけどッ! 何か納得出来ないッ!」


「そもそもリティは何で叫んだんだ?」

「エノンが聖具ごと神殿に捕られると思ったら、つい」


 またエノンが理由を尋ねてくれたので、僕は答えた。

 僕の答えが不思議だったのだろう、レミも聞いて来る。


「捕られる? どういう事?」

「聖具に選ばれた、聖人は神殿に囲われる決まりだったはずだ。申請しないと面会も出来なくなるんだ、レミ」


「嘘っ。あたし、そんなの知らない」

「聖具と、それから聖獣に憑かれるような人物が、もう伝説級だから仕方ない。ほとんど知られていないから、というか一般的に忘れられている」


 ラァフがエノンに憑いた時に調べたのだ。

 獣となっているが、竜も、それから鳳凰も、聖獣に入る。


 ラァフがひっそり憑いているのをいい事に、自分勝手な僕はエノンが聖人になる事を阻んでいるのだ。



「ところで、タッゾ。僕はなぜお前に指を舐められているんだろうか?」


「あ、それ。オレも気になってた」

「あたしは何となく想像付く」


「なぜって、また妬けてきたからですよ。ホントは口が良かったですが、怒られそうなので、手にチュ~でもしていようかと。で、リティさんの反応がなかったので、舐めてみました」


 タッゾが感情を我慢しなくなったのは、良い事のはずなのだが……。


 舐めるまでするのだろうか、普通?

 いや、しないだろう。


「うっわぁ。ヤバイのがいるっ! リティ、ホントにこんなヤツでいいのか?」


 唖然に続き、今度は呆然とする僕の気持ちを代弁するかのごとく、エノンがタッゾを指差した。


「ここまでされると、さすがに悩みたいところのはずなんだけど。残念な事に、こんなのだからいいんだと思う」

「やっぱり口にチュ~したいです。いいですよね、リティさん」


 タッゾのこれは確認ではなく、完全に決め付けている。

 でも僕は今、喋っていたい。


「拒否だ。それでエノン、さっきの続きなんだけど」

「え、この状況でリティは続くの? しかもオレ?」


「つい悪く言ってしまったけど、行動が制限されるのは、聖人があちこちの権力に振り回されない様にする為だと思う。きっと大切にしてもらえるよ」


「何が言いたいんだ、リティ?」


 本当は僕の言いたい事が分かっているのだろう、エノンがむっとした。


 その表情を見るだけで、これからする問いの答えも察せられたけど。

 それでもエノンの言葉で聞いておきたくて、更に続ける。


「杖は消えてしまったけど、エノンはなれるものなら聖人になりたい?」

「なりたくないっ。ないったらないっ!」


「本当に?」


「だ~か~ら~ぁ。オレはオレ自身が大切にされるより、リティを……ハイ、止めた! 怖いのが側にいるし、これ以上言わない。こういうのは何回も言うと、真実味が薄れそうだもんなっ」


 重い。

 これでも加減されているのだろうが、この場で押し倒さんばかりにタッゾが体重を掛けて来ていて、非常に重い。


 僕の状態を見て取ったのだろう、エノンが止めてしまった。

 きっと僕が何回聞いても嬉しくって、ぽわぁ~んとなる言葉が続いていたはずなのにっ。


「それにリティが止めてくれる前のオレ、何か変だった。意識が置き去りで、体だけ動いて手が杖に触ろうとしてた」


 自分の手を見て、戸惑いながらとエノンが言った。


 だが、すぐにきつく手を握り締め、


「聖具に選ばれるんじゃなく、もちろん他の誰かが言うからでもなく、オレの道はオレ自身で決めるッ!」


 そう宣言してくれた。


「うん、エノン。エノンなら出来るよ。答えてくれて、ありがとう」


 自分勝手で、欲深い自分が少しだけエノンによって、赦された気がした。


 でも、ごめんエノン。

 こうしてエノンの意思を聞いてもなお、僕はラァフの事を誰にも話す気になれないでいる。


 どうしてエノンは心から眩いのに、こうも僕は汚いのだろう。

 途端、エノンが心配そうな顔になった。


「ところでさ、リティは大丈夫? 特に今」

「あ~、駄目そう。助けて、エノン」


 心の醜さが表情に出たかと焦ったが、違ったらしい。

 今回は素直に助けを求めた。


「ダメで~す。リティさんは雛先輩には渡しません」

「そう思うなら力を弛めてくれ。もう少し軽く頼む」


「軽くしてたら、リティさん。雛先輩のところへ飛び込んでいってたでしょう?」


「それはお前の焼餅から見た予想だろうが。体重を掛けるなっ。お前が普通に抱き付いていれば済む話だろうっ!」


 眩いエノンには触れない。

 僕が触ったら、汚れてしまう気がするから。


 飼い犬志望が来てからしばらく忘れていたのに、久々に思い出した感情だ。


「普通にじゃ、俺の嫉妬心が伝わらないと思いまして~」


 と言いつつも、ようやくタッゾの重みが消えた。

 離してはくれないらしいが、今までよりはマシだ。


「そんな事よりっ! 何で杖は消えちゃったのっ? 兄さんはどう思う?」


 完全に杖の事から脱線してしまっていたが、ハッとしたようにレミがタッゾに問い掛けた。


「聖具的に雛先輩じゃダメだったって事だろ。んで。イイ線いってただけに、拗ねたくなって逃げた、と」

「そんな~っ! せめて、もうちょっと鑑賞したかった~っっ」


 嘆いているところ悪いが、レミが問い掛けたのがタッゾで良かった。

 もし問われていたら、きっと僕は分からないと嘘を吐いたに決まっているから。





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