4・回想(3)
園は国が運営する施設であり、何も魔法を扱える子供達だけがいるわけではない。
むしろ身寄りのない子供達を集めた施設に、魔力の扱いを教える養育者を常駐させ、魔力暴走を起こす子供用の、対応設備が併設されているという状況だ。
貴族階級や豪商などは、自宅や別邸に魔力暴走用の部屋を作り、養育者も招く。
そこまで徹底する事が金銭的に難しい家庭の子は、日中だけ魔力の扱いを習いに、園へ通いで通園した。
そういう事を認識出来る年齢になる・なっていると、身寄りのない子はもちろん、魔力を持つ子供も、寮に入っている自分は家族に捨てられたのだと思う。
そして、魔力持ちの子供にも対処出来る、家庭環境があるにも関わらず、寄付金と共に園に押し込まれたのは、僕1人ではなかった。
ただでさえ生まれてすぐに、園へと預けられた子供は、何も分からないまま親を求めて泣き続ける。
呆然とし続ける子もいれば、周囲の人や物に当り散らす子もおり、園は情緒不安定な子供が少なくなかった。
そんな園の子供達の内、僕が比較的落ち着いていられたのは、やはりエノンのお陰だろう。
初日に大泣きしていたのが嘘の様に、天真爛漫さを発揮させたエノンは、あっという間に周囲を魅せていった。
子供だけではなく、エノンに笑顔を向けられただけで、表情を和らげる大人も僕は数え切れないくらい見た。
始めから、僕だけのエノンではなかった。
なぜ僕ではなく、他の誰かと一緒なのだと、寂しさを覚えたりもした。
それでも、
「リティ! こっちこっち。早くーッ」
そんな風にエノンから名前を呼ばれるだけで、暗い気持ちは鳴りを潜め、一気に嬉しくなる。
その癒しの存在に輪をかけて、エノンは治癒の魔法を最も得意とした。
それも将来を有望視されており、本来ならエノンの能力が発見された時点で、スエートに連れて来られていても、おかしくなかったくらいに。
エノンは1人の対象者ではなく、1度に複数を治癒する範囲魔法が、行使出来るようになるのではないかと、期待されている。
なにせエノンときたら、どう的確に発動させるのかといった魔術の理論が、全く分かっていないにも関わらず、
「痛いの痛いの飛んで行け~っ」
で、ちょっとした掠り傷なら、完全に治してしまう。
たぶん僕の両親はエノンの様な、天賦の才能を持った子供が生まれる事を、期待していたのだろう。
始めてエノンの治癒魔法を見た時、僕は驚きと共に妙に納得してしまった。
そんなエノンの才能に妬みを感じなかったといえば、それは嘘だ。
けれど同時に、不安も覚えた。
飲めば傷を治癒する薬もあるにはあるが、治癒力が高ければ高いほど値が張るし、持てる量にも限りがある。
だからこそ、戦いに出るならば、やはり治癒能力を持つ者の同行が望まれていた。
戦いが厳しければ厳しいほど……。
話は横に逸れてしまうが園では、10歳までの生活費・教育費を無償で、国費や寄付金から賄っている。
10歳までに下働きや見習いとして社会に出て行くか、もしくは、より専門的な教育を求めて園に残る。
10歳を過ぎても、園に残った場合の生活費等は無償ではなくなり、支払不能な場合、無利子での貸し出しとなる。
貸し出しは、20歳までに返金しなければならない。
ただし軍に入隊し、5年間在籍した場合のみ、返金しなくても良いとされた。
ちなみにこれは10歳過ぎから、教育を求めて園に学びに来た子供達も同様だ。
つまり園は、軍へ人材を送る機関も兼ねている事になる。
群島国家と成った現在は軍の存在理由が、大規模な人間同士の戦争を行う為ではなくなった事は救いだろうか?
どちらにせよエノンは、戦場の医療班として期待されているのだ。
その事に僕は早くから気が付いていた。
エノンが戦場に行く?
激戦跡地の渦巻く瘴気を、僕は思い出す。
戦いに呑まれたエノンが、瘴気の一端を担う事になるかも知れないなんて、僕は絶対に嫌だった。




