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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
38/100

38・回想(33)




 とりとめなく僕とエノンが話している間にも、魔物は次々に倒され、僕達はダンジョンを快調に進んでいた。


「そういやリティ。暇な時だけでもいいから、ちょっと力を貸してくれないかってアーラカが言ってたよ」

「アーラカが? 何だろう?」


「この前リティを追いかけ回した件だってさ」

「ん~?」


 研究の誘いの件なら、すっかりカタが付いたと僕は思っていた。

 それなのにと、僕は首を傾げる。


「自分だけじゃ、材料を作るのが厳しいってさ」

「そうなのか?」


「らしいよ? でもアーラカの力でも作るのが厳しいって、何を作るの?」

「微小魔石だ」


 先程とは反対に、今度はエノンから首を傾げられた。


「微小? 何それ?」

「これだよ、エノン」


 ダンジョンなどの特別な環境下以外でも魔物が出現するという事は、気に留めていないだけで、普通に微小魔石が存在しているのではないか。

 話し合いを重ねているうちに、アーラカと僕はその考えに辿り着いた。


 今では、微小魔石を自力で作り出せるようになっている。

 手のひらの上いっぱいに作って、エノンに見せてみた。


「う~ん。何かがキラキラしているような~」

「うん、そのキラキラ」


「キラキラ?」

「ほら、魔物が倒れて姿を融かす時にキラキラするでしょう? あのキラキラ1つ1つが魔石なのが分かってね」


 途端、エノンが素っ頓狂な声を上げる。


「はあっ?」

「アーラカが調べてくれて、実用化が出来たらおもしろそうなんだよ」


「いや、実用化って?」

「糸状に生成すれば、魔術が込められる防御服が出来るし、塊に精製すれば、巨大な人工魔石の出来上がりだ」 


 驚いた後、エノンが難しい表情を浮かべた。


「リティ、その構想を誰かに話したりした?」

「あまりにも荒唐無稽な話だから、誰にも話してないよ」


「アーラカには?」

「実用化したらおもしろそう。ぐらいだな」


 何せ思い付くままに、べらべらとだったし。

 考えなしの僕なんかを共同研究にまで誘ってくれて。

 断ってしまったが、本当にアーラカには申し訳ない。


「……リティ。実用化になるまで、その構想はしゃべらない方がいい」

「そうだね。まず微小魔石の固定化が必要だしね」


 エノンは妙に真剣な表情で、僕の手のひらの上のキラキラを見つめている。


「リティの手の微小魔石は固定化されている?」

「魔物が融けた時に出る微小魔石よりは長持ちするから、半固定状態かな」


「アーラカのよりも長持ちする?」

「アーラカが手伝ってくれと言って来たなら、たぶん僕が作るものの方が長持ちなんだと思う」


 エノンが僕の手の形を真似して、更に問い掛けて来る。


「……微小魔石はどうやって作る?」

「え~と。僕は魔物が実体を融かす時に出るキラキラが全部魔石だと思いながら、力を込めているかな?」


 しばらく待ってみたが、エノンの手にキラキラは固定化しない。


「……出来ないんだけど」

「込める力の量が多いんだと思う。微小魔石は微小だけあって、1つ1つが持つ力は小さいから」


「……う~ん」

「小さな力を何十個に細かく分けて、その1つ1つが魔石になるイメージかな」


 アーラカや僕に出来ているのだから、エノンにだって可能なはずだ。

 単にまだコツが分かっていないだけで。


 雛のラァフが僕の足元をうろうろしだした。


 そろそろ時間切れかな?

 手のひらをそっと下に傾けた。


 その真下には、ラァフが大きく口を開いて待っている。

 和む。


 実は、実験用に出した微小魔石は、本当に時間切れで固定化が融けたもの以外、全部隙を見たラァフが啄み食べてしまった。

 アーラカが出した微小魔石も、ラァフは見つけ次第に啄んでいるのではと疑念が生じる。


 こっそり内心で、エサは美味しかったか聞いてみると、ラァフからは浮かれ喜んでいる心が伝わってきたから間違いない。


「あ、消えた」

 エノンが呟く。


 今のは時間切れではなく、ラァフが食べ尽した為だ。

 けれど僕は有り得そうな推論の中に、真実を隠してしまう事にした。


「力の込め方が違うのか、毎回微小魔石の持ち時間が違うんだよね」

「そうなのか?」


「うん。早く消える時もあれば、長く持つ時もある」

「へぇ~」


「イメージも大切だから、今度魔物が倒された時によ~く見てみて」

「うん」


 歩きつつ、タッゾとレミが魔物を倒すその手際を見ながら、ふと僕は疑問が沸いた。

 始めて来た場所で危険極まりない行為だと、理性が囁いているのだが、どうにも抑えられない。


 僕は自分の唇に人差し指を立て、エノンを見た。

 不思議顔ではあるものの、エノンが頷いてくれたのを見て、僕は疑問に対する実験を開始する。


 まずは微小魔石くらいの、魔力の塊を1つだけイメージして、そぅっと吹く様にタッゾとレミの後ろまで飛ばす。


 兄妹からの反応はない。


 さすがに小さ過ぎるのだろうかと、もう少しだけ魔力を加えて大きくしてみた。

 エノンにも見えたらしい。


 でも、兄妹からの反応はない。


 次は数を増やしてみよう。

 2つ、3つ……たくさん。


 あまりの反応のなさに、魔力の点で簡単な絵も作ってみた。


 太陽、月、星、雲、円、ばつ、花丸、色々なお花。

 まさに暇つぶしの、空中でお絵かき状態になってきた。


 とうとうエノンが横で笑い出し、それを聞き付けたらしいレミが振り向く。


「エノン? もうちょっとで、……って。何よ、これ~ッ!」


「おっと」

 僕はお絵かきを消去した。





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