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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
37/100

37・回想(32)




 暇だ。


 タッゾの黒灰から炎の赤へのグラデーションと、レミの白みを帯びた淡い紅色が陰影によって紫にも映る髪。

 そんな色の後ろを付いて行きながら、エノンと僕は目配せをし合った。


 エノンと、それから色に関してなら本当は僕も兄妹の事はいえないが、こうして改めて並んだところを見ると派手だと思う。

 毎朝、この髪の毛の色だけで既に人目を引いていたに違いない。


 ついでに目の色はまだマシで、兄の方がクリームに近い黄。

 妹の方は兄の目の色に、橙が加わった様な色合いをしている。

 まあ、近づかなければ目の色の詳しい判別など難しいから、マシも何もないんだが。


 そんな風にどうでもよい事を考えてしまうくらい、暇だ。

 頑張っているタッゾとレミの2人に申し訳ないので口には出さないが。


 入ってしばらくは異空間ダンジョンなど物珍しく僕はキョロキョロしていた。

 次々と魔物を倒していくタッゾとレミの手際に感嘆したりもした。


「今の見えた、リティ?」

「ちらっと」


 事前に雛に魔物の位置を教えてもらっているにも関わらず、僕は何の魔物だったか、どう倒されたかなど細かいところがさっぱり分からなかった。


 それくらい初手が早い。

 そしてほぼ毎回、その初手で魔物が倒れる。


 もしかしたら魔物の方も、こちらに気付く前だったという事も有り得るだろう速さ。


 身体強化も、防御も必要ない。

 防御壁なんて範囲展開したら、むしろ攻撃の邪魔でしかない。


 もし僕に出来る事があるとすれば、落ちた魔石や素材を拾うくらいだろうか。

 それでも兄妹の側から離れた所に落ちている物を、拾いに行く勇気は僕にはない。


 そんな僕に反して、雛は非常に勇気がある。

 タッゾやレミと離れていようが、倒された魔物が落ちた所へ向かっていく。


 いつもより断然上等な魔石を食べられるからか、先程から雛は輝いていた。

 その動き回る様子で、雛の上機嫌具合が良く分かる。


 そんな上機嫌な雛は魔石を食べる為に、魔物が倒されると猛突進だ。

 だから、いつもより早く一部の魔石が消えているに違いないのに、その事に対しても誰も何も言わない。


 雛の存在が僕以外に気付かれるなら、とっくに見つかっていてもおかしくないガッツキ具合である。


 誰も全く問題を指摘しないので、僕は雛が見つからないかハラハラしなくなってしまっていた。


 それどころか、ひょこひょこ雛が魔石を拾いに行く姿を見て、雛以外の人外を躾ければ収集係となりそうだと。

 拾いついでに、雛の様に食べてしまったりもありそうだが、拾いに行く手間がなくなる分だけ助かりそうな気がする。


 などと僕は考えていた。


 まあ、今僕の身近にいるのは人外の雛だけ。

 もし雛以外の人外が憑いていれば、また考え方も違ったのかもしれない。


 いや。

 今現在の僕自身が役立たずなのは変わらない。

 だから、雛以外の人外が居ようが居まいが結局きっと意味がないだろう。



 もしかしたら僕と同じ様な事を考えていたのかもしれない。

 エノンが僕に聞いて来た。


「なぁ、リティ。オレに人外が憑いてると思う事ってある?」


 思うどころか事実、エノンには鳳が憑いている。

 でも僕は言いたくないので、どうしようかと黙り込んだままでいると、エノンが続けた。


「オレはな~んか、いる気がするんだ。どんなヤツなのか見た事はないけど」

「そうなの? 本当にいるとして、エノンはどんなのだと思う?」


 つい好奇心で、僕は訊ね返してしまった。


「う~~~ん? とりあえず凄い気まぐれなヤツだと思う」

「えっ! 気まぐれ?」


 いけない。

 戦う兄妹を気遣い、ひそひそ話そうと思っていたのだが、つい声が大きくなってしまった。


 僕は雛に対し、エノンも守ってくれているし、こうして魔物の位置も教えてくれる。

 無邪気ではあるとは思うが、見掛けに反して義理堅いという印象を持っていた。


 どうやら、エノンと僕では捉え方が違うらしい。


「うん。あっちに懐き、こっちにも懐き。ついでに餌ももらって~な、猫系?」

「猫ねぇ」


 おお。

 懐いているかどうかは別として、エノン以外からも餌をもらっているという点では、確かに当たっている。


 だけど鳳を鳥系とするなら、鳥を捕食する猫とはちょっと相性が悪い。


 ごちそうを食べて機嫌が良かったはずの雛が、何やら足をばたばたさせて、地団駄を踏んでいる様に見えた。

 姿が姿なので、何やら微笑ましい気持ちになってしまう。


 でもそういえば密かに気になっていた事があったな。

 丁度良いし、この際だからとエノンに再度訊ねる事にした。


 実は、ずっと鳳が名無しな事に申し訳ない気持ちがあったから。


「猫かどうかは置いておくとして、もし名付けるとしたら?」


 こっそり憑く事で、誰にもその存在を知らせず、1人になりたいと思うエノンの負担に、鳳がなっていないのは有り難い事だ。


 だが本来なら名付けは憑いた時に行われるものである。

 僕がエノンに人外の鳳が憑いている事を教えなかった為に、名付けが行われなかっただけ。


 だからこそ、この絶好の機会にエノンに名付けをしてもらいたかった。


「憑いてるかどうかも確かじゃないから、考えた事なかった。どうしようかな~?」

「すぐに考えなくてもいいよ。ゆっくりで」


「今、考える。本当は憑いてなくても、いつか憑くかも知れないヤツ用」


 どうせ暇だし、という声にならないエノンの声が聞こえた。


 どうしよう、こういう時に雛の姿が僕にしか見えないのが厳しい。

 ちゃっかり魔石を食べつつも、思いっ切り雛がこちらを気にして、そわそわしているのが分かる。


 1番始めに会った時には、人間の言葉なんて分かりませんって態度だったのに。

 もしかして本当に生まれたばかりだったなんて事は……さすがに、ないな。


 1欠片の雛はともかく、大元の鳳の姿で実は生まれたてだとしたら、外見詐欺にも程がある。


 エノンが感情を爆発させる時以外、クールなのか何なのか鳳の感情はほとんど窺えない。

 鳳としては全く僕には寄って来ないので、ただ単に見た事がないだけかも知れないが。


「決めた。ラァフにする」

「僕も呼んでいい?」


「もちろん」

「ラァフか~」


 エノンが付けた名前を繰り返し呟いた時、僕は自分の頬が緩むのを感じた。


「何で笑ってるの、リティ?」

「え、何でだろうね? ごめん、気にしないで」


 本当に、どうしよう。

 大喜びらしい雛ラァフが床や空中を、上下左右ころころ転がっている。


 でも、これだけ喜んでくれているのだ。

 エノンに名付けてもらえて良かったと思った。





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