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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
36/100

36・回想(31)




 そういえば制度仕事以外で、列車に客として乗ったのは、スエートに来た時以来かもしれない。


 僕の横にはタッゾが、そして前にはエノンが。

 そして当然、エノンの横にはレミがという風に、4人で顔を合わせられる形で座っている。


 目的地は同じミンド島内のダンジョンで、兄妹が故郷からスエートに出て来た時に寄り道したらしい。


「素朴な疑問なんだが、お前達兄妹は王都にまで行こうとは思わないのか?」


 スエートはあくまで中継地点で、故郷を出たからには海を越え、王都を目指したくなるものらしい。

 僕にはあまりピンと来ないが、そんな話を聞いた事があった。


「もともと紹介されたのが、スエートの園でしたし。でもって俺達、それぞれ相手を見つけちゃいましたから」

「エノンと一緒なら、あたしは行ってみた~いっ! エノンは王都に行った事ある?」


「オレもない。王都、王都かぁ~」

 なぜかエノンが王都王都と繰り返している。


「エノン、王都に興味あった?」

「ん~、いや。でも、あるような~ないような~ん~~~?」


 しかも反応がいまいちだ。


「リティさんが行きたいなら、俺も行きます」

「行きたいとは今のところ考えてない」


 都へ行って王に御目文字もなかったし、そもそも最近まで園を出る時は、エノンと一緒に家に呼び戻される時だと思っていた。



 そんな事を思いながら列車にまで乗り、やって来たのは。


「どう見ても、曰く付きだな」


 入る前から雰囲気が、おどろおどろしい。


 それなのに内部がどうなっているのかが全く見えないし、音も聞こえて来ない。

 空気の流れすら感じられなかった。


「よっしゃッ! 今の術は成功したっっ」


 相変わらず物凄く簡単そうに発動させ、安定性もある魔術だと思う。


 だけどエノンの表情は嬉しそうで、レミの言っていた通り、本当にエノンの魔術が不安定なのだと感じさせた。


「これは?」


 エノンの魔力の輝きが一瞬、4人の体を包み込んだ事は分かった。

 しかし僕が分かったのは、そこまでだ。


「体力と魔力の回復上昇~っ! 軽傷ならすぐに塞がるよ。リティも何か魔術使ってみたら?」

「両方だなんて凄いっ。僕の攻撃魔術で通るかな?」


 タッゾを連れ出す為の餌だった僕だが、それでも少々ならどこかの場面で、役に立てるかも知れないと思っていた。


 が。


「リティさんと雛先輩はゆっくり20数えてから入って来て下さいね」

「「分かった」」


 タッゾが無意味にそう言っているわけがない。


 曰く付きダンジョンに入るのが、本日初である自分が反発してはならないだろうと、質問すらせずに頷いた。


 ダンジョンに手を伸ばしたタッゾとレミの姿が唐突に消え、驚いたエノンと僕は顔を見合わせる。


「うっわぁ。もしかしてこのダンジョン、別の空間に繋がってんのかっ?」

「説明しておいてもらえば良かった。エノンは他のこういう所、行った事ある?」


「ない」

「……悪いんだけど、エノン。手を繋いでもらってもいいかな?」


「うん、そうしよ」

 入る前から、エノンに手を繋いでもらう。

 暖かい感覚に安心した。


 うん、大丈夫だ。


「数え忘れてたけど、20、経ったよな?」

「経ったね」


「行こっか、リティ」

「同時に手を伸ばそう」


「「せぇのっ」」


 空間を越えたとは思えないくらい、何事もなくエノンと僕はダンジョン内に立っていた。

 すぐ近くには、タッゾとレミもいる。


「何で、手繋いでるのッ!」


 レミに目くじらを立てられたが、動じない。


「いや、だって怖いから」

「初心者なので、説明求む」


 中がこうなっているだろうと、予測していたのだろうか?

 タッゾとレミは入った途端、大歓迎とばかりに少なくとも10以上の魔物達に襲われたらしい。

 床には魔石と素材が散らばっている。


 しかも嬉々として、人外の雛が啄んでいく姿が見える。

 どうやらエノンや僕が倒した魔物でなくても、平気らしい。


 いつもの微小魔石だけではなく、目を凝らさなくても大丈夫な大きさの魔石まで食べている。

 手を触れなければ、いつかは消えてしまう物ではあるが、雛の存在が気付かれてしまわないかハラハラした。


「ここは元々、レミのいう綺麗な場所を守る為、別空間に封印されたダンジョンだと思います。だから出入り口は安定してまして、別々に飛ばされる事もないですし、帰りもここまで戻ってきます」


 色々なダンジョンがある事は園でも習った。

 でも知識で知っている事と、実体験するのでは違う。

 特に初めての時は。


「道が変形して、気付かずに同じところをぐるぐる回る羽目には?」

「急に床がなくなるとか、体が浮いて上下逆さになったりは?」


 なにぶん知識だけは、エノンも僕も大量に持っている。

 持っているから想像が働いて、逆に怖さが増すのかも知れない。


「内部も安定はしてるので、その手の心配は無用です。リティさんの最後の質問は浮遊してみたいって事ですか? なら……」

「お前と、窓から飛び降りるのはもういい」


 僕はタッゾの言葉を遮った。

 そうならちょっと楽しそうだと思ったのが、タッゾにはお見通しの様だ。


「というわけですので。はい、離れましょ~っ。念の為、両手が空いていた方がいいですしね~」


 完全に心配がなくなったわけではないが、タッゾの言い分は正しい。

 エノンと僕は頷き合って、手を放した。


 念の為は、本当に念の為で、全く出る幕がなさそうだと僕はすぐに悟ったのだった。





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