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鉄道団欒+うそだよ  作者: きいまき
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27・回想(22)




 飼って欲しいと言って来た朝の様に、てっきり誰がいても構わないと、タッゾが要件を話し出すだろうと思っていた。


「だから~、俺が用があるのはリティさんだけなんです」


「リティに、何の用なのかを聞いてるのっ」

「お前をリティと2人だけにするわけないだろッ」


 どんな話を振って来るつもりかは知らないが、仲間達とタッゾを見るに、このまま教室で……は無理な雰囲気だ。

 でも僕だって皆のうちの誰かが、1人で某所に来いという強迫状をもらったと知ったなら、絶対に行く事は反対するし、付いていこうと思うだろう。


 回りの雰囲気は読み取れるだろうに、頑なに僕と2人きりになろうとする、タッゾの表情と物言いが僕は気になった。

 そして都合が良かったとはいえ、なぜ僕は一時でも、タッゾを自分の飼い犬と認め、餌を与えてしまったんだろうと考え始めてしまう。


 もしかすると、心のどこかで両親と同じように、僕も僕に飼われてくれる忠実な誰かを望んでいたせいかも知れない。



 僕は、確実に両親の血を引いている。


 自分だって平気で好意を拒絶しているのに、逆にそうされると恨みさえする。

 何でも思い通りに進まないと苛立つ。


 誰かに命令口調であれこれと指示して禁止しようとする。

 今のところエノンに関してのみだが、精神的に圧力を掛けて相手が引かないと、実力行使も辞さない。


 両親の専売特許を、いつの間に僕はこんな風に表に出す様になっていたのだろう?

 そう自覚すると切りがなかった。


 エノンの事もそう。


 幼い頃とは違って警戒心が普通以上に強いエノンが、もう誰かに見守られる事を必要としていないのを僕は知っていた。

 エノンがこう考えているに違いないと思い込み、勝手に環境整備をする。


 もしかすると僕達が潰してしまった中に、レミよりもエノンを輝かせてくれる誰かがいたかも知れないのに。


 エノンに対しては、今も家が出している援助という名の借金という点からも、もう取り返しがつかない。

 それらは全て僕のせいだけど、それはただの責任感からではなく、僕が生きていく上でエノンが必要だったから。


 僕の望みは両親に縛られたままになっても、他所へ嫁さず、家でエノンを見守りながら一生を終える事。


 エノン以外に大切なものは、もう必要ない。

 エノンが選んだのならば、そこにレミか誰かが付いて来るとしても、仕方がないから諦めよう。



「あ~あ。何か、空気が悪いですね~っと」


 そんな事を考えていた僕をよそに、回りの皆から反対されて辟易したのか、唐突にタッゾが窓を全開にした。


「湿気が入って……」

「それじゃ行きま~っす」


 急にタッゾに姫抱きにされ、文句を言い掛けた僕は硬直する。

 しかも、そのまま窓から飛び出されて、思考まで少しの間完全に止まっていた。


「リティさん誘拐、大成功~ッッ」


 浮遊感の後に来た、本当にわずかな衝撃。


「おっ! 頑張って、追って来た奴等がいるな~。そう来なくっちゃ~ッ!」


 僕を抱えたままなのに、早い上、降っているはずの雨を感じない。

 いつもの僕なら、自分の楽しみの為に人をダシにするなと、文句の1つや2つ言っているところだろうに。


「おい、魔術をいくつ重ね掛けしている?」

「リティさん。誘拐されてるのに、初っぱながそれですか」


 笑ってタッゾが返してきたが、1番初めに働いた思考がタッゾが使う魔術に対する疑問だった。


「切羽詰まってるはずなのに、魔術について知りたがるなんて、リティさんらしいですけどね」


 まさか魔術師の家系である事を、こんな風に実感する日が来るとは思っても見なかった。

 それでようやく僕は状況把握に努め始められた。


 既に園内からは出て街中まで来ており、追って来てくれているらしい皆を撒く為にだろう、人通りの多い道をタッゾは走っている。



 そして次に生じたのは、羞恥心だった。


「もう降ろせ、誘拐犯」


 雨が降るのが当たり前な季節だが、日常生活に待ったはない。

 この程度の小雨くらいなら尚更、人がいる。


 呆然自失している間に、たくさんの人にお姫様だっこの現状を見られてしまった事だろう。

 こんな晒し者状態が、タッゾが飽きるまで続くなんて、勘弁してもらいたい。


「え~っ?」

 物凄く不満そうだ。


「こうなったら、ちゃんと一緒に行く。それならいいだろう?」

「ホントですか? 約束ですよ、リティさん?」


 何度も念を押され、しかも。


「約束するから、わざわざ顔を寄せて来るなっ」

「いや~、ほら。嘘を吐いてるかどうか、目を見て判断をですね……」


「タッゾっ!」

「は~い」


 やっと降ろしてもらえ、この場に留まるのが恥ずかし過ぎるのも手伝い、とにかくタッゾと通りを走り出す。


「リティさんと手に手を取って愛の逃避行って感じがして、これはこれで悪くないです」

「はいはい、分かった分かった」


 逃げている事には違いないと、タッゾの言葉を否定しなかったせいなのか何なのか。

 なぜか人外の雛がダンジョン内での様に、追い掛けて来てくれている皆の位置情報を教えてくれる。


 一応タッゾも皆の前に、チラチラ姿を見せては逃げる鬼ごっこで、遊ぶ気はなかったらしく、ちゃんと距離が開いていた。





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