21・回想(17)
エノンと2人っきりだった朝は、今やその2倍の4人に増えている。
愛しいエノンと、野性の獣が2匹。
タッゾに続いてレミが加わったせいで、ますます目立つ集団だ。
何とかならないものだろうかと考えて、1番の解決方法を僕は口にする。
「レミ。お前、エノンと別れろ」
「は? 冗談じゃないわよッ」
ふむ、その馬鹿正直に1点やろうじゃないか。
途端に吠え掛かって来たレミの視線を、僕はフンッと受け流す。
そんなレミと僕の間でエノンはすっかり戸惑っているし、タッゾはあえて黙して様子を見る事にしたらしい。
兄の方は全く可愛げがない。
「……り、リティ? 何で? 賛成してくれてたんじゃなかったのかよ?」
「好きだよ、エノン」
僕は想いの丈を込めて、エノンの額にキスをする。
タッゾから求められている事を実感しても、エノンへの想いも両親への感情も消えなかった。
呆れてしまうくらい、僕の中に残り続けている。
「リティからこうしてくれんのって、初めてじゃねーかッ?」
「そうだっけ?」
「そうだよッ!」
妙に感動して喜ぶエノンに、僕は微笑んだ。
今度こそタッゾまで文句を言って来るが、完全に無視だ。
第一、エノンの心の核をまんまと盗んだレミに対しては、これくらいの嫌がらせをしても構わないだろう。
「今日もエノンに何か持って来てるのか、レミ。これからもっと暑くなる。お前が僕に頭を下げて頼むなら、昼休みまでの冷蔵庫を紹介してやってもいいんだが?」
お前はエノンの為に、自分のプライドを捨てられるのか?
もしエノンの為を思うなら、レミはここで折れるしかないのだ。
もう心当たりに置かせてくれる様、頼んであるにも関わらず、わざと恩着せがましく僕は言った。
途端、エノンが慌て出す。
「ごめんな、レミ。時々リティはオレにすっごく過保護なんだ。リティもっ、言い方!」
叱られて心がズキリと痛んだが、絶対レミに対する言葉は取り下げない。
好きな子を悪意から守る為に、エノンだって譲れないだろう。
もしかしたら、最悪エノンと喧嘩になる? とも思ったが、唸りながらもレミの決断の方が早かった。
「よろしく、お願いします~ぅ。これでいいでしょっ」
そういう割に頭は全く下がっていないし、思いっ切り不本意そうな表情をレミは向けて来る。
自分の気持ちを、素直に表しているのだと分かる。
「承知した」
仕方ない。
きっと、この裏表のなさもエノンがレミに惹かれた理由なのだろうから。
「リティさん。俺達兄妹を飼い慣らして、一体どうしたいんですか」
「むしろ、タッゾ。今の遣り取りのどこでそう捉えられるのか、全く分からないんだが?」
そもそもだ。
「お前達が簡単に使われてくれるとは思えないな、僕は。そうだろう、タッゾ?」
「い~え、もう充分従えちゃってると思いますけど」
心配しつつも嬉しかったのだろう、エノンとレミの2人が甘い空気になっている横で、タッゾと僕の会話は相変わらず。
何があろうとも僕の最愛はエノンに捧げ続ける、これまでもこれからも。
そのうち純粋に、エノンの幸せだけを祈れる様になれるだろうか?
これも心からの願いに違いないのだから。




