16・回想(12)
10歳を過ぎると、ある意味とても有名なお小遣い制度の利用が出来るようになる。
魔物狩りだ。
制度の中で1番の稼ぎ頭。
魔物狩りだけで生計を立てている者もいるので、もはやお小遣いの範疇から完全に外れているが、受付は同じ建物内だ。
タッゾとレミの兄妹も制度を利用して、既に自活している。
寮には入らず、制度と提携している格安賃貸部屋から通園していた。
さっさと園で学ぶ気をなくし、スエート周辺にも飽いて、他所へ行って欲しいものだ。
園の仲間達も10歳の誕生日を迎えるや否や、少しずつ魔物狩りを請け負い始め、僕も誘われるようになった。
けれど僕はいくら園で学んでも、相変わらず、魔術師の家系に生まれた割に魔力が弱いまま。
なので下手な場所へ行くと、逆に魔物から狩られる側になってしまう。
もしその上に、こんな僕とも一緒に行ってくれるという、園の皆の足を引っ張りでもしたら最悪だ。
だから10歳を過ぎた頃、自分に見合った狩場の当たりを付ける為、制度受付に留まって、盗み聞きをし始めた。
そうして今では、狩場から戻って来た人々の会話を聞くだけではなく、表情や足取り、体の状態を直にこの目で見る事が出来る、スエートの街の出入門近くに居座っている。
僕が街の出入門にしょっちゅう座っているようになると、たまにエノンが一緒に座り、おしゃべりしてくれた。
スエートを拠点にしている狩人等々にエノンは大人気なので、一緒にいる僕も顔を覚えられ、女・子供に優しい性質の人から声を掛けられ、お菓子をもらったりするようになった。
さらに卒園した友人知人や、制度でお世話になった人達にも声を掛けられた。
けれど空白時間の方が圧倒的に長い。
ただ座っているのも何だ……と思い、6面の賽を使う、ちょっとした賭け事を始めた。
「1振り、5ウェン。1~6の数を当てられれば、1.2倍」
5ウェンは駄菓子が1個買えるくらいの、掛け金である。
女・子供に興味がない人からすれば、僕は視界の一部でしかない。
だが、暇潰しにちょうどいいと思われるのか、5ウェンを失っても、痛くも痒くもない、心に余裕のある人が主に寄ってくれるようになった。
中には狩りに行く前の、景気付けなんていう人もいる。
今日も出入門で、誰か話し掛けてくれないだろうか? と、ぼ~っと座り込みをしていた。
「何をやってるんですか、リティさん?」
「知りもしないで声を掛けて来たのなら、お前の情報収集力も大した事はないな」
タッゾは狩りの行き帰りの様には見えず、たぶんここに僕が居て、何をしているのかも調べた上で、やって来たに違いない。
だから、そんな奴からの問いには、こんな答えで十分だろう。
「やらないなら、去れ」
「は~い。5ウェンですね~っと」
さすがは自活済み者というところか、タッゾは気を悪くした風もなく渡して来た。
これを受け取り、ただ賽を振って、終わりにしてもいいのだが……。
せっかくなので、タッゾにもいつも通り、賽ではなく話を振ってみる事にした。
「お前から見て、スエート周辺の狩場はどんな具合だ?」
何せ僕の前ではふざけた態度でも、提携賃貸部屋を紹介してもらえるくらいだから、狩り仕事の面では、制度から一定の評価を得てはいるはずなのだ。
手っ取り早く自活出来るようになるには、やはりお小遣い制度を利用し、お金を得るのが1番らしい。
「ぼちぼちですかねぇ? 何なら一緒しましょうよ、リティさんっ」
「止めておく。僕がお前の足を引っ張るだけだ」
「それですけど。筆記試験では上位でも、実技の特に魔法系が、いまいちパッとしないって話、ホントなんですか?」
「泣けてくる事に、本当だ」
そんなに疑わしそうに見られても困ると、僕は肩を竦める。
「家に戻りたくないから、わざと魔法能力を抑えている。な~んていう噂も聞きましたけど?」
「それはない。その噂には大迷惑している」
その噂のせいで、異母弟妹の親族に雇われたのだろう手の者が、ちょろちょろと僕の周囲をうろつくのだから。
とっとと父に直接交渉して、僕に家の相続権を放棄させてくれれば、たぶんそれで済む話なのに。
新しく手の者が送られて来るたびに、もしかしたらエノンの事を探っているのではないかと、必要以上に警戒しなくてはならない。
全くもって鬱陶しい。
そもそも魔法能力がないから、園に来たというのに、それが信じられないというなら、つまり父の話を、疑うに等しいのではないだろうか。
「ん~、やっぱり一緒してみたいです。リティさんの力量をちゃんと把握しておかないと、いざという時に困りますから」
「もし、いざという時が来たなら、僕ではなくエノンを守れ」
「それは却下で」
「お願いではなく、命令なら?」
「うっわ、ひっでぇ~」
わざと試しにこんな風に聞いてみたのだが、案の定タッゾは聞く気がない。
僕には全くもって、タッゾを飼っているという実感が沸かなかった。




