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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
駅伝輸送機

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88 行商禁止規定

 さらに峠を二度ほど乗り越えたあと、ようやく目的のウェンデ村が見えてきた。

 その村の奥には海も見えるので、完全に島の北から南に抜けた格好だ。


「ようやく着きました……本当に長かった……」

 正午になる前に着くなんてまったく無理だった。そこからさらに一時間はかかっただろう。


 膝ががくがくいいそうだったので、太もものあたりから軽く両手で叩いた。体力あると思ってたけど全然そんなことなかったな。


「よくここまで耐えたのう。でも、ここでのんびりするのもなんじゃから、このまま村までは行くぞ」


「それはそう。もうちょっとだけ体にムチ打ちますよ」

 苦労してたどり着いたウェンデ村の雰囲気はそうカノン村と変わらなかった。


 同じ島だから当たり前だろうといえばそうなのだが。違ってるところがあるとすれば、ウェンデ村のほうが家が集まって建っているということか。カノン村は農地をたっぷりとっているせいか、家は散在的に建っている。


 何人かの通行人にじろじろ見られた。

 よそ者が目立ちまくるのはもっともなので、これは仕方ない。


「おや? 守護幻獣のリルリル様……」

 あっ、そうか、リルリルのことは知られているのか。

 リルリル同伴のおかげでおそらく私の信用度も何割か増すのでありがたい。


「すみません、島の北側で工房を営んでいる錬金術師です。今日は定休日なので、ウェンデ村がどんなところかなと歩いてきました」


 そんなやりとりを数回やって、広場らしきところに行ったら、やたらと人が集まってきた。

 人口だけだとカノン村より多いかな……? 栄えているという表現が正しいかわからないが、消滅しそうな村ということはまったくない。


 港から離れてることもあって、勝手な偏見で小規模な村だと思っていたが、その考えは大ハズレだった。


 どうやら歓迎されている。そのあたりは人の目を見ればすぐわかる。リルリルを神とするなら、私とナーティアも神の使いぐらいに考えられてるからか。


 歓迎してもらえるのはありがたいが、その期待に応えられるか自信がないので、ちょっとノドが渇く。これは道中で汗をかいたからだけではない。


「村長のカルスナです、錬金術師様」

 村民を代表して村長が一歩前に出てきた。四十歳ぐらいだろうか。カノン村の村長より若いおじさんだ。


「もしかして今日は休日を使って、この村に行商に来てくださったんですか?」

 あ~。

 やっぱりか~。


 そう誤解されるとは思っていた。

 錬金術師が本当にあいさつだけに来るとはなかなか考えないよね……。もちろん、本当にあいさつのために来たんだけど。


「今日はあくまでもごあいさつに来たまででして……。それと、錬金術師というのは制約が多くてですね、工房を離れて薬を売ることはできないんですよ」


 言いづらいけど、言わないと伝わらないよな。

「つまり行商をすると、最悪の場合、免許を剥奪されてしまうんです」


 村長が何か思い出したような顔をした。

 どうやら理解されているようだけど、念には念を。


 私は自分の少ない荷物から、錬金術師の規則に関する冊子を出した。言われると思っていたので用意もしていた。


 制限が列挙されてる中に、こう書いてある。




===

工房に勤務する錬金術師およびその助手が、工房を離れた場所で薬品の売買を行い、金銭を受け取ってはならない。また錬金術師の資格を持たない者が、錬金術師が作成した薬品の売買を行ってはならない。

===




 どちらかというと、この部分の後半箇所のほうが大事だけど。

 後半箇所がないと、巨大な工房で薬品をまとめ買いした商人が工房の少ない地域で稼ぎまくってしまうことになる。

 そのうち、偽物の薬品が出回るのは目に見えてるし、非常に危ない。


 それはそれとして、錬金術師が行商をしてはダメなのだ。

「行商が認められると、工房での販売の意味がなくなるので、過疎地に工房がないという問題が起きかねないんです」


 せっかく辺境地帯にもまんべんなく工房を設置しても、都市部に売りに行くのがアリなら王都に出ていかれてしまう。


「ああ、そうでしたな……。行商行為はご法度なんですな……」

 村民の中から「前の錬金術師様もそんなこと言っていたような……」「ああ、ダメなんだった」という声がした。


 どうやら反発を受けることはなさそうでよかった。


 ぶっちゃけたところ、そうっと一ビン売るぐらいなら大丈夫だと思うし、そんなことしてる錬金術師なんて全国にいると思うが、こういうのって一回やるとなあなあになってしまう。


「というわけで、薬をこの場で売るということはできないのですが」


 どさっ。


 リルリルが袋を地面に置いた。


 すぐにリルリルが袋からビンを取り出す。

「お近づきのしるしに試供品を渡すぐらいはできますので――」


「試供品は用意したので、ほしいものは持って帰れ! ただし、一人でいくつも持って帰るのは禁止じゃぞ。それと効き目の強いものはやすやすと渡すと危ないのでな、あくまでも気休めのポーションじゃと思え。そこまで理解したら、ここで列を作るがよい!」


 私の声はリルリルの大声にかき消された。

 この目立ちたがり屋め!

『錬金術師のゆるふわ離島開拓記』というタイトルで、GAノベルより本が発売されました! イラストは松うに先生です! よろしくお願いいたします! 表紙は下記にアップしています! フレイアとオオカミ姿のリルリルが目印です!

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
無資格の販売規制は理にかなっていますが、行商規制は悪手ですね。都市部には工房があるわけでわざわざ辺境から売りに行く人はいないように思います。店のない土地でこそ行商は意味があるので、錬金術師のいない辺境…
なるほど、行商は禁止だけど無料で配るのはありなんですね。 まあそうじゃないと、どこかで疫病が流行ったときに薬を配るとかもできなくなっちゃいますしね。 しかしこっちの村の人たちが工房まで買い物にくるのは…
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