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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
島酒

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78 島酒にします!

 私とナーティアが新作ジュースで盛り上がっていたところに、ずかずかと人の姿になったリルリルが入ってきた。


「いや~、ずいぶん走り回ったぞ。山の上のほうまで登ってやったわ!」


「元気ですね、としか言えません。あっ、試作品飲んでください」

 私はショウガジュースを水で割って出した。


 リルリルは躊躇なくごくごく飲んだ。

 しまった、注意事項を言い忘れた。


「あっ、一気に飲むとむせま――」

「げほっ! げほっ!! ノドに刺激が来るのう!」


「ああ! 大丈夫ですか! 毒はないから我慢してください!」

「――でも、悪くない味じゃ。さっぱりしておる」


 むせたあと顔を上げたリルリルは、味の感想と同じくさっぱりした表情だった。

「豪傑みたいな飲み方ですね」


 本当にアルコールが入ってる気がしてきた。これじゃリルリルの意見は一回除外したほうがいいな。質より量を優先する男子学生みたいな意見はあまり意味がない。


「もう少し繊細で建設的な意見はありませんの? 走ってきたついでに香辛料でも持って帰ってきたらよかったのに」


 ナーティアが右手を頬に当てて、あきれた声を出した。

「たしかに、あれだけ走るならカゴでも肩に提げておくべきじゃったな。じゃが、もっといいものにする提案なら一個できる」


 誇るでもなく、当然のようにさらりとリルリルは言った。

「ほう? では、建設的な意見とやらを聞かせていただきたいですわね」


「これ、余が用意した水を試してみてはどうじゃ」

 リルリルが用意した水?


 そういえば、あの簡易ポーションは口の中でぱちぱちはじけたような……。


 リルリルはジュースの原液を少し空いているコップに入れると、そこにポーション用の余りの水を流し込んで、私たちが使っていた細い匙でくるくるかき回す。


「これでどうじゃ?」

 私に差し出したコップのふちには小さな泡がついている。


 一口飲んで、確信した。

「これだ! 完璧だ!」


 本当に電撃が走ったかと思った。それぐらいの衝撃だった。

「あの……ナーティアにも用意してください! すぐに……」


「ほいほい。そんなんすぐじゃ」

 半信半疑のナーティアも一口でうつむいた。


「わたくしの負けですわ……」

 別に勝ち負けはないと思うが……。


 ただ、それぐらいリルリルの提案がクリティカルだったことは間違いない。


 そして、簡易ポーションの時にしびれと錯覚した感覚も正体がわかった。

「この水、炭酸水ですね。島のどこかで炭酸水が湧いてるんですね!」


 口の中で小さな泡がはじけるような水が世の中にはある。最初は驚くが毒ではない。

「名前はよく知らんが、出る場所はある。温泉から少し山のほうに上がったところじゃな」


 大陸の炭酸水が出る場所には温泉地もあった気がする。地面から湧出しているものと関連があるのだろうか。


「これは必ず名物になります! 微調整してエメリーヌさんに持ち込んでやりましょう!」







 数日後、あいにくの雨も気にせず、私たちは代官屋敷に乗り込んで、厨房をお借りした。


 その場で作ったほうが炭酸水も抜けづらいし、エメリーヌさんも自分のところのグラスで飲むほうがいいだろう。


 厨房で準備を済ませ、私たちは代官屋敷のあの食堂に還ってきた!

 せっかくなので全員で立って腕組みしてみた。


「あの……不気味なんで普通に座っていただけないかしら? それと腕組みもやめて。何かの巨匠なの?」


「名物、用意してきましたよ。とくとご賞味あれ!」

 メイドさんが例の飲み物のグラスが載ったトレーを運んできた。レモンの輪切りをグラスにはさんである。


「なんか茶色いわね。いろどりが足りない気が」

「なので、レモンを添えました」


「毒は入っておらんからぐびっといけ。あっ、むせるのであんまり一気にあおるな」

「怖いことを言うわね……。おなかこわしたら怒るわよ……」


 エメリーヌさんはおそるおそる口にした。

 彼女の目がすぐに見開いた。これまでにない体験だっただろう。


「ぴりりとからい……。でも甘い……。こんな飲み物、飲んだことはないわ……。新しい。名物に必要な新しさがある」


 この代官、やっぱり賢いなと思った。


 そう、美味というだけでは島独自の名物にはなれない。

 美味なものなんて世界中にあるからだ。ひどい味で有名な名物料理などないし、差別化も難しい。


 ここでしか体験できない新奇さがこのジュースにはある。


 エメリーヌさんが席を立って、私の前に来た。

 なんだろうなと思ったら、手を差し出された。


「ありがとう。素晴らしい成果だわ」

 ここで握手しないのはダメだよな。


 相手の小さな手を握る。

「今回は弟子たちにも助けられました。自分一人ではここまでのものは作れませんでした」


 私だけの手柄にする気はない。

「あなたたち二人もありがとう。この飲み物は間違いなく青翡翠島の利益になるわ」


 二人とも褒められるとうれしくなる性質なので、まんざらでもなさそうだった。

「それで、この飲み物の名前は?」


「【ショウガエキス配合炭酸水】です」

 エメリーヌさんの顔が険のあるものに変わった。


「名前が悪すぎる……。あまりにもセンスがない……」

「どんなものか適切に示している名前だと思いますけど」

島酒しまさけにしましょう。体が温まるし、子供も飲めるお酒ということにしたらいいじゃない」


 リルリルが「見事なセンスじゃ。絶対にそのほうがよい」と言った。

 師匠から代官に寝返ったな……。


「ちょっと! 少しは師匠を立ててください! ナーティアはどうですか?」

「し、島酒にいたしましょう……」


 目をそらして言われた。

「じゃあ、島酒でいいです」


 私も島酒のほうが響きがいいことぐらいはわかっている。ただ、自分では思いつけないだけだ。


「【ショウガエキス配合炭酸水】……じゃなかった。島酒が成功しますように」


というわけでジンジャーエールでした! 大昔からある飲み物ではないはずですが、原理的には科学知識などがなくても発生する余地があるだろうということで選びました。

ところで、クラフトジンジャーエールはだいたいどこもショウガがきつすぎてつらいです……。


===

『錬金術師のゆるふわ離島開拓記』というタイトルで、GAノベルより本が発売されました! イラストは松うに先生です! よろしくお願いいたします! 表紙は下記にアップしています! フレイアとオオカミ姿のリルリルが目印です!

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
炭酸水もあった! 地元で採れた生姜と地元の炭酸水を使っているし、間違いなく島の特産物ですね。 続きも楽しみにお待ちしております。
酒を島酒で割って飲むとか色々できそう 炭酸水の権利を確保しておかないとね 報酬の上乗せを示さない領主代理はやっぱり腹黒
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