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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
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67 監修料として

 はっきり言って、法的な確認など私は一切していない。

 こんなのあったら面白そうだなと思ったから作った。


 なので、こういったルールに抵触するから無理だと言われれば引き下がる。素人が調べるよりは島の領主の前で試したほうが早い。


 ありそうな話といえば、大陸の伯爵家の許可を得なければ無理だとか?

「この魔導具アーティファクト、設計者のあなたに利益が入らないのよね。箱とカードの一式で売るつもりもないらしいし」


「私がシステムの胴元になろうとすれば、無数の弊害が現れると思いますから。まず、エメリーヌさんは経済を握る権力者をいいようには感じないでしょう」


「そうね。ただでは済まさないわ」

 笑顔で言われてしまった。この人が笑っているうちは大丈夫だ。


「それに、島の人々も経済を牛耳る小娘を憎むでしょう。そっちのほうが問題です」


 学院でなら学生に嫌われても、そんなに困らなかった。自分の成績はほかの学生が決めるわけじゃないからだ。成績は人間関係から独立している。


 でも、今の私は島という社会の一員だ。

 その社会で息苦しくなったら、どうにもならない。


「私はこの島のほかに行く場所がないんですよ」

 私はわざとらしく、ため息を吐いた。


「親も親戚もいない。家も土地もない。錬金術師の資格以外、私は何も持ってないんです。残り二年以上は島で働かなきゃこの資格すら喪失するわけですから」


 そのためには何も売らないのが一番安全で確実だ。制作費だけといっても、お店からすればお金が出ていくことには変わりがないから払いたくはないだろうし。


 ナーティアが何か言いたそうな顔になった気がした。

 でも、何もナーティアから言葉は出なかった。


「率直に言うとね、そこが気に食わないの。このシステムはあなたの善意だけで成り立ちましたという扱いになってしまう。そういうもののほうがわたしにとっては厄介なの」


「タダより高いものはないということですね」

「わたしは誰にも恩を売られたくないの。小さなことから付け込まれて、悪事の片棒を担ぐことになって、最終的に牢屋行きになった代官だっているからね」


 領主として合格点をあげたい。うまい話をそのまま受け入れないという考えは失敗を減らしてくれる。


「かといって、魔導具一式が高額であれば店側が買わないから意味がないのよね。店が全部導入するぐらいでないと、こんなシステムは普及しない」


 執務机に肘をついて、エメリーヌさんがため息をついた。


「長ったらしくしゃべっておったが、今後フレイアが無理難題を言ってきた時に断りづらくなるのが嫌ということでしかなかろう。そんなしょうもないことまで考えんでも」


 リルリルは気づいたら、隅に置いていた椅子を引っ張り出して座っていた。これも無許可だが、幻獣も偉いからいいだろう。


 これが物理的に強い動物と、そうでない動物の違いなんだろうな。


 リルリルは一人でも生きていこうと思えばできるだろうが、私やエメリーヌさんはそうではないのだ。


「いえ、あまりズブズブの関係になるのを避けたいというのは、リスクヘッジとしてまっとうです。政治家はそういうところから転げ落ちますから」


 となると、ここから交渉か。


 苦手なんだけどな……。しかも、こっちが利益を受け取らないことが問題なんだし。


「だ~か~ら~」

 その時、エメリーヌさんが完全にガキ代官の顔になった。八重歯ものぞいた。


「あなたにはこれをあげる。これで少しばかり島のために働いてもらっても、わたしは涼しい顔ができるから」


 とエメリーヌさんが渡してきたのは手にした瞬間に大金が入ってるとわかる布の袋だった。中身が石だったなんてオチもなく、キラキラと輝いている。


「ちょっと! なんのお金ですか、これ!」

 買収みたいなのは困る。そこで涼しい顔ができるほど世慣れてない。


「答えは袋に入れてあるわ」

 たしかに折り畳んだ紙が入っていた。


「なになに……『白の王国』の今月分監修料……!? あの石鹸の件ですか!」


「白の王国」は私が青翡翠島の名物としてアイディアを出したヤシの成分を使った石鹸だ。とてつもなく泡立つことが特徴である。


「それの監修料よ。月ごとの支払いだから今後も毎月払うから」

「これは、ちょっと多すぎるのではないですか……? 子持ち世帯が問題なく一か月暮らせる金額ですけど……」


 お金はほしい!


 でも、あまりもらってしまうとエメリーヌさんに強く出られない! それは癪!


 なるほど、私が決済システムで利益をもらう気がないというのをエメリーヌさんが嫌がった気持ちがよくわかった。


 エメリーヌさんの視線が私以外の二人に飛んで、こっちに戻ってきた。

「お金はたくさん入り用なんじゃないの? ほら、育ち盛りの人がいらっしゃるから」


「くぅ~! すべて知られていましたか!」

 ナーティアの分の食費が追加でかぶさってくることを考えると、工房以外の収入は正直なところ、ありがたい。く、く、く……。


「ちょ、ちょうだいいたします……。今後ともごひいきに……」

 私はガキ代官に頭を下げた。


 力関係としては向こうのほうが上。それが確定してしまった気がする。

「あははっ! それでいいのよ! それでいい! これからも石鹸の監修、よろしくね!」

 エメリーヌさんの高笑いが部屋に響く。この部屋、やけに反響するんだよな。


 と、ナーティアが私に耳打ちしてきた。

「腹が立つようなら、あの代官、無人島にでも連れ去りましょうか?」


「私までロック鳥のごとく各地を移動しまくる羽目になるのでダメです」

 この子、私がきちんとしつけないと、何かやらかしそうだ。


「あ、もう一つ問題はあるわ」

 なんだ、要求が多いな。


「それの魔導具名、なんだっけ」

「【青翡翠島用先払いシステム】です」


「いろんな人が呼ぶことになるのに、その名称は硬すぎるでしょ。愛称をつけなさい」

 こういうのが一番難しいんだよな。変に気取った名前もおかしいし。


 お金のカード、お金のカード……。

「マニッカでどうですか?」

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面倒くさいのは嫌だ、しかしお金は欲しい! わかります。 次回の更新も楽しみにお待ちしております。
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