59 二人目の弟子!
「帰れ、帰れ! この工房の規模で何人も弟子などいらん! 人の姿になれるんじゃから、王都の学院でもなんでも勝手に受験したらよかろう!」
「はぁ……都市に住まうとなれば、鳥の姿で羽ばたくこともできませんし、窮屈極まりないではありませんか。こんな近場に知を深められる場があるのになんで遠方まで出向かなければならないのです?」
自称ロック鳥のナーティアは両手を上に向けて、話にならないというポーズをとった。
ナーティアという名前は広まってないはずだから、名を騙ってる可能性はない。
「もちろん、お仕事の邪魔にならない範囲で教わるつもりですわ。いかがでしょう?」
そんな何人も弟子を育てる自信なんてない。教授に伝えたら「偉くなったもんだな」と確実におちょくられるだろう。
だけど、島のてっぺんに住み着いている鳥を厄介払いできるか?
報復されたら工房は三分で破壊される……。
「少なくとも、こんな小さなオオカミ風情より、よほど熱心に学びますわ。オオカミとは見聞の量が違いますし」
ナーティアがリルリルを見ずに指差した。
「余じゃって世界各地を渡り歩いたりしておるわ! だいたい守護幻獣にことわりなく勝手に住み着いてなんでそんなに偉そうなんじゃ! まず余にあいさつせんかい!」
矮小な人間の前で大いなる者同士の大人げないケンカがはじまっている。
工房に着いたばかりなのに、引き返して代官屋敷に行きたくなった。いや、本当に代官屋敷に行って念話器を借りて、教授と相談するべきか。私一人で決められる問題ではない。
「一日猶予をください。代官屋敷で協議をします」
「ああ、代官屋敷まで行かれるんですのね。それでしたら――」
お嬢様が私の目の前で、あの巨大な鳥に変化した。
虹のように無数の色が混ざりあった尾が垂れている。
「わたくしに乗ればすぐに着きますわ。どうぞ、ご利用ください。こんなぐらいで恩を売るつもりはありませんのでご安心を」
私はロック鳥を見上げながら、思った。
離島の錬金術師には離島の錬金術師ならではの問題があるものだ……。
ただ、それはそれとして――
「あの、ちょっとおなかのところ、ひっつかせてもらえませんか?」
「は、はい?」
「ひっつかせてください」
「まあ、少し触るぐらいであれば、かまいませんが……」
私はロック鳥のおなかに体を寄せた。
おっ、これは――超高級羽毛布団に沈んでいく感覚と同じ! いや、超高級羽毛布団を試したことはないのだが、絶対に近いと確信が持てる! ここまで優しく体を包んでくれる物質はこの世界にほかにない!
もふもふした感触とは違う。もっとなめらかに体をくるんでくれるのだ。これは優しさの化身! 慈愛の物質化! 母なる者!
「ああ、『ママみ』とはこういうことを言うんですね……。わかりました、すべてわかりましたぁ……」
「あの、少し粘着質な触れ方のようですが……もうよろしいでしょうか……?」
「ママ……すべての生命のママ……。きっと賢者の石と呼ばれる伝説の魔道具もここから生まれたはずっ!」
と、後ろからいきなり強い力で私はひきはがされた。
当然リルリルだ。
「すまんな。このまま戻ってこんヤバさがあったので、緊急でひっぺがした」
文句を言いたかったが、ナーティアがうなずいていたので、苦情を言うのは控えた。客観的に私のほうが異常だったらしい。
「はぁ、よかった……。鳥類のやわらかさというのも、またよいですね……。わかりました、ナーティア、あなたを弟子と認めましょう」
「……ちょっと考えさせていただけませんかしら」
「そっちが頼んできたのに、なんで悩むんですか!」
それはおかしいだろう。道理が通らない。
「優れた錬金術師にしても魔導士にしても性格が変わっているとは考えていたのですが、想定よりも斜め上だったもので……」
ミスティール教授、かつて私は性格に難があるとおっしゃっていましたが、そのとおりのようです。
まあ、こういう性格のまま、これからもなんとか南の島でやっていこうと思います。
とはいえ、働き出して数か月の私が二人も弟子を育てられるのか……?
錬金術師生活が崩壊したら、その時はその時ということで……。
ほぼ毎日投稿してきましたが、2日ほど休み入れます。ご了承ください……。
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