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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
ロック鳥を退治せよ

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57 鳥問題を解決した

 ロック鳥は再び、変な姿勢で地面に倒れた。


「くうっ……! わたくしとしたことが、こんな無様な敗北をするだなんて! キアアアアア、キアアアアアアアッ!」


 よほど悔しいのか、ロック鳥はひどい音量で鳴いた。



 とんでもなく耳障りだった。


「うわっ! やめてください! 負けたのにこちらの鼓膜を攻撃するとか卑怯ですよ!」

 耳をふさいで私は叫んだ。


 少しでも鳴き声を相殺しないとやってられない! 聞くだけで涙が出そうになる!


「せめて声でもあげて紛らわせるしかないじゃないですか! キアアアアア、キアアアアアアアッ!」


 リルリルにいたっては、「聞いてられん! 耳が壊れる!」と脱兎のごとく、山を下っていった。おい、逃げるな、逃げるな! まだやることは残ってる!


 世の中にはいろんな攻撃手段があるものだと実感した。できれば、いろんな攻撃を味わいたくなどないけど……。







 ロック鳥が鳴くのをやめたので、私たちはやっと交渉に入った(リルリルは鳴き声が消えたとわかると戻ってきた。行動パターンは野生動物と大差ない)。


「あなたの名前ってありますか? 言語を使えるぐらいだから、名前もありますよね」


「長くて覚えられないだろうから通称のほうでお伝えしますと、ナーティア・ハーゴット・スミティアナ・アントメイユですわ」


「それさえも長いので、ナーティアと呼びます。ナーティアさん、あなたは戦いに敗れました。これまでのように、青翡翠島での一円的な縄張りを主張するのは禁止します。ほかの獣を追い出すような行為も禁止。良識の範囲で島は利用すること。よいですね?」


「わかりましたわ……。このナーティア・ハーゴット・スミティアナ・アントメイユ、自分の名誉にかけてウソは申しません」


 会話が通じるので、交渉自体はどうにかなりそうだ。

 リルリルは胡散臭そうに転倒しているロック鳥を見つめていた。


「フレイアよ、ウソをついた場合の罰則も設けておけ。そんな話、聞いておらんと居直る危険がある」


「そんな無粋なこと、いたしませんわ!」

 無粋かどうかがロック鳥の行動原理らしい。言葉をしゃべるだけあって、人間的な価値観だ。


「じゃあ、約束を破った場合、あなたが取るに足らないショボい鳥であることを全世界に発信して笑いものにします。これでどうですか?」


「人間というのはずいぶん陰険なことを考えつきますのね」

「あなたが名誉にこだわるから、それに関する制約をつけたわけです。それと……ついでに聞きますけど、あなた、何を食べてるんですか?」


 野生動物をばくばく食べる分にはそういう生態系だから仕方ない。


 私だってクレールおばさんの豚や羊の料理をばくばく食べている。でも、毎日牛を五十頭食べますと言われると、それは規制をしなければ島が滅ぶ。


 つまり、やりすぎはダメという常識的な話である。で、常識は種族によって違うだろうから確認の必要がある。


「基本的に魚類ですわね。昨日もマグロを一尾ちょうだいいたしましたわ」

 海で漁をしてるのか!


「じゃあ、島の高いところで暮らしてもらっても、共生できそうですね」

「負けてしまった以上は慎ましやかに生きることといたしましょう」


 この言葉を信じるとしよう。トラブルが続くなら、また考える。

「では、私たちは下山します」


 山の上は日差しが強い。トイレもないし、そろそろ帰りたかった。

「あ、そうだ、人間さん、あなたの名前も聞かせていただけませんか?」


 名乗るほどの者でもないですよというのはかえって失礼か。


「フレイアです」

 我ながらありふれた名前だと思うのだが、


「フレイア様ですか。よい名前ですわね」

 ロック鳥の基準だと悪くはないらしい。褒められたのだからよしとするか。







「ふぅ……一安心です。大きな仕事をしました」


 私は幻獣形態のもふもふリルリルに体を預けながら深呼吸した。

 歩く体力はないので、このまま運んでもらう。リルリルが断崖を駆け降りるようなルートをとることはないと思いたい。


「家に帰ったら、少し昼寝をするとよい。そなたも緊張したであろう。――といっても、すでに寝ておるわけじゃがな」


「人間としては数日休んで文句言われることがないぐらい働いたんです。ですが、働いたあとのもふもふは素晴らしいですね」


 私は犬吸いを楽しむ。勝手にこしらえた造語だ。辞書には載ってないと思う。

「あぁ~、このまま溶けてリルリルと同化していきそうですねぇ~」


「気色悪いこと言うな! そういうこと言うなら降りよ!」

「いえ、降りません。ここで日々のストレスをすべて発散するんですから。すぅはぁすぅはぁ、はぁはぁすぅすぅ……」


「な、なんか……けがされてる気がする……。怖いから、一回そのへんで寝るのじゃ!」

 リルリルは私を芝生の上に、ころんと転がした。なんともやわらかい地面だ。人間を降ろす場所も熟知しているらしい。


 私の顔にリルリルの前足の肉球部分がかぶせられる。

「うわっぷ! なんだか、やわらかいパンを押しつけられたような感覚!」

「ここで寝ていけ。寝ているそなたを運ばんと怖い」


「肉球は離してください。いや、これはこれでやわらかくて悪くないかも……」

「学院でどういう教育されたらこうなるんか教えてほしいわ」


 学院の評判が局地的に下がってるけど、とくに母校に愛もないので別にいいや。


 眠りに落ちた私はパンを顔に押しつけられる夢を見た。


 いい夢か、悪い夢か、判断に困る内容だと思う。

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― 新着の感想 ―
山の恵みが必要じゃないのに他の魔物を追い出さなくてもよかったのに……やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな。 フレイアに様付けしているあたり、負けたらちゃんと相手を敬うんですね。もしかして弟子2号爆…
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