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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
島の名物を考える

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42 白いお化け

 工房や村の近くはおおかた歩いたので、今日は港から少し外れた、海岸あたりをぶらついている。


 海岸といっても、白い砂浜が広がっているなんてことはなくて、大きな岩がごつごつしている空間だ。波も荒いし、泳ぐのは命懸けだろう。一応、細かい砂の海岸もないことはないが、範囲はごく狭い。


「職業柄かもしれんが、ずっと下を見て歩いておるのう」

「そうですね。性格が暗いせいではないですよ。変わった石が落ちてるかもしれませんからね」


 毎日歩いているおかげで島の地理も覚えてきた。

 悪代官からの課題に応えられてはいないが、結果オーライで私の知識は深まっている。島の錬金術師としては確実に成長している。


「伯爵家全体の予算に匹敵するぐらいの海賊の隠し財宝が見つかれば、青翡翠島の発言力も高くなると思うんですけど」


「残念ながら、この二百年は海賊など島に寄りついてもおらんぞ」

「夢のない話ですね。海賊が多発してる土地で暮らすのも怖いですけど」


 その時、ごつごつした岩の中に、やけに丸っこいクリーム色のものが見えた。

 質感からして、ほかの石と明らかに違う。


「獣の卵かと思ったら、ヤシの実ですね」

 海と逆側に目をやる。ちょっとした崖の上にヤシの木が見えた。


 このヤシは大陸では生えてないので、実際に見たのは青翡翠島に来てからだが、島ではちょくちょく目にするので意外に思うこともなくなっている。


 島、とくに港では食用に使われたりする。本音を言うと、私はそんなに好きではない。あとはしぼって油を採ったりだとか。


「ヤシか。そういえば、大陸では全然見ぬな」

 リルリルの反応は道で野良猫を見かけた時より鈍い。


「おそらく冬の寒さに耐えられないんでしょう。大陸だと南部でも冬はたまに雪が降ります」


「特産としてヤシの実を売るか? しかし、それが売れるならもっと前から売っておるな」


「おっしゃるとおりで、大きいし、重いしで、荷物にするのには向きませんね。加工は必須で――――あっ」


 その時、ひらめきとしか言えないものが私の頭に降りた。

 いいや、落ちたと言うほうがしっくりくる。


「そうか……類例を見ないほどの巨大な木の実……。その特性を活かせば……。たとえば油分が多いとしたら、それを利用すれば……上手くいくかも……。魔力による効果の付与も合わされば……」


「なんじゃ、なんじゃ? 急にぶつぶつ言いだして、どうした?」

「リルリル、海岸からは退散です。で、ヤシの実、いくつか持って帰ってください」


「あ、ああ……。手で持つとすべるから大きい袋はいるが、港でもらってくればどうとでもなるぞ」


「数日、ヤシで実験をします。ヤシ本来の力と魔力を組み合わせればいけるはず」

「そうか。とことん極めてくれ。ヤシの実なら、まさに売るほどあるからのう!」


「もし足りなくなったらお願いします。それと、リルリルにはもう一つ頼みたいことがあるんです」


「ほう、何じゃ?」

「たくさんお風呂に入ってもらいます」


「??????? どういうことじゃ?」

 リルリルは見事に両手を上に開いて、お手上げのポーズをとった。

「何一つわからんのじゃ」







 その日から数日、ヤシの実を割って、油分を抽出する作業を続けた。

 この油がないと話にならない。


 同時並行で試作品作りも行った。

 今回のものは熱を冷ます工程があるので、一日で完成にまで持っていくのは難しい。作ったものはどんどん冷やす。


「食用油として売り出すのか? 使えはするじゃろうが、オリーブオイルほどの価値はないと思うぞ」


 リルリルには錬金術の勉強をしてもらっていたので、とくに何を作るかまでは話してない。

 使用してみた時に驚いてほしいという理由も大きいが。


「いえ、そうではありません。効果増強の魔法陣、今日はこれを試しますか」

 私は幾何学模様を墨で、鍋の内側に描いていく。


 すでにいくつか試作品を作りはしたので、今日はそれでリルリルに実験してもらう。

 これは連続して使ったほうがわかりやすいので、今日が初の実験になる。


 まだまだ試すつもりで、今、鍋を煮立たせるのは数日後の実験用に使うものである。

「じゃあ、食品か? 健康にはよさそうな気はするのう」


「食べ物ではありません。火加減はこんなもの……と。そろそろお風呂の準備をしといてください。あとで私も入ります」


「そなたは秘密主義じゃのう。ほいほい、わかったわ」

 リルリルはよくわからないまま、薪に火をつけてお風呂を沸かしに行った。


「余だけなら、またあの隠し湯に入りにいくんじゃがのう」

 そんな声がお風呂場から聞こえてきた。


「いっそ、隠し湯で試してはダメなのか?」

「水質に影響が出るかもしれないからダメでーす」


 私も大きめの声を出しながら、匙で鍋の中をくるくる攪拌かくはんする。

 不純物を取り除いたら、冷やす。


 それが固まってきたら、使いやすいサイズに切り分ける――が、さっきまで加熱していたものが固まるのはずっと先だ。


 その前に作っていたもので固まったものをカットしていく。これはぎりぎり今日の実験に使えるかな。


「風呂はいい温度じゃ。ちょっと熱いが、余なら入れる。それで、何を使うんじゃ?」

「お風呂場に用意してると思いますから、一個ずつ使ってみてくださーい!」


 声を飛ばしながら、私はもう少し作業を続ける。

 しばらくやって、作業も一段落したので、私はお風呂場のほうに向かう。


 お風呂を覗くのが目的なんじゃなくて、今日使う試作品の検証だ。まあ、お風呂をのぞかなきゃわからないのは事実なのだが……。



 私がお風呂場に行って、視界に入ったのは――

 白い巨大なお化けだった。



「うわ、新種の魔物みたいですね。物理攻撃、効かなそう……」


「おい、いくらなんでも泡立ちすぎではないか?」

 白いお化けが声を発する。


「ちなみに、今って人の姿なんですか? 獣の姿なんですか?」


「はぁっ? それすらわからんのか?」

「ええ。本当にもこもこした白いものがいることしかわかりません!」


「人の姿で体を洗っておったら、泡がどんどん立って、今は獣になっておる」


 というわけで、私がヤシで作ったものは――石鹸だ。

 それも、徹底して泡立つ石鹸!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
おー、パームオイルの石鹸。 石鹸自体はいろんな油から作れますが、この泡立ちのものが他の原材料からは作れないなら、特産品になるかな? 身体を洗ってるときにそこまで泡だらけになると大変そうでもありますが、…
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