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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
島の名物を考える

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37 代官からの呼び出し

 顔にぷにぷにしたものが載っている。

 心地よくはあるのだが、少し重い。


 もうちょっと力が弱くなってくれればいいのにと思うが、かえって重さは増してくる。

 こうなると、不快な部分が強くなってきて、目を開けないといけなくなる。


「さんじゅうよん、さんじゅうご――おっ、やっと起きたか。起きるのに、三十五秒かかったぞ」


 オオカミ姿のリルリルの肉球がおでこに載っていた。

「変な起こし方はやめてくれませんか……? 起きろと言ってくれればよいです」


「ウソつけ。それでいつ起きたことがあるんじゃ。起きんからこういうことしとるんじゃろ」

「あれ……。見覚えのない天井ですね……。港の宿屋かどこか……?」


「こりゃ、まだ寝とるな。池にでも投げ入れてみるか」

 リルリルが人の姿に変化して、あきれていた。


 獣の時よりあきれてるのがはっきりわかるのは私が人間だからだろう。

「工房で寝起きするようになったんじゃろうが。昨日、クレールに『お世話になりました』と言ったの、忘れおったか?」


 あっ、そうだった!


 工房の庭も完成した手前、これ以上、住居として使わないのはまずいということで、工房で暮らすことにしたのだ。「ええ! 工房で暮らしましょう!」とはっきりと庭園で口にしたのをリルリルも聞いていた。


 私の決心の瞬間までリルリルは目撃していたわけで、これで言い逃れは無理である。

 しかし、厳密に言えば、違うところもある。訂正させてもらおう。

 薬の分量には厳密さが求められることだしな。


「リルリル、細部が間違っています。私は昨日、クレールおばさんに『お世話になりました。また、ごはんをごちそうになることはあると思いますので、よろしくお願いします』と言ったんです。あくまでも寝泊まりを工房ですると確定させたにすぎません。今後も隙あらば、クレールおばさんにごちそうになる所存です」


「迷惑な奴じゃ」

「相続できる遺産を放棄するのは別にかっこいいことじゃなくて、ただの愚か者です」


 話すだけ無駄と悟ったのか、リルリルは指でくいくいっとこっちに来いのサインを出す。

「朝食は用意しておる。とっとと食堂に来い」





 食堂にはお皿の上に焼いたパンとイチゴジャムのビンが置いてある。

 あとはサラダとチーズ、ソーセージ二本と昨日作っておいたお茶がテーブルに載っている。


「おおっ! ちゃんとしている! ちゃんとした朝食じゃないですか!」

「おい……獣肉がどーんと置いてるようなの、想像しとらんかったか?」


 リルリルがあきれた顔をした。

「沈黙は金、雄弁は銀です。ここは金を選びます」


「言ってるようなもんじゃ。別にこれが初めての料理ではない。村の者の部屋を借りて作ったことなら何度もあるわ。魔法が使えんでも火炎石で火なら起こせるしのう」


 火炎石は魔力が体を流れていれば反応するからな。調理用の火程度なら問題ない。

「それとそっちの五人前ぐらいある朝食はリルリルのものということですか?」


 どれも私の五倍はある料理が向かいの席のほうに置いてある。

「これぐらいは食わんと体が動かん」


「私だったら胃もたれしますが、適正な量は人それぞれですね」

 私たちは席につくと、食事にとりかかる。飢えずに食事にありつけることを神に感謝。


「朝に起きて、朝にごはんを食べる。しかも自宅で。実に健康的な生活です」

「むしろ、昔はそれすらできておらんかったんか?」


「幼い時は施設暮らしで、学院に入ってからは寮暮らしなので、ごはんを自宅で食べるという習慣はなかったんです。厳密には自宅らしき場所で食べたことがないというほうが正しいですが」


「まっ、そなたが師匠なのじゃから、弟子として食事ぐらいは作ってやるわ。食材も守護幻獣の余と上水道を復活させたそなたのためなら、いくらでも村の連中が用意してくれるしのう」


「リルリルと一緒にいるだけでも私はアドバンテージを得ているわけですね」

「もっと感謝せえよ」


「パンの焼きかげん、上手ですね」

「……それも感謝ではあるな。許す」


 この工房での生活も悪くないか。

 などと新生活の朝に、無責任に私は思った。


 ――でも、この一時間後、それどころではなくなったのだが……。





 どんどん、どんどん。

 店のドアが遠慮がちにノックされる。まだ午前中だから開店時間ではない。


「急病でしょうかね。私が出ますので、リルリルは本で勉強しててください」

 カウンターの後ろの作業机で読書中のリルリルを置いて、私はドアに向かう。


 そこにいたのはマクード村長だった。

「あっ、村長。おはようございます。何かありました?」


 表情からして楽しそうな内容ではない。人のよさそうな顔が気まずそうに少し引きつっている。まさか上水道の水で食中毒が多発したなんてことはないよな……。


「朝からすみません。実は代官様の使いが来ましてな……」

「代官? そういえば、この島はどこかの伯爵家の領地の一つでしたっけ」


「ええ。島は伯爵家の飛び地の一つなので、代官様が統治しておられます」

 伯爵家ともなると各地に所領がある。全部を一人で管理できるわけがない。


「それで、代官様が……『連絡もなしに上水道を復活させるのはやりすぎである。担当者は一度、代官屋敷に出頭せよ』と……」


 げっ! また偉い人から怒られるパターンだ!


「こちらも詰めが甘かったですな……。あまりにも急ピッチで事が進んだのでうっかりしていましたが、水利の問題は重要案件ですから代官様に報告しておくべきでした……」


 すみませんと村長が頭を下げる。

「いえ、すべてはこっちの責任ですから頭を上げてください。謝罪に行ってきます」


 こういうのって、お詫びの品としてお菓子でも持っていくべきなんだろうか。

 でも、島に住んでる時点で豪華なお菓子など入手できるわけがない。


 その時、嫌な想像が浮かんだ。


 代官って好色なサルみたいな奴じゃないだろうな……。


 別に自分をかわいいとも美しいとも思ったことはないが、島に親戚の一人もいない身なので、私には後ろ盾がない。まあ、錬金術師が怒って帰るようなことになれば代官の失態にもなるから変なことはしてこないと思うけども……

 と、背後にリルリルが立った。

「案ずるな。余がやったと言えば、代官も受け入れるしかない。行くぞ」


「ああ、最大の後ろ盾がいました」

 私だけでなく村長も外に出たリルリルはそこで獣の姿になる。


「厄介事はすぐに終わらせるに限る。走るから乗れ。あっ、マクードは歩いて帰れ」

 乗せてあげてもいいのにと思ったけど、二人乗りはバランス悪そうではあるな。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
朝起こしてくれて朝ご飯まで用意してある。 見かけに反してお母さん気質ですねリルリル。 そしてようやく出てきましたね代官。 この島の寂れっぷりを考えるとあまり有能ではなさそうな感じですが、はてさて無能な…
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