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錬金術師のゆるふわ離島開拓記  作者: 森田季節
加熱粘土

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36 庭園再生!

 その日は上水道が復活した記念で、取水口の前で宴会になった。

 私は主賓の扱いなのか、食べきれないほどいろんな料理を出してもらった。


 食べたことない料理もいろいろ出た。

 浮かれて踊っている人もいたし、本当にお祭りだ。


「こんなに大々的にやられると照れますね」

 私はどこかの家から持ってこられた椅子に腰かけた。もう、おなかいっぱいだ。


 いろんな家から用意されたテーブルには各家庭で作った料理と、祭りの時だけ作る派手な料理がまだまだ並んでいた。


「そなたは意外と謙虚なんじゃな。事前に仕入れた情報では、学院ではもっと偉そうという話を聞いておったが」


 リルリルはお酒の入ったコップを持っている。

 人間がたしなむ程度では酔わないのか、リルリルはぐびぐび飲んでいる。


 私の代わりにリルリルが飲んでくれるので、その点は助かっている。私はお酒は苦手だ。


「べ、別に偉そうだったわけではないと思いますよ……。ただ、成績がよかったのは事実だから、堂々としていただけです……」


 リルリルが腑に落ちたという顔になった。

「あ~、友達が少ないから褒められることはなかったんじゃな」


「事実だったら何を言ってもいいというわけではないですよ」

 リルリルが手をぽんと私の頭に置いた。


「まっ、追々慣れていけ。そなたはすごいと言われるだけのことをやった。ふんぞり返らん程度にすましておれ」


「善処はしますよ。しかし、工房すら完全には往時の状態にはなってないのに、偉いぞと言っているのもおかしな話ですが」


「ん? 料理はクレールに作ってもらっておるし、クレールの家から出勤しておるが、工房に住むこと自体はできるじゃろ? 何が足らんのじゃ」


「建物の裏側のことです。庭園はボロボロのままじゃないですか」

 いまだに池は黒だか緑だかわからない色に濁っている。毒の沼地みたいな色だ。


「庭園か。そういえば、ずっと後回しじゃった。けど、あれも再生できるじゃろ」

「再生といっても、庭園の場合は水の手を復旧させる必要があるんです」


「水が湧いている場所は見つけたのじゃから、庭園に引いてこればよいではないか」

「……………………ほんとだ」


 庭園に最も必要な水というパーツはもう見つかっていたのだ。

 リルリルが私の首に手を回して、ぐっと引き寄せた。


「工房、これで元通りになるな。どんな錬金術師が視察に来ても恥ずかしくないぞ」

「こんなところに錬金術師が来ることなんてないですけどね。格好はつくものになりそうです」


 リルリルの息は酒臭かった。寄ってなくても、お酒の香りはするものだ。





 上水道が完成した翌日からリルリルは庭園までの水路作りに精を出した。

 工房の椅子に座って植物を磨り潰したりしている後ろで、のこぎりの音がよく響いた。


 ある日、その日の仕事を終えると、リルリルに庭園を見に来いと言われた。

 もう庭に生い茂る草のたぐいはきれいに取り除かれていたし、池の濁った水も捨てられている。


 大きな池は乾いた状態で不自然なくぼみをいくつも作っている。

 当然、水がないんだから未完成だけど、これはこれで風情がある。


 その庭園の奥に連れていかれた。

 そこには新設された水路がある。


 そこに一箇所、木の板で作ったせきがあった。


「さあ、これを引き抜け。庭園を――いや工房を完成させる最後の大仕事じゃ」


「リルリルって催しというか、儀礼的なことが好きですね。それも幻獣のさがですか?」


「ごたくはよいから、さっさとやれ。師匠に花を持たせてやろうという気づかいじゃ」

 それでは、心おきなくやらせてもらおう。


 私はその堰を引き抜く。

 水がその先の水路へと進む。


 庭園の中心をなす大きな池の奥にある小さな池、そこに透き通った冷たい水が注ぎ込まれていく。


 その水が大きな池にも流れ込む。

 ちょっと離れて見てみると、そこには貴族の別荘にでもありそうな、意匠を凝らした庭園があった。


 訪れた当初の、死霊でも出てきそうな薄暗い景観はない。

 水も腐ったような色のものから、清らかなものに変わっているし。


「『錬金術工房 大きなオオカミ』、これにて完成です」

「開店して半月ちょっとか。悪くはないペースではないか」


「たしかにリルリルがいなければ、はるかに遅くなっていたでしょうね。ありがとうございます」

「もっと言ってくれてよいぞ」


 私は人の姿のリルリルにもたれかかる。

「オオカミの姿で、お布団代わりになってくれたら、もっと言ってあげますよ」


「今日は記念の日じゃし、認めてやろう」

 感触が動物のやわらかいそれに変わった。

 私はもふもふの中にくるまれながら、池に水が入っていくのをゆっくりと眺めていた。


「これ、いつまででも見ていられますね」

「わかるぞ。水がたまるだけなのに、やけに楽しいな」

 いつ営業できるんだろうと思った工房も、力を入れれば、よみがえるものなんだな。


 この環境なら毎日暮らすのも楽しいかもしれない。

「工房が完成したのじゃし、クレールの家の邪魔になるのも最後かのう」


「ええ! 工房で暮らしましょう!」

 ようやく、島の錬金術師としてのスタートが切れそうだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
おお、ようやく工房に住めるように。 水は生活の基本ですからねえ。むかし断水したときに思い知りました。 ようやく本格開店ですが、これからはこの村以外の島の他の部分にも影響を与えていくのかな? 続きも楽し…
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