25 石を砕く
私たちはクレールおばさん立ち合いのもと、使用中の畑と荒れ地を改めて見学した。
今日のリルリルは女の子の姿だが、どうも仕事は人の姿で行うという意識があるようだ。人の姿がフォーマルで、リラックスしたい時は獣の姿ということか?
「現役の畑と比べると、土がけっこう違いますね。荒れ地のほうが石が多いんですかね?」
「石は転がってきたのが乗ってるだけだと思うよ。本来の土は耕作をやめた畑も一緒のはずさ。使っている畑に新しい質の土を入れてもないしね」
畑の持ち主が言うのだからそうなのだろう。
「違うとしたら乾燥の差じゃないかねえ。耕作してない土地に水はやらないしね」
私はしゃがみ込んで荒れ地の土を手で触った。
「相当乾いてますね。雑草も低木も乾いていても生えてくるようなものばかりです」
植物の中には恵まれない環境のほうが適しているものもある。砂漠や海辺にだけ咲く花もあるぐらいだ。好立地というのは種によって違う。
「土の底には水はあるからのう。いっそ完全に水を絶ってやればどうにかなりそうじゃが」
リルリルも手で土をすくっている。
「理論上はそうなりますね。乾燥してるところに適した植物も、水が一滴もなければ枯れちゃいますから。……ん?」
理論上の状態は自然環境では存在しない。
だが、私の手で作ることならできるかもしれない。
「上手い具合にいくかどうかは実践してみないとわかりませんが、やり方としては間違ってはないです……。仮に失敗だとしても有害性もないですし……。材料もそれなりにあるはずですし……」
「何をぶつぶつ言うておる。案が浮かんだのなら余にも教えよ」
リルリルが顔を近づけてきた。
「リルリル、ちょっと重労働になるかもしれませんが、お願いしてよいですか?」
「この島を持ち上げよとか無茶な願いでなければ何だってやってやろう」
「石を細かく砕いてくれればそれでいいです。比較的もろい石です」
「どこかの屋敷でも解体するのか?」
「違います! 違います! もっと小さいスケールです!」
幻獣の価値観だとたいていのことは重労働にならないのだなと学んだ。
●
私は工房に戻ると、リルリルに金づちを手渡した。
一家に一つあってもそこまでおかしくないサイズのものだ。
非力な私でも使える。たまに指を叩くので、自分ではあまり使いたくないけど。
「なんじゃ、小さい金づちじゃな。拍子抜けじゃ」
「それを使って、この石をできるだけ細かく砕いてほしいんです」
私は青みがかったこぶし大の石をリルリルの前に置いた。
「任せておけ。砂粒と変わりないぐらいにしてやろう」
「まさにそれぐらい細かくしてもらえると助かります。大きな石のままでは撒布できませんからね」
リルリルは金づちでガツガツ石を砕いていく。
私にとっては無味乾燥な作業なので、極力やりたくないのだが――
リルリルはものすごく楽しそうな顔をしていた。
「はっはっはー! 細かくなるがよい!」
なんだか親の手伝いを頼まれた子供みたいだな……。
さて、リルリルだけに作業をさせるわけにもいかないので、私も下準備を。
石の効果を強化する魔法陣を窯の下に描いておく。
私がサボったせいで失敗というのは困る。
これでも優等生だったのだからいいところは見せないと。
それと一作業終えたリルリル用に何か冷たいドリンクを用意しておこう。
料理は苦手だけど、レモン水ぐらいなら私でもできる。
水にレモンをたくさんしぼって、そこに氷を入れて――
「よしっ! できたぞっ! こんなもんでよいじゃろ!」
「早っ! 想像よりずっと早っ!」
リルリルの前には、もはや石とは呼べない砂ができていた。
「ありがとうございます。ここからは私の仕事です。リルリルは休んでいてください」
「ところでこの石は何じゃ? いいかげん教えよ」
当日、効果を見てもらいたいなと思ったのだが、これ以上黙っていてはリルリルが機嫌を損ねてしまうか。
「この石は『渇きの石』というアイテムです。自然由来の石ですが、名前を言えばだいたい想像はつきますよね」
リルリルが口角を上げて、にやっと笑った。
「せっかくじゃし、これを試す時はギャラリーも集めてはどうじゃ? 工房がオープンする宣伝にもなるじゃろ」
「悪くはないですね。失敗したらダイナシですけど、その時はその時ということで」
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