107 盛り上がったので感謝された
「点数での比較は学院という素人が集まる場だったから必要だったことでしょ。プロになった私たちには意味のない基準です。まさか果物ジュースに負けたから自分は錬金術師の資質がないなんて思います?」
アルメリーゼさんが両腕をだらーんと挙げた。
なんか獣の威嚇行動みたいだなと思ったが、顔は笑っていた。のびをしただけか。
「あ~あ、ワタシの負け。浅はかだった」
「理解してもらえたようですね。理解してもらえてなくても、私が勝ったのでどうでもいいですが」
「直接対決して、すっきりしたわ。あんがとね」
差し出された手をどうするかしばらく迷ってから、私はその手を握った。
「学生と握手したの、確実にこれが初です」
「友達がいても普通は握手しないじゃん」
それもそうだよな。
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対決はそれで終わったので、イベントも続きようがないはずだったけれど、そのあとも島を中継地にしている船乗りのラッパ演奏だとか大道芸だとかがあって、その日は島で一番盛り上がった――とあとでガキ代官のエメリーヌさんから聞いた。
私は一仕事終えて、休憩スペースの椅子で昼寝していたのだ。なので大道芸とかはほぼ見てない。
起きたら、目の前でエメリーヌさんがアルメリーゼさんと話をしていた。
「アルメリーゼさん、あなたのおかげもあって盛り上がりました。こんなに盛り上がったのは本当に久しぶり。あなたには不本意な結果だったかもしれないけど、本当に感謝します」
エメリーヌさんの態度、私の時より丁寧だな……。
「ええと、これで……そんな盛り上がりなんですか?」
「そ、そうよ……。王都と比べれば地味で、祭りみたいなものもあまりないところよ……。人口が少ないんだからしょうがないの……」
エメリーヌさん、まあまあムカついていてるな。
この二位、目上の人間に対応できないタイプだ。
「フレイアさん、あなたもお疲れ様」
「やっぱり私の対応のほうが雑だ」
「むしろ、あなた、起きたんだったら立ち上がりなさいよ。雑なのはそっちよ」
それもそうだ。私はちゃんと立ち上がる。
「以前にエメリーヌさんに果物をいろいろ出してもらって、それで思いつきました」
「何が幸いするかわからないものね。ここでは落ち着かないから代官屋敷に案内するわ。もちろん、あなたの弟子も入れて」
代官屋敷で私たちは丁寧な仕事で作られた島酒をいただいた。
炭酸がよく利いていて、私は好きだ。
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翌朝はアルメリーゼさんが帰る日なので一応見送りぐらいはするつもりだった。
ここで、「見送りにも来なかった」と恨みの記憶を先頭に植えつけられてはたまったものじゃなしいな。当面会うことはないからこそ、礼儀は守ったほうがよい。私も工房を経営している以上、社会人なのでそういうところはちゃんとしたい。
だが、朝から妙なことが起きていた。
リルリルがいないのだ。
そのせいで私は起きれずに寝坊しかけた……。
食堂には朝食と、「港に出かけてくる」と置手紙がしてあった。家出したのでも誘拐されたのでもないので、
「ごはんでも食べるか……」
リルリルによって用意された朝食をいただくことにした。
食事中にナーティアがやってきた。だが、そのナーティアも妙にあわただしそうな感じで、ひったくるようにパンを口に詰め込んだ。
「今から港に行ってまいりますわ」
「えっ? 見送りで出かけるつもりでしょうけど、船が出るのは昼前なんで、あまりにも早すぎますよ」
「それはそうなのですが、アルメリーゼさんに早く来てほしいと言われていまして……」
少し申し訳なそうにナーティアが言う。
これはいったいどういうことだ?
「よくわかりませんが、私も早めに行きます」
行ってみたら、事情はすぐにわかった。
「そんなに一気に山まで駆け上がれるんですね! この足腰ならわかる気がします!」
アルメリーゼさんがオオカミ姿のリルリルに黄色い声を上げていた。いや、これは黄色い声の使い方としては間違ってるか。
「まっ、余にとっては日常じゃからの。すごいと思ったことはないわい」
リルリルもいつもの三割増しで調子に乗っている。
それが終わると、今度はナーティアの番になった。
「ナーティアさん、もう一度翼を動かしてもらいます? わわわっ! これだけすごい風圧!」
「これぐらいの風を起こさないと飛べませんもの。浮き上がる時に一番力がいりますから」
ナーティアも正面切って褒められて、やはりうれしそうである。
私は横でつまらなそうに石に腰かけていた。
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