105 勝負アリ!
「一言で言えば、超高級ポーションってとこね」
やっぱり、その方向性か。
「あんたはなんで薄ら笑いしたわけ?」
また、にらまれた。
でも、笑ったのはまずかったな。安堵が顔に出てしまった。
「いえ、何もおかしくないと思いますよ。王道ですね」
「まるで、自分が邪道だと言いたいような表現ね」
「それについてはノーコメントです」
意外と察しがいいじゃないか。
「こほん……話を戻すと、今回は通常の高級ポーションで使用する薬草だけにとどまらず、さらに稀少品の生薬を大幅に足したわ。まともに販売したら、高級ポーションを愛用してる熟練の冒険者でも手が出ないような値段になるんじゃない。値段負けしてるなんてこともなくて、回復力も超すごいから!」
「たしかに疲労がみるみる抜ける!」「いつも飲んでるやつとまったく別物だな!」
そんな声が審査員から聞こえてきた。
なにせポーションだからな。回復しなきゃ不良品だ。
「そうでしょ、そうでしょ! 生薬の有効成分も丹念に抽出。ベースのポーションのほうも手抜かりナシ。葉っぱの残りかすが沈澱してるなんてことも絶対にない。ポーションの中のポーションと言っていい! これよりいいポーションは王都の中、いや、大陸中探したってどこにも売ってないから!」
そのアルメリーゼさんの態度に歓声が上がる。
よく人前であんなにしゃべれるものだ。でも、私も多人数すぎるとかえって気楽になる時はあるからわからんでもない。
「それじゃ、対戦相手のフレイアのほうにも聞いてみようかの。今回のポーションの特性は?」
「まだ語りたくありません!」
私は断言した!
「はぁっ? ふざけるな! こんなに人が集まっておるのに、いいわけなかろう!」
会場には笑いが起きた。
私はギャグセンスがあるのかな。
「落ち着いてください。話さないとは言ってませんよ。まだ語らないと言ったんです。ここで語りまくって負けたら恥ずかしいでしょ! どうせすぐに勝負はつくんだから、勝敗を確認してから語ります! 勝ったのがわかったらたくさん語ります」
「セコすぎるじゃろ!」「あなた、恥ずかしくないの?」
また司会者と対戦相手両方から責められた。
「だって、こっちは島在住ですから! 3-8みたいに大敗した場合、当面いじられ続けますから! そりゃ、対策もしますって! 王都に戻れば青翡翠島のことなんて聞いたこともないお客さんを相手にするあなたとは違うんです!」
「萎えるわー。保険をかけすぎて恥ずかしくないわけ?」
「いえ、ここで威風堂々とうんちくを論じて大敗したほうが恥ずかしいので。ポーションのコンセプトは明快なので、話すこと自体はいろいろありますよ」
「さっきは勝つ気でいるって言ってたじゃん。ワタシのポーション見て、急に弱気になった?」
「勝つ気ではいますし勝てるとも思ってますが、結果見てからでも遅くはないです! ほら、審査員の皆さんもそろそろ両方飲み比べて結論が出はじめてるようですよ!」
そりゃ、二種類の飲み物を比べるだけだから時間はかからないだろう。
「もめとるようじゃが、対戦なわけじゃし、これはこれでよかろう。守護幻獣の余がよいと言うからにはよい」
言葉の応酬は司会者からは理解が得られた。
「じゃあ、審査員は勝者の名前の書いてある布を挙げる準備をしておけ。逆のほうを挙げないよう、よ~く点検しておくように。まだ決めかねておる者、審査に時間がほしい者はおるか?」
誰も審査の時間を求めなかった。まだ開示されてはいないがこの時点で結果は出たわけだ。
「よーし、では、布を掲げよ!」
審査員たちが布を頭上に広げた。
その結果は――
フレイア 11 ―― アルメリーゼ 0
「ぜ、全員フレイアじゃと……。ほんとか? ほんとじゃな?」
審査員たちが左右を見ながら、うなずく。
「というわけで、フレイアの完勝じゃっ!」
観衆からも「おめでとう!」「やったー!」という声や拍手が上がった。島でやってるからか、大半は私のほうを応援してくれていたらしい。これは素直にうれしい。
「よーし! よしよし! 勝ちました! 作戦成功です!」
珍しく私も全力で喜んだ。ここまで結果が露骨に出ることってあまりないからな。【除湿の石頭】なんか設置したところで、何が変わったか全然わからないし。
「そんな……」
アルメリーゼさんはその場に崩れて、膝をついた。この様子だと勝てると思っていたんだな。たしかに彼女に弱気なところは一切感じなかった。
「せ、説明をしなさいよ! ポーションにコンセプトがあるんだよね? 負けたアタシが納得できるようなすごいコンセプトを話して!」
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