バッド選択?・再会 ~夜明~
去年とは色々と変わってしまった夏休みが始まって、数日が経っていた。
去年の夏休みは何をしていたかと思い出す。家でゴロゴロして怒られたり、友人と遊びに出かけたり、部活で汗を流したり生徒会の仕事を手伝ったりと、なんだかんだ充実していた気がする。
それが今年はどうだろうか。今の所、充実した夏休みを謳歌しているとは言い難い。
「なんだよ? あんま楽しそうじゃねぇな?」
「いや別に、そういう訳じゃないんだけど……」
俺の隣を歩き声を掛けてきたのは外川海。夏休みに入ってからコイツの顔を見るのは五回目だ。というか、コイツ以外と遊んでいない。
そんな海と俺はこれから合コンに向かう。海が俺のためと言って企画してくれた合コンなのだが、正直あまり気乗りはしていない。
だけど親友が俺のためだとセッティングしてくれたのだ。俺自身も、いつもでもこんな状態じゃ……という気持ちもあったので参加することにしたのだが。
「それより海、その格好で行くのか……?」
「ん? なんか変か? いつも通りだろ?」
「あぁまぁ、いつも通りではあるんだけど……」
これから行くのは合コンだよな? 異性との出会いの場、少しどころかガッツリ気合を入れた格好で臨む場所だと思うのだが、海の格好はかなりラフだった。
俺は合コンとは初めての経験なのだが、もしかして俺の認識が間違っているのだろうか? 高校生の合コンなんて、気合入れるだけ馬鹿なのか?
「いやでもお前、流石に寝ぐせは直して来いよ!?」
「別にいいって……ていうか俺、昨日風呂はいってねぇわ、なはは」
「なははじゃねぇよ……女子に会いに行くんだぞ? 風呂くらい入れよ」
「う~ん、だって興味ねぇんだもんなぁ」
どういう事だ? 風呂に興味がない? 興味がない事にはとことん興味を示さない男だという事は知っていたが、流石に風呂は興味なくても入れ。
まぁ寝ぐせが付いていようがTシャツに皺が寄っていようが、そんなの問題ないとばかりの顔面偏差値なので、女の子は全員海狙いになる気がするが。
「そういうお前は随分と気合入れてきたなぁ~。彼女作る気満々か?」
「別に普通だろ……というか、そんな簡単に作れたら苦労しない」
「……それもそうだな。まぁダメでも俺がいるから安心しろ! 俺はずっとお前といてやるからよ」
「はぁ……へいへい、ありがとよ」
なんの安心をしろというのか、なぜか楽しそうにする海の顔を見ているとため息が出る。そんな言葉がポンポン出てくるのもイケメンだからなのか。
海は俺の失敗した話をしていたようだ。それを考えれば、残ってくれているのは海だけなんだな。まぁそもそも恋愛と友情は違うのだろうけど。
俺達はその後、別の友人二人と合流して女の子達との合流場所へ向かった。
――――
――
―
待ち合わせ場所となっていたカラオケ店が近くなると、ワクワクよりドキドキの方が強くなってくる。
いよいよ目的地のカラオケ店が見え始めると、店の入り口前にいる四人の女性の姿も見えてきた。
それを見た海が俺達より一歩先を歩き出し、片手をあげながら女子達に近づいて行く。
「お待たせ~、早いね? もしかして待った?」
「ううん、少しだけだから大丈夫」
海と顔見知りな様子の女の子は、可愛いとは思ったが正直に言うと、服装も派手だし少し遊んでいそうな女の子だった。
というかもう一人も中々に凄い格好だ……夏なのに長袖、黒タイツとは、暑くないのだろうか?
残りの二人は普通だな。なんか失礼に聞こえるかもしれないが、前者の二人が目立つもんだから凄く普通に見える。
でもこの目立つ二人、どこかで……気のせいだろうか? 会ったことがあるような、ないような。
「ここで自己紹介もなんだしさ、中に入ろうぜ?」
「そうね、そうした方がいいと思う」
「じゃあ~みんな、予約は取ってあるからとりあえず行こうぜ~」
気の抜けた感じの声を出す海に続いて、みんなカラオケ店の中に入っていく。男連中に女子達が続いたのだが、なにか背中に視線を感じた。
軽く振り返ってみると、バッチリと目が合った。どうやら俺に視線を送っていたのは、派手な子と厚着な子だったようだ。
なぜ俺を見ていたのだろう? それは、自己紹介をした後ですぐに分かるのだった。
――――
――
―
「あ~じゃ~俺からな。外川海です、よろしく~」
海から始まった自己紹介。次いで友達の二人が自己紹介を行っていったのだが、二人の気合の入った自己紹介に比べ、海の自己紹介は随分と簡素だと感じた。
――――気合を入れる――――
最後が俺だったのだが、海ほど簡素になるのもあれだよな。前の二人も気合いが入っていたし、雰囲気を維持するためにも気合いをいれて自己紹介をした。
続いて女性陣が自己紹介を始める。先陣を切ったのは女性側の幹事なのであろう、少し派手な服装の女性だった。
「霧峰帆波で~す。今日はよろしくお願いしますっ」
明るく元気にそう自己紹介をした霧峰さん。亜麻色の髪にピアス、お洒落な服装を見れば誰かを思い出しそうになるが……あれ? 本当にこの子、どこかで……霧峰?
なんて記憶を掘り起こそうとしていた時、次に自己紹介をし始めたのは厚着の女性。一度思考を中断し、彼女の自己紹介を聞く体制を整える。
「霙寺悠里です。よろしくお願いします」
この子は霧峰さんとは対照的に、静かというか優しそうな声で簡単に自己紹介をした。長い黒髪に厚手の黒タイツ、肌が白く綺麗なので異様に目立つ。
そんな霙寺さんだが、珍しい名字という事もあって思い出した事がある。近所に住んでいて、小さいころによく遊んでいた子も霙寺という名字だったはずだ。
彼女たちに続いて残りの二人も自己紹介を行った。全員が自己紹介を終えたところで、色々と食べ物を頼み始める横で、役目は終えたと言わんばかりの海が歌を歌いだした。
何やってんだよ幹事さん……まさか始まってすぐ、真っ先に歌いだすとは予想外だった。
歌い終わったら文句を言ってやろう、そんな事を考えていると海が立った事で空いた隣の席に、霧峰さんが躊躇なく座ってきた。
「ね、天道進君……だよね? あたしの事、分かる?」
「……やっぱりどこかで会ってるか? なんか見た事あるような気がして……」
「まぁ分からないか。あたし高校デビューしたから。中学の頃は地味で引っ込み思案だったし、髪も真っ黒だったしね~」
「地味で……霧峰……もしかして、黒縁の眼鏡かけてた?」
「ん、掛けてたね。凄いね、思い出したんだ?」
「あぁ思い出した……っていうか分かった。中一と中二の時の、クラスメイトじゃん!」
霧峰帆波、確かにそんな名前の奴が中学時代の同級生にいた。中三で別々になり、高校も別だったので会うのは本当に久しぶりだ。
しかし凄い変わりようだ。本人が言う通り、昔の霧峰は地味で大人しい子だった。
教室の隅で静かに本を読んでいるような子……まぁ話した事もないので、イメージでしかないが。
「二人って、昔からの知り合いなの?」
霧峰と話していると、向かい側に座っていた霙寺さんが声を掛けてきた。
中学時代の同級生だという事と、数年振りに再会した事などを説明する。
すると何が面白かったのか、軽く笑った霙寺さんは意味がわからない事を言ってきた。
「すごい偶然、私達も久しぶりなんだよね?」
「久しぶりって、どういうこと?」
「あ~、やっぱり覚えていないんだ? 私はすぐに分かったのになぁ」
少しだけムスっとした霙寺さんは、ジッと俺の顔を見てくる。早く思い出せと言わんばかりの表情を見て、俺は必死に記憶を掘り起こす。
いや全然分からない。分かるのは霙寺って名字の子が近所にいて、よく遊んだ記憶があるという事だけ。
それしか記憶がないのだが、遊んだのは男だったと思うんだが……まさかな。
「まさか、昔よく遊んだ……霙寺悠都くん?」
「なんでそうなるかなぁ? 霙寺悠里! 悠都は私のお兄ちゃんだよ!」
いた、そういえば妹がいた。たまに悠都くんの家に遊びに行った時、遊んだ記憶がある。
外で遊んだ記憶は一切ないが、家の中でゲームとかして遊んだっけ。
「進くん、ほんと久しぶりだねっ! あの気合い入れた自己紹介ですぐ分かったよ」
「あなた変わってないわね! 懐かしいわぁ~。まぁあたし達は三年くらいだから、そんな変わらないか」
久しぶりだし、すごく変わったよ。二人とも凄く可愛らしくなった。
そんな二人と、まさかこんな所で再会するなんて。
ここに来る前の真っ暗だった心に、光が差し始めたような気がする。
この再会、出会いを良いものに出来るのかは、これからの選択次第なのだろうか。
お読み頂き、ありがとうございます
遅れてすみません、転属して環境が変わってしまい推敲時間が取れていないのです…




