第7話 気になるあの子達は俺に興味なし
【何も言わない】
→【気になるなら行けば?】
「お、お前誰だよ……? そこは行人の席だぞ?」
容姿を大きく変えてから、今日が初めての月曜日。つまりこの姿でみんなの前に立つのが初めてな訳だが、みんなの反応は面白いように変わっていた。
遠目に見てキャーキャー言う女子たち、驚き目を見開くクラスの男子。そんななか俺の僅かな友達だけが意を決して話しかけに集まっていた。
「俺が行人だから、この席で合ってる」
「い、行人? う、嘘だろ?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「行人はボサ髪陰キャメガネなはずだぞ、なぁ?」
「「せやせや!」」
「……お前ら、そんな風に思っていたのか」
ボサ髪メガネは事実だが……俺って陰キャって思われていたのか。
そんな俺といてくれたお前たち陽キャには感謝だな。
「ほ、本当に行人なんやな!?」
「本当や」
「自分を行人だって思い込んでいる宇宙人って事はあらへんか!?」
「あらへんわ。ドつくぞボケ」
代表して話しかけてきた陸は、信じられないと言った表情をしている。陸の隣にいる数人の友達も、概ねそんなリアクションだった。
「お、俺の名前は?」
「中島陸」
「部活は?」
「バスケ」
「俺の秘密なんか知ってる?」
「教育実習で来た大学生に告白して振られた、しかも二回」
「二回目を知っているとは……本物だ、本物の行人だ!」
陸を皮切りに友達が質問してきたが、全てに答える事ができた。
いよいよ俺が本当に地道行人だと分かると、遠巻きに見る事しか出来なかったクラスメイトの女子が集まり始める。
「なに行人くん? イメチェン?」
「まぁそんな感じ」
「似合ってるよっ! カッコいい!」
「ありがと」
「もしかして彼女でも出来た?」
「出来てないよ、募集中」
あまり熱を入れないで答えているが、引っ切り無しに質問が飛んでくる。
その中には可愛い子もいて、少し前までは興味津々だったはずなのだが……なぜだろう、今はどうでもよく感じてしまう。
「じゃあ立候補しちゃってもいい?」
「ちょっと、それは図々しすぎ」
「え~じゃあ番号交換しようよっ」
「あ、それなら私も!」
別に番号くらいならどうでもいいかと、クラスメイトにスマホを差し出した。
黄色い声を上げつつ皆がスマホを操作し始めたのを横目に、俺はさり気なく後ろを見てみた。
「ねぇ進、なんで電話に出なかったのよ?」
「ちょっと用事があったんだよ」
「かけ直してくれればよかったじゃないっ」
「ま、まぁまぁ玲香ちゃん」
そこには先週と同じく、天道に晴山、安曇がいて何やら会話をしていた。
その三人は、すぐ近くに異様な人だかりがあるというのに、大して興味を示していないように見える。
自分で言うのもなんだが、こんな面白い変化を遂げたクラスメイトがいるのだから、なにかしらリアクションがあってもいいと思うのだが。
と思っていたら、一瞬ではあったが安曇と目が合った。
すぐに逸らされてしまったが、安曇は少しだけ興味があったようだ。
「でもお前さ、なんでいきなり?」
「まぁ~、気分転換かな?」
「気分転換どころかよ? いろんなもんが転換しちゃってんぞ」
陸の言う通り、俺は色々と変わったのかもしれない。もちろん外見もそうだが、外見を変えようと内面が大きく変わったのだから。
しかし今日はこんな人気者になっているが、数日もすれば収まるだろう。
友達との関係は変えるつもりはないし、さっきからキャーキャー騒いでいる女子と関係を進展させようとも思ってない。
そのうち、誘っても全く靡かない奴と分かれば、女子たちも距離を置き始めるに違いない。
「――――もういいわよ! 知らないっ」
「れ、玲香ちゃん!」
そんな時、ひときわ大きな声が耳に入ってきた。
俺の周りで騒ぐクラスメイトは気づいていないようだが、後ろの様子を気に掛けていた俺にはハッキリと聞こえてきた。
何事だと振り返ると、天道の元を離れた安曇が教室から出て行くのが見え、残された天道と晴山がなにか言い合いしているのが目に入った。
一歩前進。どうやらまた間違ったようだ……って、またデジャブか。
「そうだ行人っ! 宿題は!? 見せて!」
「いいけど……ほら、もう時間切れだぞ」
「なっ……そんなぁ」
教室に入ってきた教師の号令で、人だかりは散り散りに。陸は最後まで抗っていたようだが、最後は諦めた様子で席に戻って行った。
陸も予想外だったのだろう。宿題を見せてもらいに俺の席に来たら、知らない誰かが座っていたのだから。
なにはともあれ、容姿変更計画は成功したようだ。
――――
――
―
その日の放課後。大勢の女子から遊びに行こうと誘われたが、その全てに断りを入れた俺は、紅月さんの運転する車に乗り込んでいた。
別に送り迎えがあるのではなく、今日が特別なだけ。急に母親から招集がかかり、それに応じたためアースロード製薬に向かっていたのだ。
「なんの用事とか、聞いてますか?」
「特には。しかし恐らく、私のせいですね」
後部座席に乗った俺は、紅月さんに母に呼ばれた理由を尋ねた。するとどうだろう、予想外の答えが返ってきた。
「紅月さんのせい……ですか?」
「はい。先日私が、行人さんの変化についてお話してから、目が変わりましたので」
紅月さんによると、俺が髪を切ったり染めたりして、随分とカッコよくなったと母に伝えたらしい。
それを聞いた母が、いてもたってもいられなくなり俺を呼び出した……と紅月さんは考えているようだ。
「すみません。私も嬉しかったもので、つい」
「う、嬉しいですか?」
「昔から知っている男の子が、やっと自分の魅力に気づいてくれましたので」
後部座席にいるため紅月さんの表情は見えないが、声から笑顔でいてくれているのは分かった。
俺の変化なんかが嬉しい事だと言ってくれるのであれば、それだけでも思い切って良かったと思う。
この紅月さんとの付き合いは、もう何年になるだろう? 父が亡くなった時だって、紅月さんには凄くお世話になった記憶がある。
そういえばいつからだろうか? 紅月さんの事を――――
「――――そう言えば最近は、お姉ちゃんと呼んでくれないのですね」
「そ、そんな時期もありましたね」
朱音お姉ちゃん、そう呼んでいた。記憶では高校進学と同時に呼び方を変えた様な気がする。
まぁ恐らく、恥ずかしくなったのだろう。最も身近な女性といえば、母を除けば紅月さんだったのだから。
「昔のように、お姉ちゃんに甘えてくれてもいいのですよ?」
「か、勘弁してください……」
絶対に揶揄われている。声から紅月さんがニヤついているのはすぐ分かった。
そんな昔から俺の事を知っているお姉ちゃんに辟易しつつ、母の待つ会社へと向かった。
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次回選択肢
【生徒会室に行く】
【玲香に謝りに行く】
【部活に行く】




