第7話 make or break
→【こっちに来い】
【俺から向かう】
「――――華絵! 玲香!」
晴山と安曇と一緒に登校し、校門を潜った瞬間に聞こえてきた男の声。
背後から聞こえてきた声に二人は振り返り、遅れて俺も振り返った。
そこにいたのは、まぁなんとも悪い顔をした天道進君。眉間に皺を寄せ、睨み付けているのは……俺?
まぁ、なんで睨み付けているのかは何となく分かるけども。
しかし、時間的に登校する生徒は少なめとはいえ、好奇の目が少なからずこちらに注目している。
そんな目に晒される女の子の事を考えたりしないのだろうか?
「……お知り合いですか?」
「「まぁ……」」
どうやら二人のお知り合いのようだ……なんて冗談だが。
天道とこの二人がよく一緒にいるのは俺だけではなく、大勢の生徒が知っている事だろう。
彼らが彼氏彼女の関係でない事はみんな分かっているとは思うが、俺の横にいる今の状況は不思議に思っているかもしれない。
しかしもっと不思議なのが、彼は呼び掛けるだけでこちらに寄ってくる様子がないという事だ。
何がしたいのだろう? その後は睨むだけで何も言わないし動かない。
「……なぁ、もう行こうぜ」
「えっと……」
「そうね」
俺は振り返りながら二人を促すと、安曇は同じように振り返り歩きだそうとするが、晴山は動かなかった。
その表情はまるで、天道には逆らえないとでも言うかのようだった。
とはいえ安曇の足は動き出していたので、それを見たのであろう天道は周りなどお構いなしに声を荒げた。
「待てって! 二人とも何してんだよ? そっちじゃなくてこっちに来いよ!」
うわぁ……はい、終了です、お疲れ様でした。と言いたくなってしまうな。
何様なのだろう? その行動、その選択が間違いなのは誰の目にも明らかだ。
「はぁ? なによそれ? アンタが来なさいよ」
「…………」
その言葉に安曇は当然のように反発した。なぜ下駄箱と反対の方に足を運ばなければならないのだと、不機嫌そうに言葉を続ける。
対して晴山は言葉を発する事はなく、その表情には戸惑いが浮かんでいた。
「いいから来いって!」
「……意味分かんない。行きましょ、地道」
安曇は俺の腕を引き下駄箱にむかおうとする。俺はそれに逆らわず流れに身を任せた。
その瞬間周りが沸き立つ。あの安曇が天道以外を選んだと。
「――――ごめん二人とも。わたし、進くんとお話してくるね」
そう言うと晴山は、俺達とは逆方向に足を動かし始めた。
その行動に僅かばかり安曇は驚いたようだが、声を掛ける事はなかった。
俺も晴山の行動に思う所はあったものの、こちらも流れに身を任せた。
「……玲香、お前もこっちに来いよ」
「だから、なんなのよそれ!? なんでそんな事言われなきゃならないの!?」
晴山が天道に向かった事で、少し彼には余裕が生まれたのだろうか?
最初に見せた険しい表情は消え、言葉は雑なものの声色は静かだった。
「なんでって、いつも俺の傍にいるじゃん」
「そ、それがなによ」
「それがなんでそっちにいるんだよ? おかしいだろ!」
「……なによそれ」
天道のその言葉で、安曇の表情から色が落ちた。
それはいつぞや見た記憶がある表情。どうでもいい者にどうでもいい事を言われた時の安曇だ。
――――さぁ、そろそろか。
積み重ねたお前の行動、言葉、態度、そして選択は彼女との道を消してしまった。
次はいよいよ、運命の分かれ道。
残された道は一つだけ。
その道に進まなければ、いよいよ訪れる。
ハッピーエンドか、カタストロフィか。
「――――安曇はお前の物じゃないぞ?」
様子を見守っていた俺は、天道のあまりの言葉に我慢できずにそう言った。
俺の言葉に安曇は表情に色を戻し、天道の表情も再び険しくなった。
「お前の物でもないだろうが!」
「そりゃもちろん、安曇は誰の物でもない」
「だったら今まで通り――――」
「――――なんかお前、勘違いしてないか?」
天道の言葉を遮る。ダラダラと続けても安曇と晴山が可哀想だ。
徐々に増えてくる生徒。それに伴い集まる目も増えていた。
「安曇がお前の傍にいたのは、安曇自身の意思だろ」
「それがなんだよ? その意思がなくなったって言いたいのか!?」
「お前に強制される謂れはないって言ってんだよ」
「お、俺は強制なんて……」
ガッツリしていたと思うが。無意識だったと言うのならば、それは人としてどうだろう。
安曇もそういった意味で苛立ったのだろうし。
天道は俺の言葉でハッとした表情となり、発言を後悔し始めた雰囲気があるが――――もう遅い。
「れ、玲香……俺の所に、来てくれないか?」
「…………」
吐いた唾は飲み込めない。一度そういう一面を見せてしまっては、中々に挽回は難しい。
相手が安曇なのも最悪だ。見れば分かるだろう、そういうのが嫌いな子だって。
「れ、玲香……?」
「……意味分かんない」
安曇はそう呟くと、天道から視線を逸らした。
それを見た天道は、表情を絶望の色で染めた。
そして俺は、もう遅いのだと天道進に伝える。
「もう行こうぜ――――玲香」
「あ、うんっ…………うん?」
「お、おい! 待っ――――」
少しだけ嬉しそうに返事をした玲香を確認後、俺は天道を無視して下駄箱へと向かった。
後ろでは天道が玲香にゴチャゴチャ言っていたようだが、玲香が振り返る事はなかったようだ。
下駄箱に着き振り返ると、そこには何か言いたげな顔をした玲香が俺を軽く睨んでいた。
「天道はいいのか?」
「べ、別にいいのよ。なに言ってるのか分からなかったし……」
まぁ確かに、いきなりあんな事を言われれば面も食らうか。
彼はどうしてあんな事をしてしまったのだろう?
何か彼の気に触る事をしてしまったのだろうか? 俺は二人と登校しただけなのに……なんてな。
――――さぁ、彼は気づくだろうか?
残った道は、最後まで隣にいてくれている彼女との道だということに。
それに気づけなければ、もう救いようがない。
「そ、そんな事より! アンタどさくさに紛れてあたしのこと名前で呼んだでしょ!?」
「だめだった?」
「だ、だめじゃ……ないけど……っ! ならあたしも、名前で呼ぶからねっ!?」
「だめ」
「な、なんでよ!? 絶対にそう呼ぶからっ!」
「どうしても呼びたいならいいよ」
「べ、別にどうしてもなんてっ…………行人……」
「なに、玲香」
「~~~~っ」
真っ赤だけど? 可愛いかよ。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
【天道side】
お盆玉ってあるんですね、甥や姪に毟り取られました
私にもお盆玉(評価)ください




