第6話 一緒に登校、晴れのち曇り
→【追いかける】
【追いかけない】
晴山と登校する事になったが、時間的に余裕があったのでノンビリ話ながら歩いていた。
最寄りの駅に着き電車に乗り込む。時間的に早いためなのか電車内は比較的空いていた。
「座るか?」
「うん」
通学時に座れる事なんて滅多にない。座って通学出来るなら、あの時間に家を出るのもアリかもしれん。
まぁ数駅で学園の最寄り駅なので、微妙な所はあるけれども。
だが隣に座ってくれるのが美少女なら話は別だ。
さっきからいい匂いがしたり、肩が少しぶつかったりと嬉しいイベントが発生してくれている。
「電車通学いいなぁ」
「俺からしたら、徒歩や自転車で学園行ける方がいいけどな」
どちらも良いところ悪いところがあると思うが、たまにある満員電車……あれだけはどうしても慣れない。
「――――えっ? な、なんで二人が一緒にいるの!?」
近くから驚いたような声が聞こえてきた。
声の主を確認しようと声がした方に目を向けると、そこにはまさに驚いたといった表情をした安曇玲香がいた。
「安曇じゃん、おはよう」
「お、おはよ……って華絵、あなた電車通学じゃないわよね?」
「う、うん。今日は……ちょっとね」
「な、なによその反応……アンタ達まさか!?」
何を勘違いしたのか知らないが、先ほど以上に驚いた表情となった安曇。
普段は電車通学じゃない友達が、大きめな鞄を持って男と一緒に電車通学してて、問い詰めたら恥ずかしそうな反応。
うん、アレだ。昨日は初めて彼氏の家にお泊まりしたの~……なアレだ
なんか面倒な事になりそうだし、話を逸らそう。
「安曇、リボン使ってくれてるんだ? 似合ってるよ」
「あ、ありがとう……いやそんな事よりっ」
安曇はサイドテールの髪型にリボンを結んでいた。
学園ではいつもストレートだったと思うが、俺的にはサイドテールの安曇の方がしっくりくる。
「……ねぇ玲香ちゃん、リボンってなに?」
「な、なにって……もらったのよ、地道に」
「……ふ~ん。というか二人って知り合いだったんだ」
「あなた達の事だって知らなかったわ……どんな関係よ」
逸れなかった。それどころか微妙に雰囲気が悪くなってしまった気もする。
もしかして、お宅のお友達とお友達やらせてもらってますとか、そういう許可が必要だったか?
「ねぇ、まさかあなた達、付き合ってるの……?」
「ち、違うよ! 地道くんには拾ってもらっただけ!」
「拾ってもらった……? なにそれ、どういう事」
「えっと、色々とあって……」
「と、とりあえず付き合っている訳じゃないのね?」
安曇の問いに晴山が答えると、安曇は気の抜けたような表情をした。
そして色々とは何があったのかと、晴山に聞き始める。
俺の隣に座って。
「それで、色々って何があったのよ?」
「え、えっとぉ……昨日、家に帰れなくなっちゃってね?」
「帰れなくなった? なにそれ、親と喧嘩でもしたの?」
「う~ん……当たらずとも遠からず?」
「よく分からないわね……それで?」
「その……ひ、拾ってもらいました」
俺を挟んで会話しないでほしい。
右側には晴山が、左には安曇がいる状態。俺は置物のように黙って会話を聞く事しか出来なかった。
しかしこいつら、無意識なのだろうか?
「だから、拾ってもらったってどういう事?」
「い、行く所がなかったわたしをね、拾ってくれて」
安曇の右手は俺の肩に置かれ、晴山の左手は俺の膝に置かれていた。
攻める安曇は俺が邪魔なのか、退けと言わんばかりに肩を押えてくる。
攻められている晴山は、何かあったら守ってもらおうとでも思っているのか、膝に手を置いているだけ。
「帰れない、行く所がない、拾う……アンタまさか、地道の家に行ったの?」
「う、うん……泊めてもらった」
「そ、そう……あれ? でも地道って一人暮らしじゃなかった? 朱音さんがいたの?」
「朱音さん……? そのような方は……おらんかったです」
……なんだ? 肩に置かれた手に力が入り出した。少し爪が食い込んで痛くなってきたぞ。
膝に置かれた手は急に震え出した。心なしか右側の方は俺の影に潜り込んだ気もするぞ。
「……じゃあなに? 昨日は地道と二人きりだったって事?」
「い、いや……なんか、もう一人いた気がする……」
いねぇよ、なんだそのホラーエピソード。
晴山には掃除してもらった時に父の話はしたのだが、まさかもう一人とは父の事か?
(だとしたら嫌だわ、早く成仏しろよ)
『なんで嫌なんだよ』
ともあれ二人だったのは間違いない。だが変な事は何もしてないんだ、ハッキリ言ってやれ。
「……なにもされてないわよね、華絵」
「う~ん、どうだろうねぇ?」
「な、なによそれ!? どういう事よ!?」
「いやほら、寝てる間に何かされてたり?」
何もしてねぇよ、そんな卑怯な事するかい。
まぁでも晴山なら悪戯しても起きなさそう……いやしかし、流石にこれは否定しはいといけない。
「晴山、変な事を言うな。俺は善意の塊でだな」
「分かってるよ~。でも楽しかったね、お泊まり会」
ニヤニヤしながら晴山はそう言うが、お泊まり会というには少し違うのではないだろうか?
そういうのは女子達のイメージなんだけど。特別なにもやってないし、勉強会くらいだろう。
勉強のし過ぎで潰れたくせに……なんて皮肉を言ってやろうとした時、安曇がおかしな事を言い出した。
「あ、あたしも今度……泊まりに行こうかな」
「はぁ? なんだよ急に」
「い、いやほら! 朱音さんに会いたいし」
「紅月さんが泊まっていく事なんて滅多にないぞ」
そう伝えると不機嫌そうに唇を尖らせ、子供のように睨み付けてきやがった。
どんだけ紅月さんに心酔してるんだか。番号も交換したようだし、俺の悪口とか言ったりしてないだろうな?
その後も俺を挟んで会話を続ける二人。
時間的には短い間だったが、内容が内容だけに辟易してしまった。
電車を降りても立ち位置は変わらず。端から見れば俺が二人を引き連れてしまっているように見えてしまう。
奇異の目を向けられている事を気にもしていない二人は、お互いの声を聞き取るためなのか俺に距離か近い。
隣に並んで歩けばいいのに……と何度か思っているうちに、校門までやって来ていた。
「――――華絵! 玲香!」
校門を潜ってすぐだった。
怒声にも近い男の声が聞こえたと思い振り替えると、そこには見知った顔がこちらを睨み付けていた。
お読み頂き、ありがとうございます
次回選択肢
【こっちに来い】
【俺から向かう】




