第4話 元カノの名前はタブー
→【気にならない】
【様子が気になる】
「――――おいアンタら、俺の彼女になにしてんの?」
一方的に彼女の事を知っている俺は、ナンパされて困っていた様子の彼女を助けるために行動を起こした。
男達と彼女の間に割り込み、眉間に皺を寄せて男達に不機嫌さをアピールする。
その際、彼女が振りほどこうとした影響もあって、男達の手は彼女から離れた。
「え……あの……?」
背後からは彼女の困惑した声が聞こえてきた。
彼女からしたら、またナンパ者が増えた……といった感じかもしれない。
「はぁ? お前が彼女の彼氏?」
「そうだよ、分かったらもうどっか行けよ」
これで退散してくれるなら御の字。正直、そこまで上手くいくとは思ってない。
あれほど強引に事を進めようとする奴らが、本当かどうかも分からない彼氏が現れた程度じゃ引かないだろう。
いい人を演出して、彼女をナンパしようと考えている男。大方、こいつ等の思考はそうなるのではないだろうか?
「嘘だろ? タイミング良すぎんだよお前」
まぁ確かに、バッチリなタイミングだね。
「カッコつけてぇだけだろお前」
まぁ確かに、カッコつけたかったというのはあるね。
なんにせよ、コイツらだって確証があっての発言じゃない。
少しでもそれっぽく思わせる事が出来れば、大人しく退散してくれるとは思うのだが。
「まぁどうでもいいわ……行こうぜ? ええと……花子」
やべ、名前までは覚えてない。
「あの……愛莉です」
「……そうだった。花子は元カノの名前だったわ」
「それ、地味に最低ですよ」
「ごめん。とりあえず行こうぜ」
彼女を怖がらせないように、手を握ったりはしていない。
行動を促したという形になったが、彼女は俺の方がマシそうだと考えたのか、素直に従って歩き出してくれた。
「待てってお前、嘘つくなよ」
「花子っつったろお前、バレバレだぞ」
彼女が従ってくれたことでワンチャンあるかと思ったが、やはりストップが掛けられた。
俺達の前に回り込み、行く道を塞ぐ男達。仮にナンパ勝負だったとしても俺の勝ちなんだから、敗者はどっかいってくれないだろうか。
「嘘じゃない。俺は四水学園の二年、こいつは一年」
「あっ……」
本物の情報であればボロは出ない。こういう言い回しをしたのも、少しでも彼女が安心するようにと思ったからだ。
予想通り俺が同じ高校の先輩だと知った彼女は、心なしか俺に体を近づけてきた気がする。
「学校なんてどうでもいいんだよ!」
「もうめんどくせぇから、そこどけよっ!」
今度こそ上手くいくと思ったのだが、男達は再び強引な手段に打って出た。
俺の胸倉を掴み、凄みを利かせ始めた男。男達の大声と行動に驚いたのか、後ろにいた彼女は俺の背中に顔を隠し始めた。
「……合気道習ってる奴のさ、胸倉を掴んじゃだめだろ」
「はぁ……? いッ……おわッ!?」
胸倉を掴んだまま動かないので、男の手を捻り地面に転がした。
殴り掛かってきたらどうしようかと思ったが、胸倉を掴んだまま止まってくれるなら対応できる。
ビックリはしただろうがそんなに痛くないだろうし、見た目は強者感があるしな。
「こ、こいつなんかやってんぞ!?」
「あ~なんかやってんだよ。それで? まだやんの?」
まさか合気道の技を素人に使う事があるとは思わなかった。爺ちゃんにも言われたんだけど、合気道ってリアルバトルじゃあまり役に立たないんだよな。
そのため空手も習っているんだけど、あれは痛いし下手すりゃケガするし。
女の子を守る手段としてはあまりよろしくないだろう。怖がらせてしまっては元も子もないからな。
「ッチ、うっぜ~な……」
「もういいよ、行こうぜ」
手首を摩りながら悪態を付き男達は去って行った。
まぁとりあえずよく出来たのではないだろうか? 人の目は散らばり始めたし、少しすればこんな騒ぎなんて誰も覚えてないだろう。
未だに彼氏君も戻って来ないし、あのまま放っておいたらこの子、本当に連れて行かれてたかもしれないしな。
「ほら、もう大丈夫だぞ花子」
彼女に向き直り、改めてまじまじと観察してみると、そりゃ人気もでるわな……と思う程の美少女だった。
「で、ですから愛莉ですってば……先輩」
茶色いボブヘアーは、どこか幼さを感じる彼女に良く似合っていた。
大人しいそうな雰囲気と低めな身長のせいか、庇護欲がバシバシそそられるザ・後輩女子だ。
「俺の事、先輩って呼んでくれるの?」
「先輩じゃないんですか? さっき、四水学園って……」
なるほど、確かにこりゃ可愛い。そのオドオドとした上目遣い、こんな目をされて『守って』なんて言われたら、男なら誰もが首を縦に振るだろう。
まぁ今回は俺が勝手に守ったんだけど。知り合いがヤバそうなのに、知らんぷりするのは罪悪感があるからな。
「多分先輩だけど……ところでさ、なに愛莉って言うの?」
「な、なに愛莉?」
「名字」
「あ、時雨です。時雨愛莉といいます」
「そっか――――じゃあ時雨、そろそろ彼氏も戻ってくるだろうし、俺は行くわ」
「か、彼氏……ですか?」
「別に言いふらしたりしないから大丈夫だ――――じゃあまたな」
「あ、あのっ! ありがとうございました、先輩っ」
彼氏にこんな所を見られたら誤解されてしまうかもだしな、それは可哀そうだ。
時雨が頑張って出したのであろう大きな声を背中に受け、先輩って呼ばれるのいいぁ……なんて思いながら、俺は再び家路についた。
最初はどうしても歩いて帰りたかったのに、なぜか今は車で送ってもらえば良かったと思うのだった。
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