バッド選択・迷走 ~徒爾~
雪永先輩と時雨に会えずに数日が過ぎた。
色々とタイミングが悪かったり、流石に部活に参加しなきゃいけなかったりと、会えずじまい。
とはいっても、その気になれば会う事は出来ただろう。俺はどこか、流れに身を任せてしまっていたのかもしれない。
連絡だってしてないし、休み時間に彼女達の教室を訪ねる事だってしなかった。
怖いのかもしれない、結果を出す事が。
だがそうも言っていられない。
明日は土曜日で休日だ。来週からは本格的に部活も忙しくなるし、チャンスと言ったら今日くらいだとは思う。
しかし俺は、そんな事を思っているにも関わらず教室でボーッとしていた。
「ねぇ進、まだ帰らないの?」
「ああ……どうしようかな」
「部活はいいの?」
「ああ……今日はいいかな」
隣には玲香と華絵がいた。二人は机に突っ伏している俺の隣の席に座り、俺の行動を待っていた。
最初は今日こそ二人に会うつもりだった。しかしどうやら今日は、実行委員の活動があるらしい。
そんな中に突撃しても仕方ない。会議が終わるまで待ち、帰ろうとする所を捕まえるのがベストだろう。
今日の会議場所はしっかりと把握した。前回と同じ轍を踏む事はないはずだ。
だが正直、もう諦めようかなと思っている自分もいた。
「部活がないなら遊びに行きましょうよ?」
「いいね~、わたしお腹空いたかも」
もう諦めて、この二人と遊びに行ってしまえばいいと思い始めている自分もいる。
だけど、この二人は今日じゃなくてもいいはずだ。
「悪いけど、ちょっとだけ用事があるんだ」
「ちょっとってどのくらいよ?」
「えと……1時間くらい?」
会議がどのくらいで終わるのかは想像がつかない。こう言えば、二人は大人しく帰ると思った。
しかしなんと彼女達は、待っていると言い出したのだ。
「今日は暇だし、待ってるわよ?」
「うん、明日は休みだしね」
「で、でもな、どのくらい掛かるか……」
「なら、ダメそうなら連絡して? その時は二人で帰るから」
それならいいかと、二人の提案に頷き俺は教室を後にした。
――――
――
―
実行委員が会議を行っている会議室へとやってきた。
とりあえず、会議室には人の気配もあるし話し声も聞こえる。前回とは違い、生徒の声が聞こえる気がする。
しかし万が一がある。また職員会議だったらたまったもんじゃない。
そのため俺は扉に近づき、静かに扉を開けた。今回は施錠されていないようだ。
会議室の真っ只中だからか、誰も俺に気づいた様子はない。俺はゆっくりと、会議室を見渡した。
(……いない?)
会議室の中には、先輩の姿も時雨の姿もなかった。
何度も確認するが間違いない。
――――二人を探す――――
流石に休みなんて事はないだろう。だとすれば、二人はどこか別の場所で作業しているのか?
どこにいるのだろうと考えた時、もう一つ重大な事に気が付いた。
地道行人もいない。
実行委員と生徒会が全員で何人いるのかは分からないが、少なくとも三人がいない。
嫌な予感がする。三人で楽しそうにしていた、あの時の光景がフラッシュバックする。
俺はそれを書き消すように、学園中を走り回って二人の事を探した。
――――
――
―
「いない……」
あれから様々な所を探したが、二人の姿を見つける事は出来なかった。
何も考えないように我武者羅に走り回ったが見つからず、焦りと苛立ちが募る。
――――もっと探す――――
とはいえ、ここで諦める訳にはいかない。
だがしかし何処を探せば。考えれば考えるほど分からなくなる。
適当に走り回っていたとはいえ、思い付く所は全て探したと思うんだけど。
どうする? 足を止めている時間だって惜しい、迷うくらいなら再び走り回る方がマシだ。
そんな俺を僅かにでも冷静にしたのは、聞き慣れた着信音だった。
「……もしもし?」
『ちょっと進! いつまで待たせるの!?』
玲香からの電話だった。時間が掛かるようなら連絡すると言ったのを、すっかり忘れていた。
正確には分からないが、あれから1時間以上経っているのは間違いない。
「わ、悪い……ちょっと用事が長引いて……」
『だったら連絡してよ! 約束したでしょ!?』
「……るさいな。それどころじゃないんだよ!」
『……なによそれ? もういいわよ』
苛立ちからつい余計な事を言ってしまった。上手くいかなかったからって、玲香に当たるのは違うだろう。
声が低いトーンとなった玲香は、そのまま電話を切った。
後で謝らなければ。しかしまずはこちらだと、少し冷静になった俺は会議室へと戻った。
――――
――
―
会議室に戻ってきた。冷静さを欠いて走り回ってしまったが、誰かに二人の居場所を聞けば済んだ事だったのを、今さらながらに思い付いた。
しかし、遅かったかもしれない。
会議室の中から、全く人の声が聞こえなくなっている事に気がついた。
すれ違いもここまで来れば呪いだ。
あの時俺は、なんで走り出したのか。黙ってここで待っていれば、少なくともすれ違う事はなかった。
『――――から――――だい』
その時だった。微かだが会議室の中から声が聞こえたのだ。
ハッキリとは聞こえなかったが、今のが雪永先輩の声に聞こえた俺は扉に近づき聞き耳を立てた。
『大体こんな所ですかね?』
『そうね。まずは種目のアンケート用紙を作成して、その結果を元に……』
間違いない、雪永先輩だ。
もう一人、男の声が聞こえ地道かと焦ったが、よく聞けばそれは縦山先輩のものだった。
何やら打ち合わせをしているような雰囲気なので、入って行くのは憚られる。
『次の打ち合わせはいつにしましょうか?』
『う~ん、ちょっと待って……』
打ち合わせの会話なんて聞いていても意味がない。
雪永先輩がいるのは分かったし、帰る時にでも話し掛けようと、扉から離れようとした時だった。
『会長、ついにスマホにしたんですね』
『ええ。この前変えたの』
『機械音痴の会長が、お一人でですか?』
『まさか。ある人に付き合ってもらったのよ』
その言葉を聞いて、俺の足は止まった。
スマホの選定、それは以前俺が頼まれた事だ。だけとあの日は色々あって、スマホに変える事はなかった。
あの後で、誰かと一緒にスマホの選定に行ったのか?
俺は信じられずに、会議室の扉を開けて中をコッソリ覗いてみた。
「随分と可愛らしいカバーですね」
「でしょ!? これ、お気に入りなの!」
そこにはスマホを、というかスマホカバーを大事そうに両手で抱え込んでいる雪永先輩の姿があった。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【天道side】




