第3話 なぜか気になるカップル
→【ここで待っててもらう】
【一緒に買いに行く】
父に寄り道の許可を貰った俺は、さっそく次の行動に移っていた。
髪型や眼鏡を変えたりはしたが、それだけではまだ足りないと、色々と必要なものを買い込む事にしたのだ。
「へ~、最近は男性用の化粧品も色々とあるんだな」
陸には申し訳ないが、遊びの誘いには断わりを入れていた。
この見た目を維持しなければいけない。すぐ元の自分に戻るようでは意味がないのだ。
周りから、美意識が高いと言われるくらいがちょうどいいだろか? そんなすぐに印象なんて変わらないだろうが、維持していければ何れ変わるか。
髪を整えるワックスや洗顔料など、値段が他より高いのをカゴに放り込む。
値段が高いのだから安いのより効果があるのだろう、そういった安易な考えで行動していたが……そのほとんど全てがカゴから棚に戻される事になった。
「――――これよりこっちです。行人さんの髪質的に、こちらの方が良いかと」
俺の隣には、昨日と同じくスーツ姿の紅月さんの姿があった。
母に買い物をしたいと小遣いをせびった時、使用用途を聞かれたので正直に答えた。
するとどうだろう。お小遣いと一緒に紅月さんも派遣してくれたのだ。
「アースロード製薬の次期社長が、値段で良し悪しを決めてはいけませんよ?」
「仰る通りですね……」
流石は大人の女性。男性化粧品にも造詣が深いとは恐れ入る。
女性用と成分が似通っているからなのだろうか? それとも、男性用をよく目にしていたりするのだろうか?
「もしかして、彼氏さんがよく使ってたりするんですか?」
「行人さんが聞きたいのは、私に彼氏がいるかどうか……ですか?」
見透かされている。流石は母の右腕、凄腕の秘書様か。ここは正直に答えよう。
「そ、それも気になりますね」
「私は行人さんが社長になるまで、彼氏を作るつもりはありません」
「えぇ……それ、大丈夫ですか? 結構先のような……」
「ではもしもの時は、貰って下さいますか?」
「も、もちろん! 俺でよければっ」
「ふふ。私は玉の輿確定ですね。楽しみにしています」
……なんて、冗談なんだろうな。こちらの気分を害さないように、うまく躱されたのだろう。
俺が社長になるのなんて、ほんと何年後だよって話だし。社長になれるって確定している訳でもない。
この素敵女性の彼氏になれる人が羨ましい。そんな大人女性との買い物デートは、終始和やかな雰囲気で行われた。
――――
――
―
買い物後、自宅まで送っていくという紅月さんに断りを入れ、俺はノンビリ歩いて家路についていた。
なんか歩いて帰りたい気分……になった。ちょっと後悔するかもしれない距離ではあるが、運動になるしいいかと強引に理由付けをして歩いている。
それに、たまには街の喧騒もいいものだと思う。あまり足を運ばない繁華街は、多くの若者で溢れかえり賑わいを見せていた。
「カップル多いな……」
俺は生まれてこの方、彼女なんていた事がない。作ろうとしなかったし、行動もしなかったのだから当たり前だが。
黙っていても女性が寄って来るほどモテる訳でもない。もちろん告白なんて一度もされた事がない。
勉強と運動は出来るけど容姿に無頓着。覇気がない、趣味がない、話しても面白くない男……モテる訳がない。
まぁそれらは、変えていこうと思った。
「ん……? あのカップル……」
羨むほどではないが、どんな種類のカップルがいるのだろうと辺りを見回していた時、一組のカップルが目についた。
なぜそこが気になったのかは分からないが、目に付いたカップルから目が離せなかった。
男の方は後ろ姿しか見えないのでよく分からないが、女性の方は随分と可愛く見える……しかしどっかで見た様な。
ボケーっと眺めていると、そのカップルに変化が起こった。女性の元を離れて男性がどこかへ行ってしまったのだ。
別に喧嘩別れをしたような様子はない。女性も特に気にした様子がなく、ポーチから取り出した小箱を使い化粧の乱れをチェックし始めた。
恐らく男性はトイレにでも行ったのではないだろうか?
(あれ? あの子って確か……)
朧げな記憶を手繰り寄せて、思い出そうと必死に頭を回して……思い出した。
同じ学園の後輩だ。
なぜ知っているのか。それは晴山や安曇と同じく美少女であるため人気が高く、嫌でも耳に入ってきていたせいだった。
しかし晴山達と同様、全く興味がなかった。あれほど可愛い子なのに、全くそういう感情を抱いて来なかったのだから不思議である。
(あの子、彼氏がいたのか)
気になった、興味が湧いた。
つい数日前までは、全くと言って良いほど興味がなかったはずなのに。彼氏がいたなんて残念だと、思ってしまった。
(まぁ、あれだけ可愛いけりゃ……ん?)
そんな気になる彼女を眺めていると、チャラチャラした男二人が彼女に近づいて行ったのが目に入った。
なにやら彼女に話し掛けているようだが、ここからでは声までは聞き取れない。
しかし彼女が苦笑いを浮かべて、嫌そうにしているのは分かった。どうやら友達や知り合いという訳ではなさそうだ。
「あの……ほん――――人を待っている――――」
「――――女の子? ならその子も一緒に――――」
「こっちも――――丁度いいでしょ?」
さり気なく近づくと、彼女達の会話が小さく聞こえてきた。
会話の内容や雰囲気から、どうやらナンパのようだ。あれだけ可愛ければナンパされるのも分かるが、あの男達は人目というのを気にしてないのだろうか?
あんな小さな子(身長)を、大学生だろうか? 二人の男が取り囲む異様な光景だ。
「いえ、男の人なので……」
「男ぉ? 君を置いてどこ行ってんの?」
「というかそんな男なんて放っておかね? 俺達と遊ぼうよ」
「いやっ止めて下さいっ」
……嘘だろ? あの男達、強引に彼女の事を連れて行こうと手を出し始めたんだが。
明らかに彼女は嫌がっているのに、男達は無視して彼女の手を取った。
(いやいや、それは犯罪だろ)
そんな事が行われているというのに、周りの人達は我関せず。頼みの綱の彼氏が戻って来る気配もない。
誰かがなんとかするだろうと、トラブルに巻き込まれたくないという心理は理解できる。
俺だって全く知らない人だったのであれば、同じような行動を取っていただろう。
「――――おいアンタら、俺の彼女になにしてんの?」
そうチャラ男達に声を掛けたのは彼氏くんではなく、彼女からしたら全く知らない人の俺だった。
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次回選択肢
【気にならない】
【様子が気になる】




