第12話 警告
→【もう諦める】
→【もう諦める】
→【もう諦める】
第2章
地道side最終話
「よし、終わり。そろそろ帰りましょ?」
「そうですね」
あれから作業はすぐに終わった。先輩の言った通り、ほとんど作業は終わっていたのだ。
先輩は書類を鞄にしまい、俺はパソコンの電源を落とした。
会議室の電気を消し、先輩と連れ立って廊下に出る。そして少し前を歩く先輩の背中を見て、俺は思った。
俺は何がしたいのだろう? 彼女が欲しい……その思いは消えていないのを確認する。
なのに俺は、自分で選ぼうと思っていない。
二人の女の子から想いを伝えられたのに、俺は何も答えようと思わなかった。
そうするのが当たり前だとでも言うかのように、二人の言葉や行動に自分を合わせただけ。
確かに二人は、付き合ってだとか恋人になってとか言ってきた訳ではない。言った訳ではないが、ちょっと展開を変えればそういう未来もあったはずだ。
俺が少し選べば、何かが変わっていたんじゃないのか?
でもあの時は、そんな事は全くと言っていいほど頭に浮かばなかったし、ああするのが俺の中では自然だった。
展開といえば、時雨も先輩も同じような行動をし、同じような展開になったな。
明言しない二人に選ばない俺。都合のいい展開に俺の思考。
彼女達と関わる時に感じるモヤモヤはこれだろうか? 以前も感じたが、動かされたという不思議な感覚が今回もあった。
動かされたと言っても不快感などはない。あれらの行動が、俺の本意だったというのも間違いない。
しかし動かされた……か。そう感じているのは、俺だけなのだろうか?
なんて、考えても仕方ない。でも本当に、ちょっと脳のチェックとかした方がいいだろうか?
とりあえず、こういう事に詳しそうな人にメッセージを入れておこう。
行人< 俺、宇宙人に洗脳されてるかも。
蒼司< いきなりだねw
行人< 今度、相談にのってほしい。
蒼司< 分かった。精神安定剤を準備しておくよ。
いつもお世話になっている、お兄ちゃん的な人にメッセージを入れた。
すぐ返信がきたが暇なのだろうか? だとしたら許せない、部署間会議ものだ。
しかしまぁ、きっと俺は怖れているんだな。自分の選択で、何かを変えてしまうのが。
思春期特有の何とか症候群だろうか? 恋愛なんてした事がないから、分からない。
いつか、俺にも選べる時が来るのだろうか?
ああ、本当に……選べる人が羨ましいよ。
――――
――
―
睦姫先輩と廊下に出て、下駄箱へと向かう道中。
心なしか先輩との距離が近い。精神的にという意味ではなく、肉体的に近かった。
「行人君、腕を組んで歩かない?」
「随分と積極的ですね」
「積極的な女は嫌い?」
「嫌いではないですけど……」
そう言うとすぐさま先輩は腕を絡ませてきた。
恥ずかしさなどは微塵も感じられない。自然に腕を絡ませるその様子は、まるで長く連れ添った彼女のよう。
「こんな所を見られたら、噂になりますよ?」
「私と噂になるのはイヤなの?」
上目遣いでそう聞いてくる先輩は、美人というより可愛かった。
そんな仕草表情をされて、嫌だと言える男なんている訳がない。
しかし、ここまで急に変わられると対処に困る。女性からここまでの明確な好意をぶつけられるのは初めての経験なのだ。
「嫌ではないですが、ドキドキしてしまうので控えて下さい」
「あら、ますます離したくなくなったわ」
程よく膨らんだ胸が腕に当たる。もしかして先輩は着痩せするタイプか?
健全な男子高校生なのだ。鼻の下が伸びそうになるが、俺は硬派を貫いた。
胸なんて興味ありませんよ? なんて態度でいた時だった。
背中側から、とても大きな声が聞こえてきた。
「――――い、行人先輩……? な、何やってるんですかぁ!?」
二人で後ろを振り向くと、そこにいたのは泣きそうになっている時雨愛莉だった。
信じられないといった表情で、時雨は詰めよってきた。
「せ、せせせ先輩! ま、まさか……睦姫先輩と!?」
「あらら、マズい所を見られたわねぇ」
ワザとらしく微笑みながらそう言う睦姫先輩と、目を見開き驚愕といった様子の時雨。
時雨の目は、絡まった俺達の腕と俺の顔を行ったり来たりしていた。
「う、嘘ですよね? だって先輩、数十分前に私にあんな事しておいてっ!」
「あんな事……? ちょっと行人君、どういう事かしら?」
「行人君? え……行人君!? なんで!?」
「愛莉さん、あなた行人君に何をされたの?」
時雨が変な言い回しをするせいで、睦姫先輩の視線が厳しいものとなった。
それに気づいているのかいないのか、時雨は睦姫先輩を無視して俺に詰め寄る。
「わ、私も行人って呼びます! 行人さん!」
「ダメだ」
「な、なんでですかぁ……」
「俺は時雨のような可愛い後輩に先輩♡と呼ばれたい」
泣きそうになる時雨に、それは出来ない相談だと真剣な目で訴えた。
すると時雨はコロッと表情を変え、嬉しそうに空いていた方の俺の腕にしがみ付き、上目遣いでそれを連呼した。
「行人先輩? 先輩っ! せ~んぱいっ♡」
「くふっ……百点だ、時雨」
首を傾げながら、時には元気よく、そして愛情を含めた声色。
なんて破壊力。俺の硬派が一瞬、膝を折りそうになってしまった。
後輩の専売特許。それを理解した時雨は、庇護欲全開のスマイルで再びその地位を確立する。
そんな時雨に頬が緩みそうになった時、脇腹に走った鋭い傷みが俺を現実に引き戻した。
「無視するな」
時雨の反対側で、ちょっとだけ怒り顔をしていた睦姫先輩。
しかしよく見ると、怒っているというより拗ねている表情に見えた。
クールな先輩キャラの拗ね顔は素晴らしい。
先輩に軽く謝罪をしつつ、二人に腕を組まれたまま足を動かした。
「それで、何されたのよ?」
「頭を撫でてもらって~……あと抱き締められました」
抱き締めた記憶はない。そんな小悪魔のような表情で嘘を吐かないでほしい。
「だ、だ……だんですってぇ!?」
「あとプロポーズ的な事も言われました。二年後から俺の世話をしてくれって」
それはっ……言ったかもしれない。時雨がどういう受け取り方をしたかによるけど。
二つ上の先輩を喰らう後輩。どうやらファーストバトルは時雨に軍配が上がったようだ。
睦姫先輩のオロオロした様子が可愛かったので、俺は何も指摘せず黙って歩き続けた。
――――
――
―
「それで、一応聞きますけど……」
どこか歩きづらそうにした時雨が、少しだけ緊張したような表情でそう言った。
そんな時雨の問いに答えたのは、睦姫先輩だった。
「残念ながら、あなたの思っているような関係じゃないわ」
「ですよね! 良かったぁ~、というか全然残念じゃないですから!」
「はぁ……愛莉さん、やっぱりあなたもなのね」
「先輩もですか。まぁ、あの表情を見たら分かりますけど」
しかし歩きづらい。二人とも俺の腕を引っ張り過ぎだ。
時雨の歩幅と先輩の歩幅は違うため、調整が中々に難しい。
会話を始めたせいもあるのか、たまにバランスを崩しそうになってるし。
「睦姫先輩、行人先輩が歩きづらそうなので離れてくれませんか?」
「あなたが離れればいいんじゃない? そもそも後から来たんだし」
「こういうのは、後輩に譲るものだと思います」
「後輩だろうが何だろうが、絶対に譲れない物もあるのよ」
話すか離すかどっちかにしてほしい。なんて願うも、どちらも聞き届けられる事はなかった。
もちろん嫌ではない。右を見れば可愛い後輩がいて、左を見れば綺麗な先輩がいる。
男なら誰でも一度は憧れるであろう、両手に花。
しかし、こんな所を誰かに見られたらどうなると思う? 来週には、あらぬ噂が飛び交う事になるだろう。
「二人とも、そろそろ離れないか?」
「「いや」」
「はぁ……誰かに見られるかもしれないぞ?」
「別に構わないわ」
「私も構いません」
「俺が構うんだよ。こんな所を誰かに見られたら、俺は女誑しの軟派野郎に……」
なんて話したせいなのか。
前から誰か来る。薄暗くなって顔が見えづらいが、廊下の反対側から誰かが歩いてくる。
二人は気づいていないのか、赤く染まった頬を俺の腕に擦り付けている。
本来なら腕を無理矢理引き剥がしたり隠れたり、足を止めたりするべきなのだろうが。
俺は、猫みたいに頬を腕に擦り付けているいる二人を連れて、足を止める事なく歩き続け、その者の前に立った。
「…………」
「…………」
天道進だった。
その顔を見て俺は足を止める。俺の足が止まった事を不思議に思った二人は、一度俺の目を見た後で、俺の視線の先に目を移した。
天道の姿を確認しても、二人とも離れようとしなかった。それを見た天道の表情が歪んでいく。
初めは驚きに目を見開き、次に無表情になったと思ったら、今度は目元に力を入れて俺を睨みだした。
「地道、お前かよ……」
「…………」
不穏な気配を感じ取った先輩は眉間に皺を寄せ、天道の雰囲気が怖かったのか時雨の腕には力が入った。
俺は、無表情だったと思う。
「お前のせいかよ!?」
「…………」
天道の言葉を無視して、俺は再び足を動かした。
急に動いた俺に驚いたのか、二人は一瞬遅れたが、変わらずに俺に付き従う。
俺はゆっくり歩きながら、天道に声を掛けた。
「――――天道」
ここにいるという事は、全て間違ったのだな。
全て間違ったのなら、俺は役目を果たそう。
ああ、まただ。どうしてか分からないが、どうしても言わずにはいられない。
「この道はもう続かない。他の道を進め」
――――警告。
俺の頭にあったのはそれだけだった。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【天道side】
宜しければブクマや評価、感想など頂けると嬉しいです




