第9話 ご都合主義な体育倉庫
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【晴山達と帰る】
2人の好感度が少し低いかと思って追加したお話です
体育祭実行委員の集まり、本日は二回目。
実行委員の集まり自体は放課後に行われるため、基本的に土日が潰れる事はないという話だった。
なにかあった場合は生徒会が動くとか何とか聞いた気がする。
しかし集まり二回目にしてさっそく、俺の休日は潰れようとしていた。
「――――だからね? 土曜日か日曜日、付き合ってくれないかしら?」
「わ、私も行きます! お手伝いしますっ」
「あなたはいらないわ。そんなに買う物もないし」
「それなら私が先輩と二人で行ってきますよ? 会長はお忙しいでしょうし」
俺は現在、雪永先輩と時雨と一緒に体育倉庫に来ている。
体育祭でしか使用しないもの、他の事にも使用する消耗品の確認、損傷の確認などを行うためだ。
「そこまで忙がしく(忙しく)ないから大丈夫。それに私が行けばスムーズだわ」
「……じゃあ一人で行けばいいのに」
「何か言った?」
「いえ、別に」
俺は当たり前のように肉体労働側に立候補したのだが、そもそも現時点での肉体労働の仕事は多くないらしい。
生徒でも用意出来る備品の確認、買い出し。極端に言ったらそれだけだ。
忙がしいのは、それらを使って体育祭の準備を実際に行う時。しかしそれらは実行委員全員で行うという。
つまり、俺が張り切って頑張らなくても何とかなる程度の仕事量しかないのだ。
「そもそも何故あなたがここにいるのかしら? 私と地道君だけで十分なのだけど」
「なに言ってるんですか!? そもそも私と行人先輩が立候補したんですけどっ」
体育祭の備品確認。俺は率先して立候補したのだが、それが間違いだった。
なんと備品確認は一人か二人で十分だという事を後から聞かされた。
もう少し立候補を待っていれば、俺も今頃はクーラーの効いた部屋で競技種目をキャハハウフフと考えていたに違いない。
「あなた達だけじゃ不安だったのだもの。だから時雨さんの代わりに私が行く事にしたんじゃない」
「……行人先輩が立候補した瞬間に目の色変えたくせに」
「何か言った?」
「いえ、別に」
俺が立候補してすぐ、時雨が立候補した。そこで打ち切り、備品確認は俺と時雨で行う予定だった。
嬉しそうにする時雨と二人で廊下に出て、体育館に向け歩いていると、なんと雪永会長が追い掛けてきた。
そして今に至ると。二人は会話するばかりで、作業が全く捗らない。
「なぁ、そこの美少女と美人、そろそろ手伝ってくれないか?」
「はぁ~い」
「仕方ないわね」
この変わり様よ。嬉しそうな顔をする時雨と、満更でもなさそうな雪永先輩。
細かいものの確認を二人に任せ、俺は点数板やライン引きに使う怪しい白い粉の確認を行う。
「会長。このゴムバンドって何に使うんですか?」
「それは順位上位者に渡す着順の証ね。1位は金、2位は銀、3位は銅」
「で、でもちょっと色褪せてます……」
「じゃあそれは買い直しね。リストにチェックしておいて」
二人の会話が聞こえてくる。先程までの険悪気味な様子は全くなくなっていた。
というか二人が話す着順の証っているだろうか? そりゃ運動神経いい奴は良いだろうが、4位以下しか取れない人は悲惨なんだぞ。
競うのはクラスの合計点なのだから、個人で競わなくてもよくない?
えぇそうです。去年の俺はバンド一つも貰えませんでした。恥ずかしいから輪ゴム巻いて銅っぽく見せてた記憶がある。
そのため俺は、皆が楽しめる体育祭を思い浮かべて先輩に提案した。
「今年は他の物にしません?」
「他の物……例えばどんな物? 安全ピンとか、危ない物が付いてるのはダメよ?」
「そうですね~……例えば、1位には300gの重り、2位は200、3位は100とか」
「お、重り? それはただのペナルティなんじゃ……」
そうする事で、上の連中はパフォーマンスが落ち、下の者が入賞しやすくなるだろう。
我ながら良い案だ。戻ったら正式に提案してみようかと思うほどには。
平等じゃないとかそんなのは知りません。
「ダメよ、危ないもの」
「そ、そうですよ! ぶつかったり転んだりしたら危ないです」
「……じゃあ1位には300gの砂袋――――」
「「――――ダメです」」
「じゃあ300gの発泡スチロール」
「それ、結構な量よ」
「先輩って、頭良いって聞いてたのに……」
二人が本気で呆れたような顔をし出した。
悪くない案だと思ったのだが。安全第一を掲げられてしまっては言い返せない。
俺は二人から目を逸らし、作業に戻った。
「……じゃあ300gの――――」
「「――――もういいっ!」」
――――
――
―
「――――こんなもんか」
僅かに汗をかきながら、俺は大体の確認作業を終えていた。
大きな備品に損傷などはなし。体育祭では問題なく使用出来る事を確認し終えた。
後ろの二人が担当する細かい備品類は、買い出しが必要な物もあったようだが、大した量ではなさそうなので問題ないだろう。
俺はまだ作業を続ける二人を手伝おうと、二人の方に振り向いた。
「ん……? 挟まってるのかしら?」
「睦姫先輩? どうかしました?」
「愛莉さん。悪いけどちょっと手伝ってくれる?」
「あ、はい」
この二人、いつの間に名前で呼び合うように? 女子は距離を詰めるのが早いなぁ。
なんて考えながら二人に近づいた時だった。なんとも言えない不安感が俺を襲った。
「「せ~のっ」」
何か小さな箱を引っ張り出した二人。それを見て俺は駆け出す。
「あぁ、スターターピストルの……」
「これ、使えるんです――――」
「――――危ないっ!!」
上段に詰まれていた大きめの箱がグラついていたのが目に入っていた。
そして箱を引き抜いた瞬間、バランスを崩した大きな段ボールが二人に落ちる。
「「きゃっ!?」」
俺は二人の頭を護ろうと、咄嗟に二人の頭を抱え込んだ。
次の瞬間、俺の頭に衝撃が走る。
「いッ――――たくないな。なんだ、軽かったのか……」
落ちてきた箱の中から出てきたのは、体育祭などで使う飾りつけ品だった。
こんなに軽かったなんて。大声を上げて二人を驚かせてしまったのが申し訳なる軽さだ。
でも冷静に考えれば、最上段に重い物をしまっておく訳がないか。それに気づかないほど俺は慌てていたらしい。
まぁ、二人に落ちるよりは俺に落ちた方が良いだろう。
しかし、ベタな事をしてくれる。
「二人とも大丈夫か? というか、そんな強引に引っ張っちゃダメですよ」
「う、うん……ごめん」
「だ、大丈夫です……」
怖かったのか僅かに震えている時雨と、驚いたのか顔を真っ赤にしている雪永先輩。
しかしここはガツンと言ってやらなければ。もしアレが砲丸だったりしたら、いくら俺の石頭でも勝つのは難しかっただろう。
まぁ、そんなデンジャラスな体育倉庫なんてある訳がないが。
「頭上の確認は基本ですよ? 位置的に見えづらかったとはいえ」
「「は、はい……」」
「気を付けて下さいね? さっきあれだけ人に安全第一とか言ったんですから」
「「は、はい……」」
「……ちゃんと聞いてるの?」
「「き、聞いてます……」」
本当にちゃんと聞いているのだろうか? 目は合わせないし、ソワソワしてるし。
まぁ急に異性に抱き付かれればそうなるのも分からなくないが、今回は非常時なので許してほしい。
「そ、それより地道君は大丈夫なの!?」
「先輩、がっつり当たりましたよね!?」
「大丈夫です、軽かったし。二人になんともなくて良かった」
「「あぅ……」」
再び顔を赤くした二人に作業の続きを促した。
今度は俺も二人の横で手伝う。しかし二人はチラチラと俺の様子を伺って(窺って)くるので、捗らない。
まぁ急がないしと、二人の視線を感じつつノンビリ作業を行った。
「愛莉さん。私、さっきのはやられたわ……」
「ですよね。カッコ良すぎるんですけど……」
「凄く逞しかったわ……」
「凄く安心しました……」
「「はぁ、どうしよ……」」
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