ポイント・オブ・ノー・リターン
最近知った言葉をサブタイに採用しました
教えてくれてありがとう
沢山の評価やブクマありがとうございます
感想も大変励みになっておりますので、今後も宜しくお願いします
では、笑うしかない天道君をお楽しみ下さい
最悪な状態で迎えた月曜日。
担任の先生を待つこの時間は隣に華絵がいる事が多いのだが、今日は席について頭を抱えていた。
テスト返却日の華絵はいつもあんな感じ。まるで判決を待つ罪人だ。
こっちだって頭を抱えたい。この土日に起こった出来事は、俺の心に大きなダメージを与えていた。
雪永先輩には怒られるし、時雨はマネージャーを辞めると言うし。
しかしそうなってしまった以上、悩んでいても仕方ない。先輩には謝罪しなければならないし、時雨には辞める事を考え直してもらいたい。
このままでは、二人との縁が切れてしまう。
それより、教室が静かすぎないだろうか?
いくらテスト返却日とはいえ、クラスメイト達が黙って席について先生を待っているなんて、今まであったか?
お陰で考える事に集中できたのだが、改めて見渡すと不気味な光景だ。
「お~しお前ら、席につ……いてるのか。な、なんだ? 珍しいな」
そしてやってきたクラスの担任、横谷先生。先生は俺と同じ感想をもったようだ。
先生とクラスメイト達の会話を聞いていて、やっとその原因が分かった。どうやらみんな、テストの返却を心待ちにしているらしい。
異様な光景だった。男子も女子も、早く返せと笑顔で担任に催促していた。
「……まぁまぁ、か」
俺のテストは可もなく不可もなく。あまり勉強をしなかったので、この結果は妥当だった。
もちろん赤点は一つもないが、胸を張れるほどの高得点でもない。
そのため俺は、つまらなそうにテスト用紙を眺めていた。
「うぉぉぉっ!? マジかよ!? 数学……60点!?」
「全部80点越え! もうビックリ!」
そんな中、聞こえてくるクラスメイトの嬉しそうな声。それらに聞き耳を立てて分かったのだが、高得点の奴らも相当数いるようで。
あまり意識した事はなかったが、今回はクラス内での順位が下がるのは間違いなさそうだ。
(それにしても……)
いつもなら今頃は、海達がやって来て俺の点数を聞いてきたり見せあったりして盛り上がっていたはずだが、俺の周りには誰もいない。
海も友達も、囲んでいたのは地道行人の方だった。
勉強会なんて大した事ないと思っていたのだが、地道が用意した問題集とはそれほどの物だったのだろうか?
どいつもこいつも笑顔。それをあの地道が作り出したと。
――――なんか面白くない。
みんなに囲まれて、下卑た笑いを浮かべている地道の横顔を見てそう思った。
お前がクラスの中心になるのは勝手だが、人が落ち込んでいる時に騒がしくしないでもらいたいものだ。
テストの点数なんてどうでもいい。俺は今、雪永先輩と時雨の事で頭が……――――
(――――まさか、アイツがなんかやったのか?)
雪永先輩と時雨、そして地道。三人が一緒に何かをしていた時の光景はハッキリと覚えている。
何をやっていたのかは知らないが、少なくとも三人が知り合いなのは間違いないのだ。知り合いどころか仲良さそうに見えたけど……それは考えたくない。
あの光景を見た次の日だ。どうしてか雪永先輩は急にサッカー部の予定を知り、時雨は急にマネージャーを辞めたいと言い出した。
(アイツが関わっているんじゃねぇだろうな?)
先輩にサッカー部の予定を教え、マネージャーを辞めるように時雨を唆した?
(……なに言ってんだ俺は。流石に考えすぎか)
地道がサッカー部のスケジュールを知っている訳がないし、時雨は俺が気になってマネージャーになったのだから、地道に何か言われたから辞める、なんて事はないだろう。
二人がそうなったのは別の理由、もちろん俺にも原因がある。
俺はただ、彼女達に謝罪する事だけを考えればいいのだ。
(そもそも、そんな事をしてアイツになんの得が…………まさか、俺から二人と引き離そうと……?)
「進く~ん……どうだった……?」
また余計な事を考え始めそうになった時、聞こえるはずのない声がすぐ隣から聞こえてきた。
横を見ると、そこには幼馴染の華絵の姿が。俺の表情を見て、不思議そうに首を傾げていた。
あり得ない。今日はテスト返却日だぞ? あの華絵が、俺の隣にいるなんてあり得ない。
「お、お前……歩けるのか……?」
「ど、どういう事? 骨折とかしてないよ?」
テスト返却日は立つ事すら困難になるほどの落ち込みを見せる華絵が、あろう事か返却から数分後に歩いているだと!?
今日は、下手したら華絵を背負って帰る事になるかもと覚悟していたくらいなのに。
「悟りを開いたのか? 無我の境地的な」
「悟り……? 開いたのは教科書だよ? 赤点、一つだけだったんだぁ」
一つでも取ったのならもっと深刻な顔をした方がいいと思った。
そんな衝撃的な光景のせいで、俺は地道の事など頭から吹き飛んでいた。
――――
――
―
「――――それじゃあ次だ。体育祭の実行委員を決めるぞ。立候補する者はいるか?」
LHRで行われていたのは、体育祭実行委員の選出。立候補者はいないようで、誰の手も上がらなかった。
まぁ、こういうのを進んでやりたがる奴ってのは中々いないもんだ。
やりたくないと言うより、なんて言えばいいか……特別になりたくないといった感じだろうか?
俺はどうしよう? 興味がない訳じゃないが、インターハイも近いし。
――――立候補しない――――
……やめておこう。わざわざ自分から面倒事に飛び込む必要もない。
俺は何かの委員会に所属している訳ではないが、部活はやっているし。両方やっていない生徒がいるはずだ、そいつらがやればいいだろう。
「……なら推薦はあるか?」
先生のその言葉で、クラスに緊張感が走ったのが分かった。
俺の席は一番後ろなので、クラスメイトの仕草が良く見える。ほとんどの者が目立たないように動きを抑え、目を伏せていた。
立候補の時はキョロキョロ見渡す者もいたが、推薦に話が飛ぶとみんな動かなくなるものだから面白い。
だから本当に目立った。真ん中辺りに座る生徒が、急に振り返ったのだ。
振り返った男子生徒がその後どうしたかというと、なんと俺の目をジッと見てくるではないか。
(地道……)
振り返り、俺の目を見てきた者は地道行人だった。
まるで自分を選んで下さいと言っているような動き。後ろを振り返るなんていう小さな動きだが、周りが制止している中で一人だけ動けば目立つなんてもんじゃない。
まるで俺の選択を待っているかのような、俺に選択を押し付けているような、そんな目だった。
どちらにしろ嫌な感じだ。気づけば俺は、地道から目を逸らしていた。
このまま立候補者も推薦もなければ、先生の目に留まった者がお伺いを立てられるだろう。
目立つ者に目は留まる。地道はなんだ? 俺に推薦でもして欲しいのか? 本当は実行委員になりたいのか?
それともなんだ、俺に立候補しろと訴えているのか? 俺が立候補すれば、お前に何かメリットがあるのか?
――――推薦する――――
地道にメリット……? なんのメリットがあるのか知らないが、クラスの中心で雪永先輩や時雨とも関りがあるお前に、メリットなんて与えたくない。
それに、実行委員になれば自由がなくなる。俺が動けなくなった隙に、やっぱり引き離そうと考えているんじゃないか?
雪永先輩と時雨の事を。
なんて、流石にそれは考え過ぎだが、俺が忙しい間に地道と二人が仲良くなってしまう可能性はあるな。
「――――先生」
お前の思い通りにはさせないと、俺は地道行人の事を実行委員に推薦した。
上手い事クラスメイトを誘導すると、面白いほど簡単に地道は実行委員に選ばれた。
クラスメイトに持て囃され満更でもなさそうな地道。クラスメイトも押し付けているような感じではなかった。
俺は押し付けやすい雰囲気を作ってやったと思っていたのだが、クラスメイトは本気で地道が適任だと思っているように感じられた。
その後、地道を揶揄うために声を掛けたのだが、相変わらずというかなんと言うか。
再び意味不明な言い回しをされたが、何故か俺は冷や汗が止まらなかった。
顔に出ないように早々に退散したが、気づかれていないだろうな?
しかし、地道の言う失うという言葉が耳から離れない。
まさかと思うが、失うって……あの二人の事じゃないよな?
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【地道side】
次回選択肢
【海と部活に行く】
【二人に会いに行く】




