バッド選択・迷走 ~雪天~
よく考えたら、着信相手が誰かを確認しないで電話に出るなんてないですよね
面倒なので修正はしませんが
次の日。今日は土曜日なので学園は休みだが、部活はあった。
そろそろ支度をして家を出なければならない時間なのだが、俺はベッドに転がり天井をぼーっと眺めていた。
昨日の光景が頭から離れない。もちろん、時雨と雪永先輩、地道の事だ。
あの三人はどんな関係なのか? 何をしていたのか?
そればかりが頭をグルグルと駆け巡るが答えなんて出やしない。
あの二人が俺が気になる俺を気に入っているという話があり、それも要因の一つ……いや、それのせいだろう。
なら直接聞くか? 三人の中で聞きやすいのは……時雨だろうか?
時雨に会うなら部活に参加すればいい。でも問題は、明日が練習試合のためマネージャーである時雨は準備で忙しいだろうという事。
なら雪永先輩か? でも雪永先輩の性格上、下手をすると大変な事になりそうだ。
だが地道には聞きたくねぇ……なんて思っていた時、スマホが鳴り響いた。
「……もしもし」
『あ、天道先輩? あの……時雨です』
誰からの電話からを確認せずに出ると、相手はなんと時雨愛莉だった。
俺はベッドから跳ね起き、時雨との会話に集中した。
「ど、どうした?」
『急にすみません……あの、お願いがありまして』
時雨からの頼みという事で心が高鳴ったが、次の瞬間には落胆させられていた。
どうやらいつぞやと同じような、備品の買い出しの手伝いをお願い出来ないかとの電話だった。
「……1年に声は掛けた?」
『も、もちろんです! でもその、誰も……』
備品の買い出しなど、言ってしまえば雑用だ。
前回はマネージャーに指導という形だったので先輩の俺が出張ったが、雑用なんて先輩にやらせる事ではない。
「1年は誰も都合がつかなかったのか?」
『……はい』
内容を聞くと1年が断るのも仕方ないかと思われる内容だった。
どうやら買う物がかなりあるらしい。色々と壊れている備品もあるらしく、単純にかなりの重労働になるのは間違いない。
『天道先輩は、今日は部活に来ますか……?』
「あ~そうだな……」
どうする。時雨か雪永先輩か。
――――雪永先輩――――
「悪い時雨。今日はちょっと用事があって」
『……そうですか、分かりました』
声を暗くした時雨は、失礼しますと言い電話を切った。
いくら時雨の頼みでも、1年がやるべき雑用をなんで俺がと思い、断りを入れた。
今日は部活を休もう。どうせ今日は、明日の練習試合の話し合いがメインだろうし、レギュラーではない俺が行ってもあまり意味はない。
時雨には明日会えるし、可能ならその時に探りを入れてみようと考え、俺は頭に浮かんだもう一人の候補に電話を掛けた。
『もしもし?』
「あ、先輩? 天道です」
『……急にどうかしたのかしら?』
どこか棘を感じられる先輩の声だが、無敵状態の俺はお構いなし。
俺を気に入っているという事が、俺の気を大きくしていたのだろう。
地道との事もあり、我先にと急ぎたい気分でもあった。
「この前はすみません! ずっと謝りたくて……
」
『……別に、謝ってもらう事なんて何もないわよ?』
「その……生徒会の手伝いをしないで、遊んでいた事で」
『あぁ、その事ならもういいわ。お陰で良い出会いもあったし』
「良い出会い……ですか?」
まさか、それが地道の事じゃないだろうな? どうしても昨日の光景に結びついてしまう。
なんとか探りを入れたい所だが、直球で聞ける事でもない。
『だから謝罪なんていらないわ。でも、どんな理由であれ、連絡の一つくらいは欲しかったわね』
「そう……ですよね、すみません」
『次からそうしてくれれば別にいいわ。それじゃあ……また――――』
「――――せ、先輩! 何か手伝う事はないですか? 今日、時間あるんですけど」
話を終わらせようとした先輩を慌てて引き留める。
生徒会の仕事だろうが何だろうが手伝うつもりだった。
『あなた、今日は部活動は?』
「えと……明日はありますけど、今日は休みなんで……」
『そう、でも特に手伝ってもらう事は……』
「な、なんでもいいですよ? 手伝わせて下さい!」
電話の向こうで、先輩は少し考えているようだった。
生徒会の手伝いでも、雑用でも何でも手伝うつもりで声を出した。
あるとしたら生徒会の仕事だろうと思っていたのだが、先輩は意外な事を口にした。
『そこまで言うのなら……別の人に頼もうと思っていた事があるのだけど、いいかしら?』
「もちろんです! なんでも!」
先輩の頼みとは、携帯電話をスマホにしたいから手伝って欲しい、との事だった。
まさか学園外で先輩と一緒出来る事になるとは思わなかったので、俺は二つ返事で了承。
今日先輩は学園にいるらしく、もう少ししたら学園を出られるらしい。
合流時間を決め電話を切る。俺は心に広がる優越感を感じながら、準備に取り掛かった。
――――
――
―
制服姿の雪永先輩と合流した俺は、時間的に昼食を先に取らないかと提案していた。
先輩は迷っていたが、スマホに変更する手続きには時間が掛かる可能性があると話すと、昼食を先に取る事に賛同してくれた。
昼食は近くにあったファミレスで取る事に。
「先輩ってファミレスとかよく来るんですか?」
「よく、というのがどのくらいの頻度を言うのか分からないわね」
「えと……週に一回とか」
「週に一回ファミレスって、相当よ?」
会話は続くものの、あまり楽しそうではないかもしれない。
先輩はいつもの知的な表情を崩さず、黙々とメニューを眺めている。
お互い決め終わり、注文した後で再度会話を続ける。
「スマホとか、候補とかあったりしますか?」
「ないわ。だからあなたに選定を頼んだのよ」
「じゃあ、どんなのが好みですかね? デザインとか、最新の物がいいとか」
「強いていうなら……病気に強い子かしら?」
真面目な顔をして何を言っているのだろう? からかわれているのかとも思ったが、そんな雰囲気はなかった。
「病気に強いって……どういう事です?」
「もしかして、そういうのに詳しくないのかしら?」
「えっと、病気に強い……抗菌仕様とか腱鞘炎とか、そういう事ですか?」
「私の病気じゃなくて、スマホの病気なのだけど」
ダメだ、意味が分からない。でもあからさまに先輩は落胆した表情を見せたので、分からないとは言いたくない。
こっそりと『スマホ 病気』で調べるも、スマホ依存や目の病気とかしか出てこない。
どうしようと思っている時、料理が届いたので一時中断に。
食べている時の会話は嫌いなのか、先輩が声を発する事はなかったので黙々と食事を行った。
料理を食べ終えたあと、俺は先輩に断りを入れてトイレに駆け込んでいた。
先輩が言っていた病気に強い子の意味を調べるため、色々と検索方法を変えて調べていた。
(もしかして耐久性の事か? 物理的な耐久性、後は性能って意味での耐久性とか)
色々と調べた結果、耐久性に辿り着きトイレを出た。
すぐさま先輩に話の続きを行おうとするも、先輩の表情を見て言葉が引っ込んだ。
どこか、怒っているように見えたのだ。
「あの、先輩……?」
「あなた、今日は部活動はないって言わなかったかしら?」
ドキッとする言葉が先輩から発せられた。
なぜ急にそんな話をするのか検討も付かないが、先輩の表情を見るに適当に言っているとも思えない。
雪永先輩は、今日サッカー部が活動している事を知ったのか?
だとしたらどうしよう? なんて言おう。
――――言い訳する――――
「あの……今日はレギュラーの話し合いがメインなんで、俺は行かなくても良かったんですよ」
「そうなの。でもつまり、部活動はあったのね?」
「い、いや……あったと言う訳では……」
「はぁ、もういいわ」
先輩は溜め息を付くと、お金を机に置いて立ち上がった。
慌てて俺も立ち上がると、キツイ目で牽制されてしまう。
「あ、あの! 俺は先輩を選んで……!」
近寄る事が出来なくなった俺は、先輩にそう言うも届かなかったようだ。
「私ね、嘘は嫌いなのよ」
「…………」
「正直に話すならまだしも、嘘に言い訳。それで私を選んだと言われても、嬉しくない」
「あっ……」
「ともかく、今日はお仕舞いにしましょ。また何かお願いする時は、私から連絡するから」
離れていく先輩に再び声を掛ける事ができず、ただ背中を見つめる事しか出来なかった。
私から連絡すると強調したという事は、暗に連絡してくるなという事だろうか?
俺はそのまま椅子に座り込み、今日の選択を激しく後悔した。
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