第7話 ターニングポイント
【立候補する】
→【推薦する】
第2章折り返し
体育祭実行委員を決める話し合いが行われていたが、立候補者はなく推薦の手も挙がらなかった。
このままではクジ引きとか、先生の指名などという形の不本意な結果となるだろう。それも仕方がないだろうと、俺はクラスメイトの様子を見渡していた。
気配を消す者、目を逸らす者が大半だった。俺の様に周りを見渡すクラスメイトはいたが、その小さな動きすら目立ってしまっている。
そんな時、俺はなぜそう思いそう行動したのか分からないが、後方に座る生徒に目を向けた。
気になったのではない、ならなぜ目を向けたのか? それすら分からない。
なにを思って目を合わせるのか、何を訴えたいのか? それも分からない。
俺が目を向けた先には、眉間に皺を寄せ機嫌悪そうな顔をする天道進の姿があった。
「…………」
「…………」
目は合っているが、互いに何も喋らない。自分が今、どんな表情をして、どう思われているのかも分からなかった。
そうこうしている内に、不機嫌そうなまま天道は目を逸らした。
俺は変わらず天道の表情を見ていると、不機嫌そうだった天道の表情に変化が現れた。
僅かに口角を上げ、何か企んでいるような実に人間らしい顔をしながら、天道はゆっくりと手を挙げた。
「――――先生」
「ん? どうした天道? 立候補か? 推薦か?」
先生が言った、立候補か推薦か。その言葉がやけに気になった。
それと同時に、いつもの不思議な感覚が俺の思考に捩じり込まれる。
俺は選べない。俺は結果を行くだけだ。
選べるお前は、どちらを選ぶのか。
どちらの道を進むのか。
再び与えられた軌道修正、その最後のチャンス。
ここが、ターニングポイント。
この分岐は、もう二度と交わらない。
「――――推薦です」
俺が精神不安定(笑)になっている中、天道進はハッキリとそう言った。
その瞬間、先ほどまで自分が何を考えていたのかが分からなくなり、ただただボーッと天道の事を眺める事しか出来なくなっていた。
天道の発言にクラス全員の視線が一度集まるが、彼の友人たちだろうか? 何名かの生徒の視線は天道から外されていた。
「推薦か……誰を推薦する?」
みな一様に天道から視線を外す。俺だけは推薦するなと言った心の声が聞こえてくるようだった。
恐らく推薦されるのは天道の友人の誰かだろう。全く話した事がない奴や、友達でもない奴を推薦するはずがな――――
「――――地道行人くんを推薦します」
「…………は?」
その瞬間、我関せずと視線を逸らしていたクラスメイト、その全ての目が俺に向けられた。
先ほどのテスト返却時とは違う、一貫していない視線のため居心地が悪い。
驚く視線や憐れむ視線。興味津々、安堵、不思議といった感情が視線に乗っかっている。
そんな中、当の本人は特に悪びれた様子もなく言葉を続けた。
「テストの時もそうでしたけど、彼なら色々とやってくれると思いまして」
「……色々ってなんですか? 適当言わないでくれませんかね? 俺には何の力もありませんよ」
実行委員会にされるなんてたまったもんじゃない俺は、悪あがきをする。
もうダメだと思いつつも、奴に一矢報いなければ気が済まなかった。
「彼が中心となった中間テスト、大成功でしたよね? 体育祭も、彼が中心となってくれれば成功間違いなしでしょう」
「確かに」
「地道様だもんな」
「成功する未来しか見えない」
「地道君が実行委員……いいかも」
「なんかイイね! 私も実行されたい!」
「地道君がやるなら私、手伝っちゃう!」
「お、おいやめろお前ら! 洗脳されんな!」
天道による洗脳が始まり、瞬く間にそれはクラス中に浸透していった。
俺に押し付けているという感覚はないのだろう。それは顔に張り付いている作り笑いではない笑顔が証明していた。
この人ならやってくれる、この人なら任せられる。この人しかいない、この人しかあり得ない。
まるでそんな心の声が聞こえてくるようだった。
「お前ら、綺麗な顔しやがって…………先生!」
「な、なんだ地道? 引き受けてくれるのか?」
だからと言ってこのまま素直に受けられるはずもない。お前らは良い感情で俺を囃し立ててくれているのだろうが、当の本人は望んではいない。
俺からしてみれば、押し付けと変わらないんだよ!
「俺は天道進くんを推薦しますっ!」
「お、お前も推薦か……推薦理由はなんだ?」
「特にありません」
「と、特にないのか?」
「ありません」
「なにも?」
「ありません」
推薦理由がなくとも推薦動機は十分だ。天道のせいでこうなっているのだから、仕返しに推薦し返すのは可笑しな事ではない。
そして俺はこれから聴衆に情を訴える。つまり、俺に面倒事を押し付けようとする天道を悪者にし、奴に票を入れるように誘導するのだ。
押し付けられたら押し付け返す、ついでに悪評もくれてやる……倍返しや!!
「みんな、聞いてくれ。アイツは俺に面倒事を押し付け――――」
「――――お~し、それなら投票だ。いいと思う方に手を挙げろ」
「え、あの先生? 俺の主張はまだ――――」
「――――天道がいいと思う人は挙手!」
しーん。
「ま、待て! お前達は洗脳――――」
「――――じゃあ地道がいいと思う人」
ババババババッ!!
「先生!? アンタさっきから何なんですか!?」
先生に主張を遮られ、出来レースかと思えるほどの圧倒的な票差を前に、俺は覚悟を決める他なかった。
地に伏せられていた手は天に掲げられ、もはや何を言っても届かない。これ以上騒ぎ立てるのは滑稽でしかない。
テスト洗脳が仇になったようだ。俺は本気で祝福している時の拍手音を聞きながら、苦笑いを零す事しか出来なかった。
――――
――
―
「――――じゃあ、頑張ってくれよ地道?」
LHRの後、クラスメイトに囲まれていた時に憎き声が聞こえた。
他の者の声は一切耳に入らなくなり、俺はその言葉を発した天道進に目を向けた。
「お前は部活もやってないんだしさ、構わないだろ?」
「……そうだな、時間だけはある」
「そんなに睨むなよ? 俺は良かれと思って推薦したんだぞ」
俺を推薦した時のお前の表情は、まさに悪だった癖によく言う。
まぁ俺は天道に嫌われているようだからな。あの精神不安定時の接触が原因なのだから、俺が悪いようなものだが。
でも俺は、ちゃんと言ったよな? 俺と関わったら――――
「覚えてるか? 天道」
「ん? 何を?」
「失うって言ったよな?」
「まだそんな事言ってんのかよ? オカルト? まさか厨二病か?」
「まぁなんでもいいけど。どちらにしろ、もう遅いし」
「……やっぱ気味悪いな、お前」
そう言うと天道は踵を返し、俺から離れていった。その天道の背中を見ながら俺は思う。
アイツはまだ気づいていない。しかしこの先も全て間違った場合、アイツはまた俺と関わる事になる。
その時は、流石のアイツも自覚するだろう……って、本格的に俺、なんかヤバくないか?
なんか天道と関わると、俺って精神不安定になっている気がする。何かに思考を乗っ取られるような嫌な感覚だ。
もしかして天道って、呪術師だったりする? 俺、アイツに呪われてんのかな?
それならば天道とはもう関わりたくないなと思いながら、俺は天道から目を切り、再び周りにいるクラスメイトとの会話に専念した。
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次回
→【天道side】
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