バッド選択・接点 ~雪永睦姫~
日曜日。今日は部活があるため、学園に来ていた。
昨日一緒に買い物をした時雨の姿もあるが、今日は一度も話せてはいなかった。
午前の練習を終え、昼休憩。
数人の部活友達と一緒に、俺の教室で買ってきた弁当を食べていた時だった。
「天道君、ちょっといいかしら?」
誰かに声を掛けられ振り向くと、そこには生徒会長の雪永睦姫先輩の姿があった。
「雪永先輩? 何か用ですか?」
雪永先輩とは去年の三学期に知り合ったばかりの、美人生徒会長だ。
ちょっとした縁で生徒会の仕事を手伝う事があり、その時に先輩と知り合った。
今年から生徒会長になった雪永先輩。頭もよく美人なので人気が高い。
この人には弱点というか、欠点なんてないのだろうな。
「ちょっと生徒会の仕事を手伝って欲しいのだけど、今日は時間あるかしら?」
「えっと……」
何を言われるかと思ったら、いつもと同じ生徒会の仕事の話だった。
正直に言うと面倒。部活というかサッカーは好きでやってるからいいのだが、日曜日なのに仕事というのは気が進まない。
でも先輩は美人だしな。一緒に仕事と言われると迷う所ではあるが。
――――手伝わない――――
「すみません、部活があるので……」
やっぱり面倒だ。なんで日曜日に仕事なんかしなくちゃいけないんだ。
「別に今すぐという訳じゃないわよ?」
「いやでも、疲れると思うんで」
「そう……なら仕方ないわね」
「す、すみません」
雪永先輩は少し残念そうな顔をしたため、僅かに罪悪感が浮かんでしまった。
「あの、もし大丈夫そうだったり気が変わったりしたら、手伝うんで……」
「ほんと? 分かったわ、ならここに迎えに来るわね」
「分かりました。そうですね……3時頃に来てもらって、いなければ……」
その罪悪感を消すために、ほとんど行くつもりがないのにそう答えた。
しかし小さくではあるが、雪永先輩が嬉しそうに笑ったため別の罪悪感が生まれてしまった。
そして雪永先輩が教室を出たタイミングで、様子を伺っていた友達が詰め寄ってきた。
「お前、雪永先輩と知り合いなわけ?」
「まぁ、ちょっとな」
そう話し掛けてきたのは、部活とクラスが一緒の友人、外川海。
ちなみにコイツはサッカー部のエースでイケメン、なのに彼女がいた事がない変な奴。
中学の時からの友達なのだが、コイツといると劣等感を物凄く感じてしまう。
「ふーん。ていうかお前、なんで断んの?」
「いや、面倒だからさ……」
「あの先輩の誘いを断るなんてねぇ~。まぁお前には晴山さんと安曇さんっていう彼女がいるもんな!」
「彼女じゃねぇよ」
なんてやり取りをしつつ昼休憩を終え、再び部活動を再開した。
そして約束の時間。
部活も終わりを迎え、いつもなら友達と遊びに行くか帰る事が多いのだが。
さてどうしよう……なんて、答えは初めから決まっている。
手伝わない、これは変わらない。
正直な所、今日はそれほど疲れてはいない。しかしやはり単純に日曜日に働きたくない。
でも、先輩のあの表情……せめて連絡の一つくらいはするべきだろうか?
――――連絡しない――――
……まぁいいか。断りの連絡を入れても先輩は喜ばないし。
時間になっても俺がいないと分かれば、諦めてくれるだろう。
「進、帰り遊んでかね~?」
「おう、行こうぜ」
「って、ほんとにいいのか?」
「なにがだよ?」
「雪永先輩」
「いいんだよ、疲れたし」
俺はいつも通り、海と遊んでから帰る事にした。
次の日。いつも通りに幼馴染みの華絵と登校し、いつも通りに学園で玲香と会って朝の挨拶などを交わしていると。
教室の中がいつも通りではない事に気がついた。
とある一角に異様な人集りがあった。人集りの他にも、大勢の女子生徒の黄色い声も耳障りなほどに聞こえてきた。
いつもは華絵や玲香に集まる男子の目も、ほぼ全てがその一角に注がれている。
あの席は確か……地道行人の席だ。
しかしそこにいたのは地道ではなかった。どこか別のクラスのイケメンが、地道の席に座っているのだろうか?
地道とは話した事はない。話し掛けるなオーラ……は出ていないが、なんとなく話したいと思わなかった。
どちらにしろ、あそこに加わるつもりはない。これまたなんとなく、その他大勢になるのが嫌だった。
幸いとでもいうのか、華絵と玲香も興味なさそうにしているし。
しかし一瞬ではあったが、玲香の目が地道の席に向いたのを俺は見た。
誰だってあの異様さは気になるだろう。現に俺だって、最初は興味を惹かれたのだから。
――――気になるならいけば?――――
「玲香、気になるなら見てくればいいんじゃね?」
玲香が興味を惹かれたという事が、なぜか物凄くイラついた。
興味を惹かれたというほどでもない、ちょっと目を向こうに向けただけだというのに。
「なに、嫉妬でもしているの?」
「はぁ? 俺が何に嫉妬したってんだよ!」
言われて気づいたが、そうなのかもしれない。
俺の近くにいる女子が、他の男に目を向けた事が気に食わなかったのかもしれない。
彼女でもないのに、俺は何を言ってんだが。しかし恥ずかしい事を指摘され、つい声に力をいれてしまった手前、引き下がれなくなってしまった。
「な、なによ、冗談じゃないの」
「知らねーよ、さっさと行けっての!」
「だ、だからなんなのよ! さっきから!」
「あそこが気になったみたいだから、行けばって言ってんだろ」
「……もういいわよ! 知らないっ」
玲香は怒り顔のまま、教室から出ていった。
やってしまった。あんな事いうつもりじゃなかったのに。
「ねぇ進くん。あれはダメだよ……玲香ちゃんに謝らないと」
「う、うるさいな。お前も気になるなら行けばいいだろ!」
「なんでそうなるの? 進くん、さっきから変だよ……」
華絵の言う通りだった。今思えば、何か嫌な事になりそうで玲香にあんな態度を取ってしまったような気もする。
その嫌な事がなんなのかは分からない。本当に嫉妬で変になっただけなのかもしれない。
そんな事を思っていると、地道の席にいた別のクラスの奴と目があった……気がした。
なんとなくだが、その男……俺を見てニヤつかなかったか?
その男が冴えない陰キャの地道だと知るのは、すぐ後の事だった。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【天道side】
宜しければブクマや評価、感想などもお待ちしております




