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第12話 愛ポンと歳上キラー

→【図書室に戻る】

 【時雨を探す】

 【もう帰ろう】






 晴山に勉強を教え始めて、何時間経っただろうか?


 あれ以降、ビクビクとする事もなく黙々と勉強をしている晴山。分からない所はシッカリと聞いて来るようになっていた。


 晴山は少しだけ覚えが悪いものの、集中力が高く勉強は捗ったと思う。


 捗ったとは思うのだが。



「正解率……三割といったところか」


「あ、あはは……でも、頑張ったんだよ?」

「それはもちろん、分かってるよ」


 正直な所、赤点を回避するには五割は欲しい。テストで四割ほど正解すれば赤点は回避できるが、都合よく勉強した所が問題になるとは限らない。


 晴山は、俺が作ったテスト問題集だけを解く事を拒否していた。問題集を受け取りはするが、まずはテスト範囲の学習をし直したいと。


 どっかの陸達とは大違いだが、時間的に考えると厳しい部分もある。



「だけどまだダメだ」

「え……?」


「今日だけでは赤点回避は難しいな」

「そ、そう? 家でもちゃんとやるよ……?」


「一人で出来るのか?」

「うっ……」


 出来ないから貴女は泣いていたんでしょうに。


「晴山は可愛いのにポンコツ。略して愛ポンだな」

「か、可愛い……というかポンコツゆうなぁ~!」


 照れ隠しのように騒ぎ立てる晴山は、図書委員と目が合ったようで慌てて口を塞いだ。


 これだけの容姿なら言われ慣れていると思うのだが、安曇と違って随分と恥ずかしがっているように思える。


 例えば天道は、彼女に可愛いとか言ったりしないのだろうか?


 まぁ、言わないか。昔から知っている子だし、恥ずかしいというのもあるだろうしな。



「それでどうする? まだ続けるか?」

「えっと、ごめん。門限があるから……」


 窓の外は季節的にまだ明るいが、時間だけ見ればそれなりだった。


 門限というのもがない一人暮らしの俺には、決められた時間までに家に帰らなきゃないというのは、よく分からない感覚だ。


「なら今日はここまでにするか」

「う、うん。あの……また教えてくれる?」

「晴山が俺の事を選ぶならな」


 よく分からないと言った表情で、首を傾げて見せた愛ポン。可愛いけどポンコツな晴山との勉強会は、こうして幕を閉じた。



 ――――

 ――

 ―



 図書室で晴山と別れた後、俺は自分のクラスに足を運んでいた。


 晴山と一緒に帰るという選択肢は、なぜか全く浮かばなかった。そのため俺は、もしかしてまだ残っている奴がいるかもとクラスに戻ったのだが。


 教室内には誰もおらず。どうやらみんな帰ったようだ。


 自分の机に違和感を感じ向かってみると、そこには女子が書いたのであろう丸文字でのお礼の手紙と、なぜか腹痛薬がおいてあった。


 俺は薬と手紙を受け取り、教室を出て下駄箱へと向かう。


 下駄箱に向かう途中で、一年生のフロアを通りかかった時だった。



「――――あっ!? あ、あのっ! 先輩っ!」


 切羽詰まったような大きな声に、俺は足を止めた。


 何事だと声がした方に目を向けると、小さい少女が駆け寄って来るのが目に入った。



「おお、花子じゃん」

「ですから愛莉ですっ! もう、覚えて下さいよ……」


 トテトテといった擬音が聞こえてきそうな感じで近寄ってきた時雨は、あからさまに不機嫌そうな顔をしてみせた。


 その後ろには友達だろうか? 体操服をきた女子生徒二人が、こっちをニヤニヤしながら眺めていた。



「放課後に体育の補習でもしていたのか? 時雨」

「時雨……まぁいいですけど。補習じゃなくてこれから部活なんですよ」


 どこか不満げそうな時雨だったが、すぐに元の様子に戻り話を続ける。


「あの、ちゃんとお礼を言えてなかったので、探してたんです」

「そうだったのか?」


「でも先輩達のフロアって入りにくくて……」

「それは分かる。俺も三年のフロアには行きたくない」


 まぁ一年のフロアにも行きたくないけど。たった一年しか違わないが、その一年違う人で溢れかえっている中に混ざりたくない。



「それであの……い、行人先輩っ!」

「どうした? というか俺って自己紹介したっけ?」

「それはその……色々と調べて……」


 最後は良く聞こえなかったが、なにか恥ずかしい事でも口にしたのだろうか? 時雨の奴、真っ赤になって俯いてしまったのだが。



「あの……行人先輩って呼んじゃ、ダメですか……?」

「お前は自分の武器を理解しているな。呼び方は好きに呼んでくれていいよ」


 上目遣い、潤んだ瞳、震える声、庇護欲。


 歳上キラー。その二つ名を君に与えよう。



「じゃあ……行人先輩。あの時は、本当にありがとうございましたっ」

「いえいえどう致しまして。まぁそれだけ可愛けりゃ、ナンパされてしまうのも仕方ないな」


 この可愛さに気の弱そうな雰囲気。言い方は悪いが、男にとったらいいカモなのかもしれない。


 さっきから微妙に頬が赤いのは、普段は出す事がない声量で声を出しているからではないだろうか? 随分と頑張って声を出している気がする。



「それなら……ナンパされないように、行人先輩が買い物に付き合って下さいよ」

「そういうのは彼氏に頼みなさい」


 下向き加減の時雨は、こちらの反応を窺いつつそう言った。


 そういう顔は、彼氏に見せてやった方がいいのではないだろうか? というか、それは普通に浮気なのではないか?



「か、彼氏なんていないですっ! あの人は部活の先輩ってだけですから」

「あ、そうなの? それにしちゃ化粧とか服とか気合が入っていた気がするけど」


「気合はいれてないです! でも適当にする訳にもいかないじゃないですか……」

「ああ分かった分かった。時雨が俺の事を選ぶって言うなら、いくらでも付き合うよ」


 そういうと時雨はパアッと目を輝かせ、言質とりましたからねっと騒ぎながら、待っている友達の方に駆けて行った。


 どうやらまだ部活中らしい。友達と合流した時雨は、友達に何かを言われては顔を振って、否定しているような仕草を見せていた。


お読み頂き、ありがとうございます


次回選択肢

【もう帰ろう】

【生徒会室に行く】


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