第11話 何が詰まってるの?科学的に気になる
【勉強を続ける】
→【部活に行く】
自分の勉強するために図書室に足を運ぶと、そこには暗い顔をした晴山がいた。
幼馴染の天道と何かあったのだろうと勘繰り、ここはそっとしておいた方が……という所で涙を目撃。
昔から父さんに言われて……はいないが、泣いている女の子を放って置く事は憚られる。
クラスメイトの涙、亡き父の教え『教えてない』、そして変わろうと決めた自分。
それら言い訳を積み重ね、勇気を出して晴山に話しかけた。
「晴山、一人で勉強か?」
「えっ!? あ、あわわわ……」
涙を見られたくなかったのだろう。小さな声で晴山に話しかけると、慌てた様子で涙を拭い始めた。
勉強中だったからなのか色素の薄い髪を結わえてポニテにしている、いつもと違った雰囲気な晴山。
しかしそれより……なんてデカいペイペイだ。
俺は大きさはどうもいいと思っていたのだが、ここまでデカペイだと科学的に気になる。
あくまで科学的にだ。何が詰まっているのか気になる、触りたい、科学的に。
「えっと? 地道くん……だよね? クラスメイトの?」
「そうだけど、なんで疑問形な上に自信なさ気なんだ?」
「あはは……ごめんね。人を覚えるの苦手なんだぁ」
クラスメイトの事も覚えられないのならよっぽどだと思うが。
ただ晴山の表情、そしてこの感じ……マジだな。この子、もしかして……?
「それより晴山、誰かと一緒にいたのか?」
「え?」
「だってほら、隣の椅子が引かれたまんまだし」
晴山が一人でいるのを見た時は、天道とは一緒に行動しなかったのかと思った。
しかし晴山の沈んだ表情を見て、やはり天道と一緒だったのではないかと思い、この椅子で確信した。
晴山は天道と一緒に図書室に来た。そこで何かがあって別れたと。
喧嘩ではないかもしれないが……どちらにしろ、晴山があんな表情をしていたのであれば、彼女の望む結末にはならなかったのだろう。
「どっかの探偵みたいな事いうね、地道くん」
「ふむ。私の推理によると……ずばり隣にいたのは天道進だね?」
「すっすごいっ! なんで分かるの!?」
「名探偵だからさ」
「名探偵すげぇ~」
自分でふざけといてなんだが、すっげーツマンネー事を言ってしまった。
晴山もよく乗ってくれたもんだ。この子はきっと、優しいんだな。普通であれば苦笑いの一つでもする所だろう。
「ね、ねぇ名探偵さん! もしかして……頭いいの!?」
「自慢じゃないが頭は凄くいいな」
「絶対に自慢でしょ?」
「自慢だな」
そう言った瞬間、晴山の目に光が戻ったように感じた。ただでさえクリクリと可愛らしい大きな目が、更に見開かれる。
絶望の暗闇の中、突如として現れた希望の光。その光を見失う訳にはいかないといった表情で、晴山は大きな声で俺に言った。
「お願いしますっ! わたしに勉強を教えてください! 名探偵さんっ!」
「それは構わないけど……それより晴山、ここは図書室だぞ?」
「うんっ! 勉強にはぴったりだよね! だからお願いしますっ!」
「うるさい」
「うぇっ!?」
「他の利用者に迷惑ですので、お静かにお願い致します」
ほら怒られた。さっきから図書委員っぽい人がチラチラとこっちを見ていたのだ。
流石にあの声量は許容できないみたい。元気なのはいいし声も可愛らしいが、ここが図書室だという事が頭から抜けていたようだ。
抜けていた……か。まさかこの子、本当に抜けの子か……?
そんな抜けの子は顔を真っ赤にして図書委員に謝っていた。申し訳ないがその様子は大変可愛らしい。
可愛いのだが……可愛いのに抜けの子なのか? そんな事、あり得るのか?
――――
――
―
「あの……ここは……こうかな……?」
少しだけビクビクした様子で、向かい側に座っている晴山は答え合わせを要求してきた。
「うん、違うね」
「うう……」
すでに数回も同じ事を教えているのに、彼女は一向に理解してくれない。ここまで間違われると、教え方が悪いのかと不安になる。
しかし他の教え方というのが思いつかない。晴山には申し訳ないが、この教え方でダメなら他を当たってもらうしかない。
「もう一度説明するぞ? 分からない時は分からないって言って? 怒ったりしないから、そんなビビるなよ」
「う、うん。ごめんね……」
厳しくしているつもりはないのだが、どこかビクビクとする晴山。
そのせいか聞きたい事も聞けずに、分からないまま次に進んで行っているのが原因かもしれない。
「はぁ……天道になんか言われたのか?」
「え……どうして?」
「さっきからビビり過ぎだし……それに」
「そ、それに?」
「……いや、なんでもない」
泣いてただろ? なんて聞けやしない。他の方法で伝えてみよう。
「俺は天道とは違うぞ」
「え……?」
「天道になにを言われたのか知らないけど、俺は怒ったりしないよ」
「……わたしの事、見捨てない?」
「見捨てる……? まぁ、見捨てないよ」
まるで捨てられた子犬のようだ。晴山にその気はないのかもしれないが、自分を見つけてくれた人を手放すまいと、精一杯に情をアピールしてくる。
晴山のような可愛い子がそういう表情や仕草をするのは反則だ。どっかの後輩にも思ったが、俺が助けてやらねばと思ってしまう。
「……進くんにね、もう付き合えないって言われちゃった」
「付き合えない……?」
「うん。わたしの覚えが悪すぎて、もう教えられないって」
「ああ、そういう事か」
晴山と天道は幼馴染という関係らしいから、気心知れていて何でも言えるってのはあるのだろう。
しかしそれ故の弊害というか。何でも言えるというのはいいのかもしれないが、それを言った時に相手がどう思うかというのが蔑ろにされがちなのかもしれない。
少なくとも晴山は、その言葉でここまで思い詰めて――――
「まぁそれはいいんだけどね。勉強教えてくれる人がいなくなったのは困る~」
――――いなかった。
「……もしかして晴山、勉強が分からなくて泣いていたのか?」
「な、な……泣いてないもんっ! なに言ってるのかなぁ!?」
てっきり天道に突き放された事で泣いてしまったのかと思ったが、まさか自分の赤点を心配しての涙だったとは。
つい我慢できずに言ってしまった。だってあんな暗い顔をして、涙を零してしまうほどだったのに。
その理由が……勉強分からないうぇぇんだったとは。
「子供か」
「うぅ……だってぇ……次も赤点だと、お小遣いが月千円になっちゃうんだもん……」
「小学生か」
「高校生ですぅっ!」
まぁ確かに、体は大人……おっと、俺とした事がセクハラ親父になる所だった。
そんな体は凄いが頭脳は小学生な晴山に勉強を優しく教え、時間は穏やかに流れていった。
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あと数話で第1章終です




