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第10話 二度とここには戻れない、そんな予感

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「行人ぉ頼む! 勉強を教えてくれッ!」


 中間テストが近づいて来たある日、学園につくなり陸が情けない顔をしながら俺の机までやってきた。


 それは去年と全く同じ光景。二年生になっても陸は変わらないようだ。



「あと一週間もないぞ? 諦めろよ」


「まだ助かる! まだたすかる……まだがすかるそぉれっマダガス――――」

「――――お前本当にやる気あんのか?」


 このやり取りも全く同じ。テストの前になると必ずこれだ。まぁうちはペナルティが大きいから、陸が必死になるのは分かる。


 うちの学園は中間テストで赤点を取ると土日が潰れ、期末テストで赤点を取ると長期休みが消える。


 部活動禁止、アルバイト許可取り消し、更には休日を使って補習授業が行われるので実質休みなし。


 青春を捨て、全てを勉学に費やす事となる。



「なぜ普段からコツコツと勉強しないのだ」

「オトンか」

「遊んでばかりいるからそうなるのよ」

「オカンか」

「お前の自業自得じゃぞ」

「オジジか」

「陸ちゃんは救いようがないバカねぇ」

「オババ辛辣すぎね? なぁ頼むよぉ……」


「はぁ……分かったよ、少しだけだぞ」


「おお! ありがとう! おいみんなっ! 今回も行人がテストに出る所を教えてくれるってよ!」

「「「「ありがとうございますッ!!!!」」」」


 俺はちゃんと勉強を教えるつもりなのだが、正直今からでは間に合わない。


 陸もそれを理解しているのか、いつからかギリギリになって俺の元にやってくるようになった。


 勉強を教えても間に合わないから、テストに出そうな問題をピックアップして勉強させる。赤点の回避ならそれでも余裕だろう。


「あとで後悔するのはお前らだぞ?」

「俺達、今を生きているからっ!!」


「……少しは未来を見据えて生きろよ」


 まぁでも、なんとかなるか。事実こいつらは、ここまでなんとかなってきたし。


 しかし俺はこの後、ちょっと未来が心配になってしまう子と出会うのだった。



 ――――

 ――

 ―



 その日の放課後、陸たちお馬鹿組を集めてテストに向けての対策を行っていた。


 授業中にコッソリと作成した問題集を陸に渡し、コンビニに走らせコピーさせる。


 後は知らん。勝手にやってくれと思ったのだが、陸プラスαに捕まり中々教室を出る事ができないでいた。



「……なぁ行人、もしかこれ全部?」

「当たり前だろ。その中から何問か出るであろう……という問題集だ。数が多くなるのは仕方ない」


「行人、これ全部暗記すんの?」

「赤点回避したいなら覚えなさい」


 我が友達はまだいい。恩恵に与ろうと寄ってきた、普段はあまり話さないクラスの男子生徒も黙々と問題を解いているため、それもいい。


 問題は女子たちだ。中には本当に分からない奴もいるのかもしれないが、分からない振りをして聞いて来るのだから困ったものだ。


「ねぇ行人くんっ! ここの問題教えてくれない?」

「あたしはこっち、お願いっ」


「さっきと同じ公式でいけるよ……そっちは……この公式だね」


「じゃあ次はこっち!」

「こっちもお願いねっ」

「ちょっとそろそろ代わってよ!」

「そうよ! 席代わって! ずるい!」


 っふ、やれやれ困った子猫ちゃん達だぜ……なんて思えれば楽しかったのだろうか?


 女子と話せるようになったのは嬉しいし、チヤホヤしてくれるのも悪い気分ではない。


 ただ本当に興味が湧かない。なんでだ? 自分でもおかしいと思う、あの子とかめっちゃ可愛いのに……だめだ、湧かん。ピクリとも湧かん。


 それに自分の勉強が全く捗らない。勉強しなくてもそれなりにいけるとは思うけど、それは努力を怠ったみたいで凄く嫌だ。



 更にもう一つの残念ポイント。クラスにはいるんだけどなぁ、一人だけ気になる女子が。


 まぁ残念ながら、その子は勉強会には参加していない。天道と一緒に教室から出て行く所は見たんだが……――――あぁ、またデジャブか。



「――――……陸、悪いけどトイレに行きたくなった、急に」

「は? おお、行けばいいじゃねぇか」


「もう戻って来れないかもしれない」

「は、はぁ? なんで? そんな激しい戦いの予感なのか?」


「いや別に。もう戻って来れない、そんな予感がするだけ」

「なに言ってんだお前」


 教室に残った生徒達に、お腹が痛くなったと嘘を付き教室を出た。


 すぐに戻って来ると思っているからだろうか、特に何も言われる事なく教室の外に出て、トイレとは真逆の方向に足を進めた。


 もう戻るつもりはない。あそこにいては自分の勉強が行えない、他の所でやろう。


 そう思ったのも事実だが、本当になんでか急に、動きたくなったんだ。


 俺が戻らないと分かれば、陸が適当に締めてみんなを解散させてくれるだろう。


 そう思いながら俺は、真っすぐに図書室へと向かう。



 ――――

 ――

 ―



 テスト期間中に関わらず、常時開放されている我が学園の大図書館に俺は足を運んだ。


 大図書館との名通り、かなり広め。図書室のイメージは静かにっ! だが、この広さの図書室ともなると多少の会話なら気にならない。


 現にお喋りしながら本を読む者、勉強しているグループなどが多数見受けられた。


 生憎と俺はボッチなので、あまり人目に付きにくい端の方で勉強しようと、空いている席を探しながら足を動かす。



「……ん?」


 俺の目はとある一点で動きを止めた。まるで吸い寄せられるように惹き付けられた俺の目は、完全に固定された。


 そこを目掛けてゆっくりと近づく。というか二人で出て行ったのに、なんで一人でいるのだろう?



 そこには、今にも泣きそうほど暗い顔をした晴山華絵がいた。


 もしかして天道と喧嘩でもしたのだろうか? そういう事なら下手に近づくのも憚られるが……って、ああ……ついに泣いちゃったよ、困ったなぁ。


お読み頂き、ありがとうございます


次回選択肢

【勉強を続ける】

【部活に行く】


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