ルリさん 01
雨足がやや激しくなって来るまでに、ルリコが用意してきた簡易雨具を全員に配った。
「とっさのこととは言え、すごい見立てだったと思わない? 雨具四人分とシートが四枚」
自分とケンイチがシートを頭巾のようにかぶり、あと二枚は梅宮とトモエにかぶせてくれた。
また、スヌーピーの鼻先が、トモエに寄り添っていた。
「ウチ、シートでいいって」
ミワがそう遠慮すると、ルリコは鼻をつん、と上げて
「雨具は百円ショップで買った安ものだから、そっちにしてくださる?」
意地悪な令嬢じみた言い方に、つい、ミワも笑ってしまった。
サエには、ミワが真新しい雨具を着せてやった。
ケンイチはと言えば、ヤベじいが雨具を着るのを手伝ってやっていたが、動作が緩慢な祖父の様子がどうにも気になるようだった。
先ほどは少しばかり元気が戻った様子のヤベじいだったが、雨具をつけてから今はまた、小さなルリに寄り添うように座り込んで、ずっと髪を撫でてやっていた。
カオリは、父親の脇に体育座りでついていたが、容態が安定したのに安心したのか、うつらうつら船をこいでいる。しかし、眠りながらも急に小さな悲鳴を上げたり、手足をびくりとさせたりして、安眠には程遠いようだった。
あたりをぼんやりと眺めていたケンイチは、また立ち上がった。
ヤベじいの元に寄って何か耳うちしている。
ヤベじいは、最初はけだるげに聞いていたが、ケンイチの早口に耳をすませ、
「そりゃ、好きにすればいいさ」
そう言ってかすかに笑った。
「おい、ルリコ」
急にケンイチが妹に声をかける。
「オマエ、どうせ持ってんだろ?」
えっ、何のこと? と立ち上がりかけたルリコに、ケンイチが、カードを切る手つきをしてみせた。ルリコはすぐに気づき、もぞもぞと、下げていたポーチをまさぐり出した。
「あるよ」
「やっぱな」
ケンイチが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「じいちゃんも入ってよ」
ケンイチがそう言ってヤベじいの手を引っ張って、無理やりまん中まで連れて来た。
「どうせしばらく動けないんだし、ケータイも使えないしさぁ?
だったらさ…………フキンシンかな?」
サエがきゃっ、と嬉しげな声をあげて手を叩く。
「サエちゃん、それ知ってるよ! ドロー2はぜったい次の人が二枚引くんだよ、でさ」
「だめだよ、サエちゃん」
ようやく、ルリコもいつもの声の調子に戻っていた。
「今夜はモトシラルール発動だからね、ドロー2二枚重ねあり、オーケー?」
「バッカじゃない」
ミワはたまらず、笑いだしていた。
「カード、ビッシャビシャになっちゃうよ。それにこんな所でゲーム?」
「こんな所でゲーム、というのには確かに同意するけど」
ルリコはおごそかにUNOカードを持ち上げた。
「これね、特製の耐水仕様なんだ。じゃ、配るよ」
そのうちに目覚めたカオリにも声をかけると、最初は渋っていたが、
「ルール分かんないんなら、サエちゃんが教えてあげるから! ね、いっしょにやろ」
の誘いに根負けして、ようやく仲間に加わった。
カードゲームの合間あいまに、ヤベじいは昔語りをしてくれた。
いつかおじいちゃんの家に集い、いとこたちや近所の子どもたちと遊んだ頃を、そして親戚が集まっていろんな話をしてもらって頃を、ミワは思い出していた。




