カラスの群れとともに 01
昨夜のカラスたちだ、とミワはすぐに気づく。
何十、いや、何百と? 突如山を這い上がるように湧いて出た黒い群れが、いつの間にか景色を覆いかくし飛びまわっていた。
「コイツら、またか?」「やめろ!」
数人がすでに頭を狙われ、右往左往しているのが黒い影ごしに垣間見える。そして
「アタシをやっつけようったってね、」
割れんばかりの声に、ミワは幹の間から大きく身を乗り出す。
「あの声!」
今まで見たことのない光景だった。
大群となったカラスたちは、一ヶ所だけ妙に混みあっている。
そして、数羽の上に片足ずつをかけて、黒い着物にいつもの草色の割烹着、おかっぱ頭をふり乱し、相変わらず童女の顔のまま、目玉ババアは口をかっと開けて、笑っていた。
小さなカラスたちがどんなふうに支えているのか、ミワはなんとか下から確認しようと首を伸ばして見守っていた。
男たちのひとりが、「目が!」そう叫んで顔を押さえた。ひとりは完全にうつぶせに倒れ、カラスがみっしりとその身体を覆っている。
「オマエら、子どもを喰らう連中はさっさと呪われるがいいさ」
小さな細かい歯をむき出しにして声高らかに笑う目玉ババアが、ミワのすぐ脇を通り過ぎた。カラスたちの巻き起こす風が木々の葉を揺らす。しかし、
「ころしてやる」
低い声がサクラヤマのすぐ下から聴こえ、鳥の大群の隙間から警官の立ち姿からちらりとのぞいた。
彼は、いつの間にか拳銃を構えている。
「ミワ、頭!」
後ろからぐい、と引っ張る手が、ミワを地面に押さえつけた。
「みんな伏せろ!」
たぁん、たぁん、続けざまに乾いた音が響く。やみくもに発砲しているらしく、ミワが先ほどまで顔を出していた幹のあたり、木クズが飛び散った。ぎゃあ、と叫ぶ声とともに黒い羽がいくつも散る。
カラスたちは火器の音と匂いとに統率を乱し、急にちりぢりとなったようだ。
今度は、ミワの上にケンイチが覆いかぶさっている。早鐘のように打ち続けるケンイチの鼓動だけがくっきりと耳に飛び込んでくる。
ぎゃあぎゃあと泣きわめく声が四方八方に遠ざかっていった後、あたりは静まりかえっていた。
ようやく、サクラヤマのみんなは立ち上がり、ゆっくりと下の様子を確かめようと、首を伸ばす。
目玉ババアが、自治会長の桑原と向き合って立っていた。
桑原はこちらに背中を向けていたが、恐怖のあまりか、全身を激しくふるわせているのが上からでも見てとれた。
「菅田吉乃を生贄に、と決めた時に」
目玉ババアの声は低く、隙間から洩れる風を思わせた。
「アンタらは、最後にアタシに濡れ衣を着せようとしたらしいね」
「ち、ちが」
「カーコがね、ツクネジマ公民館の軒下にいてね、」
目玉ババアはうれしげだ。「ぜーんぶ、ぜーーーんぶ聞いたのさ」




