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なんとか魔術師かーど〜しよう?  作者: 相生蒼尉
第1章 やっぱりクリーンな世の中が一番

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第7話 魔法の基礎訓練をやってみた。学園バージョンで



「アリスティアさん、ニーラくん、シーアルドくんはとてもいい感じですね。ナイスクマリーくんはむずむずしてるんでしょうか? 時々、体が動いてしまうようですから、もう少し心を落ち着けるようにしましょうね」


 ボクは今、瞑想している。


 教室で椅子に座った状態のままで、背筋を伸ばして体の力を抜く。

 骨だけで体を安定させる、と表現した方がいいかもしれない。


 ナイスクマリーくんは騎士の息子で、本人は剣術よりも勉強が好きらしい。

 それでも、ボクたちよりは体を動かすことが日常的に多いんだろうと思う。

 そのせいか、瞑想でじっとしていられないらしい。


 目は閉じても、閉じなくてもいい。

 ここは安全が確保されてるはずだから、目を閉じた方が集中しやすいだろう。


「そのまま全身で自分の中にある魔力……何か温かみがあるものを感じてみてください。そしてその温かみがあるものをおへその少し下のあたりへ集めるように……。そう、アリスティアさんとシーアルドくんはうまくできていますね。ニーラくんとナイスクマリーくんはわたしが背中からサポートしま……わっ!? わわわっ!?」


 ニーラくんとナイスクマリーくんの方へ歩み寄ったイセリナ先生がいきなりこてんと転んだ。


 動揺したニーラくんとナイスクマリーくんの集中が途切れてしまったようだ。

 ボクも危なかった。


 アリスティアお嬢さまは平然としている感じだ。

 さすがは伯爵令嬢。


 ……それにしてもイセリナ先生はまともに日常生活を送れるんだろうか?


 いや、今まで生きてきたんだからきっと大丈夫なはず。

 ボクが心配することでもないだろう。


「あいたた……お恥ずかしいところをおみせしてしまいましたね。すみません。では、少し、失礼しますね」


 なんとかニーナくんとナイスクマリーくんの後ろまでたどり着いたイセリナ先生は、ふたりの背中にそっと手を触れた。


 なっ……なんだと!?

 あのふたりにそんなスキンシップを!?


「外部から少しだけ、ふたりの魔力を操作しますね」


 う、うらやましい。

 ふたりとも顔がめちゃくちゃにやけてる。もっと集中した方がいい。


 でも気持ちはわかる。

 あんな美人の手で背中を触ってもらえるなんて……いや、ダメだ。


 先生であるだけでなく貴族令嬢でもあるイセリナ先生とのふれあいなんてかなりマズいタイプの問題につながる可能性がある。


 絶対にめんどうくさい方向へ進む可能性がある……とはいえ、やっぱりちょっとうらやましい。


「うっ……あ、あたたかい……」

「な、なんだかお風呂に入ってるみたいな感じが……気持ちいい……」


 う、うらやましいだろう!?

 それはうらやましすぎるだろう!?


 ニーラくん!?

 まるでイセリナ先生と一緒にお風呂に入ってるみたいな発言を!?


 ボクの集中が激しく乱れた。


「……シーアルドくん。集中ができていませんよ? しっかりと魔力を集めましょうね?」


「は、はい……イセリナ先生……」


 ボクは再び集中するように意識を高めていく。

 まどわされてはいけない。


 どんなにイセリナ先生が美人でも、侯爵令嬢なんだ。

 下手な関わり方をすると絶対にめんどうくさいはず。要注意だ。


 ……それでもうらやましいけど。


「……はい。いい感じで魔力を集められましたね。ニーラくんとナイスクマリーくんは基礎訓練をもっと大事にしていきましょうね? 次回は自分で今の状態にできるように」


「「はい!」」


 ふたりは元気に返事をしてるけど、絶対にそう思ってない。

 次回もイセリナ先生に触ってもらいたいはずだ!

 くっ、うらやましい……。


「それでは、集めた魔力から一部を切り離してみましょうか」


 ……うん?


 これは今まで領都屋敷でも基礎訓練ではいわれなかった気がする。


「……魔力の一部を切り離す、ですか?」


「はい。そうですね。自分の中にある魔力を集めることで一度高めてから、その一部を切り離します。魔力が濃密なままでその一部を動かせるようになることが大事ですね。アリスティアさんはおそらく……今まで無意識でやっていたのではないかと。魔力の動きの中にそういう痕跡がありますよ」


 アリスティアお嬢さまの問いかけにイセリナ先生がそう答えた。


 一部を切り離す、か。

 とりあえず、ボクは挑戦してみた。


 おなかの下に貯まっている魔力を切り離そうとすると……だいたい4分の1くらいが切り離せた気がする。


「シーアルドくんは切り離した魔力が大きすぎますね。もっと小さくしましょう」

「あ、はい……」


 ……イセリナ先生ってボクたちの魔力がみえてる感じなのかな?


「いきなり切り離せただけでもすごいことですけれど……シーアルドくんの魔力量を考えるとその4分の1くらいの魔力は大きすぎるんです。100分の……いえ、1000分の1くらいでもまだ少し大きいかもしれませんね。できるだけ小さく切り離してみましょう」


 1000分の1でも少し大きい?

 ボクの魔力量ってどうなってるんだ?


「ニーラくんとナイスクマリーくんにはまだ少し難しいようですね。アリスティアさんはとても上手にできていますよ」


 ボクも頑張らないといけない。

 アリスティアお嬢さまとちがって、ボクはまだ魔法が使えないから。


 切り離す、切り離す……孤児院で料理の手伝いをした時みたいに、野菜を切り刻む感じだろうか?


「……シーアルドくん、切り離す魔力は小さくひとつでいいんですよ? いっぱい切り離しすぎていますね。それはそれで才能かもしれませんけれど……」


 しまった。切り刻みすぎたらしい。


 ボクはもう一度魔力を集め直してから、小さく一部分を切り離してみた。


「……はじめてだからその大きさくらいで仕方がないでしょうね。これからは基礎訓練でもっと小さくできるように心掛けてください」


「……はい」


 まだ大きいのか……訓練をもっと頑張らないとダメだ。


「ニーラくんとナイスクマリーくんは、魔力を集める訓練を続けましょうね。もっと早く集められるように意識してください」


「「はい」」


「アリスティアさんとシーアルドくんは、切り離した小さな魔力だけを動かしてみましょうか。切り離すことができたのなら、動かすことはそこまで難しくはないはずなので」


「「はい」」


 ボクとアリスティアお嬢さまは返事をすると、そのまま切り離した魔力を動かすことに集中しはじめた。


 おなかに集めた魔力のかたまりのまわりをぐるりと動かすようにしてみる。できた。


 確かに動かすことは難しくない。


「できていますね。では、その小さい魔力を自分の目まで動かして……そうそう、いいですよ。それで最後にさらに半分にして、両目に魔力を分けてみて……はい。よくできましたね」


 イセリナ先生の指示通り、頭の方へと動かした魔力を半分に切ってからそれぞれ目まで動かした。


 そうすると、アリスティアお嬢さまの姿にいままではみえていなかった色がみえた。


 何か混ざり気はあるけど、全体的に薄い青っぽい色だ。


「……これは、すごいですわ」


 アリスティアお嬢さまも何かがみえるようになったようだ。


「魔力視などと呼ばれる技がこれになりますね。魔術師としての互いの力量を確認するためには絶対必要な技ですよ」


「……互いの力量、ですか?」


「そうです。アリスティアさんには……ニーラくんとナイスクマリーくんの魔力がどうみえていますか? 薄いか、濃いか。どちらでしょうか?」


「……ふたりの後ろにいらっしゃるイセリナ先生と比べると、とても薄い色をしていますわ」


「そうでしょうね。魔力の濃さは魔力量と関係していると考えられています。アリスティアさんと比べてニーラくんたちはかなり魔力量が少ないのです」


 ……ボクがあのふたりをみるとほとんど透明な感じがするのは気のせいだと思いたい。


「ではアリスティアさん」

「はい」

「わたしとシーアルドくんを比べてみてください」


 イセリナ先生にそういわれて、アリスティアお嬢さまはボクとイセリナ先生を交互にみた。


「これは……」

「どうでしたか?」


「……シーアルドの方が……イセリナ先生よりも濃くみえます……」


「正解ですね。さすがは『なんとか魔術師』というところでしょうか。シーアルドくんの魔力量は今の時点でもすでにこの国ではトップレベルでしょう」


 ボクの方がイセリナ先生よりも魔力量が多いってこと!?


 アリスティアお嬢さまだけでなく、ニーラくんとナイスクマリーくんからも驚きの視線を向けられてしまった。


 ボクも自分で驚いてるけど!?

 やっぱり『なんとか魔術師』ってすごいな!?


「ではアリスティアさん。今度はわたしだけを見ていてください」

「はい」


 アリスティアお嬢さまがボクからイセリナ先生へと視線を移動させた。

 それに合わせてボクもイセリナ先生へと視線を向けた。


「そんな……どんどん、濃くなって……」

「す、すごい……」


 それがみえているのはボクとアリスティアお嬢さまだけだ。


 イセリナ先生の魔力がどんどん濃くなっていく。

 さっきまでみえていた濃さとは全然ちがうものだ。


「……ふぅ。これが今のわたしの全力ですね。今のシーアルドくんよりは少し魔力量が多いくらいでしょうか。卒業する頃にはシーアルドくんの魔力量の方がわたしよりも多くなるとは思いますけれど」


「……魔力量は自分でコントロールできる、ということでしょうか、イセリナ先生?」


「コントロールするというより、偽装することができるといった方がいいかもしれませんね」


 イセリナ先生がアリスティアお嬢さまの質問に答える。

 でも、偽装って……。


「偽装……なるほど……」


 アリスティアお嬢さまはうなずいている。


 イセリナ先生はにこにこしてる。

 いや、絶対、今はにこにこしてる場合じゃないと思う。


 ……魔力量を偽装することで相手を油断させる、みたいな話だろう!?


 わかり合ってるアリスティアお嬢さまとイセリナ先生がちょっと怖いんだけど!?

 これが……貴族!?


「魔力視は基本になりますけれど、それを信じすぎるのはよくないということをみなさんも覚えておきましょうね」


 それ、にこにこしながらいうセリフじゃないから!?

 イセリナ先生ってただのほんわかドジっ子美人じゃなかった!?


「それでは、アリスティアさんとシーアルドくんは小さく切り離した魔力を目に動かす訓練をしてください。一瞬でできるようになりましょうね」


「「はい」」


 ボクとアリスティアお嬢さまの返事が綺麗にそろった。


 イセリナ先生は若いし運動神経がかなりおかしいけど、たぶん魔法についてはすごい先生だ。


 ここでたくさん学んで……力をつけないと……。

 ボクも早く、魔法が使えるようになりたい……。


 そうしないとめんどうくさいことがあちこちからボクのところまでやってきそうで怖すぎる!?






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