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なんとか魔術師かーど〜しよう?  作者: 相生蒼尉
第1章 やっぱりクリーンな世の中が一番

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第5話 はじめてのなんとか魔法は……



 この形だと本でまちがいない気がする。

 魔法の勉強のために領都屋敷で何冊も読み込んできたから、たぶんそうだと思う。


 形はそうだけど……でも、空中に浮いてる。

 浮いてる本って、何だろう? そんなのあり?


 ボクが戸惑ってると学園長が目を細めてこっちをみた。

 ボクの手元をみてる気がする。


「……ふむ。何か、魔力的なものがみえる。形状は……本、だろうか?」


「あ、はい。そんな感じです」


「本……?」


 アリスティアお嬢さまもボクの方を向いて目を細める。


「……あぁ、確かに。本のようなものがものすごくうっすらと白くみえています」


「ほう。シュタイン伯爵令嬢はなかなか高い魔力を秘めているようだね……正式な訓練前にこれがうっすらとみえているとは」


 アリスティアお嬢さまも魔術師関係のジョブを授けられたんだから、魔力が高いのは当然じゃないのかな?


 魔術学園にやってくる人はみんな魔力が高いと思ってたけど……学園長の言葉の裏を読んでみるとそうでもないのかもしれない。


「魔法が発動したあとの自然現象が加わったものならともかく、君のこれは純粋な魔力に近い。自分以外の魔力をみるということはなかなか難しいものなのだよ。みる者に高い魔力がないとまず不可能だね」


「そうなんですか……」


 領都屋敷では教えてもらってないことも多いのかもしれない。


 まあ、この国だと魔術師のジョブを授かると魔法学園にいくって決まってるからそれも当然なのか。


 魔法学園でちゃんと勉強すればいいって感じでそうなってるのかもしれない。


「……しかし、本のようなものが出現する魔法など、私も聞いたことがないものだ。さすがは『なんとか魔術師』というところか……」


 学園長が真剣な表情でううむとうなってる。

 そこまでのことなのか? ボクにはよくわからない。


「すごいですわ、シーアルド」

「そ、そんなことはないと思いますけど……」


 すごいといいながらアリスティアお嬢さまがにこりと微笑みかけてくれる。

 美少女すぎて照れる。


 エリンもちょっと鼻息を強めに出しながら嬉しそうだ。

 エリンらしくてかわいいけど、あとで侍女さんに叱られるよ?


 でも、学園長のアドバイスでついにここまできたんだ。

 せっかくなのでボクもなんとか魔法を使ってみたい。


「……学園長先生。それで、ここからどうすれば魔法を使えるんでしょうか?」


「……君にもわからないのかい?」


「わからないっていうか……こんな本が出てきたのははじめてなので……」


 今みたいになぞの本が出てきたなんて、ボクにとってもはじめてなのだ。

 ボクにはここからどうすればいいのかとか、そういうのは全然わからない。


「……本人が本能的に使えるという可能性が高いのだが……いや、すでに魔力のかたまりのような本が出現しているのか。まさか、知識系の魔法だろうか? その本には何が書いてあるんだい?」


 学園長にいわれて、僕は改めて自分の前に浮かんでいる本を確認する。


 すでに開かれてるし、確かに文字も書いてある。

 書いてあるんだけど……。


「あの……読めない、です」


 ボクには読めなかった。


 何か字が書かれていて、長方形の枠があって……枠は左のページにひとつ、右のページにひとつで、ページには余白も多いような……というかほとんどが余白だ。


「……ああ。そういえばシーアルドくんは孤児院の出身だったか。すまない。配慮が足りなかったね」


「あ、そうではなくて……」


 学園長はボクが文字を読めないと思ったらしい。

 孤児院の出身だと普通は読めないのかもしれない。


 シュタイン伯爵家やアリスティアお嬢さまの名誉のためにもここはちゃんと否定しとこう。


「……文字は孤児院にいた頃から、時々、アリスティアお嬢さまがいらっしゃって孤児のみんなに教えてくださっていました。それに、ジョブを授かったあとは伯爵家の領都屋敷でもたくさん勉強させてもらったので普通に読めると思うんです」


「……つまり読めるはずなのに読めないということか……なるほど。君が『なんとか魔術師』であることを考えればその本に書かれているのは古代神聖文字の可能性があるね。しかも未解読のものだろう」


 また出たよ、古代神聖文字。

 それが未解読だからボクは『なんとか魔術師』になってるらしいし。


「誰か読める人っていませんかね?」


「解読済みの古代神聖文字でも簡単なものならばここの先生方のほとんどは読めるはずだが……未解読の場合は当然、誰にも読めないし、そもそも君の魔力でできたその本は私にもうっすらとしかみえていないのだよ」


「ええと……こういう形の文字が、こういう感じでならんでいるんですけど……」


 ボクはローテーブルの上に指で文字の形を書いてみた。


 ちょっとマナー違反だったかもしれない。

 あとで誰かにふいてもらえると助かります……。


「……君の方からみて正位置だとすると私からみると逆位置だね。しかし、私も知らない文字だ。未解読の可能性は高いだろう。専門的に古代神聖文字を研究している魔術師や神官ならわかる可能性はあるかもしれないが」


 学園長でも無理なら、研究してる人でも無理なような気もするけど。


「とりあえず、君は古代神聖文字の講座を受ける必要があるだろうね」


「はい。そうさせてもらえると嬉しいです」


「カーインド学園長。その講座はわたくしも受講できますでしょうか?」


 アリスティアお嬢さまがボクと学園長の会話に割り込んだ。


「もちろんだ。シュタイン伯爵家としても彼をひとりにさせたくはないだろうし、受講できるようにしておこう。ああ、必要なら伯爵領から入学した他の学園生たちも」


「ありがとう存じます」


 ボク、アリスティアお嬢さまと同じ講座を受けるってこと?


 それは……ちょっと安心できるような……ここまでの道中でいろいろあった嫉妬っぽいヤツを加速させるような……複雑な気持ちになる。


「シーアルドくんのことはシュタイン伯爵がいち早く王家に伝えているから大きな問題は起きないと考えているが、それでも『なんとか魔術師』をほしがる高位貴族はいるかもしれない。伯爵家が警戒する気持ちはわかる」


「はい。ここまでの旅もいつも王都へ向かう場合の3倍以上の騎士たちに護衛させてきましたので」


 えぇ……そうだったんだ。いつもの3倍ってすごくないか?

 あれがアリスティアお嬢さまじゃなくてボクのため?


 おかしいな?

 ボク、普通に魔術師見習いというか……騎士見習いのひとりとして護衛側にいたんだけど?


 そんなボクの内心の疑問にアリスティアお嬢さまは気づいたらしい。

 ふふふ、と楽しそうに笑った。


「……シーアルドが『なんとか魔術師』だと気づかれないように移動中は騎士見習いにみせかけていたのですよ?」


「あ、そういうことでしたか……」


「でも魔法学園の中に入ればシーアルドが魔術師見習いであることはもう隠しようがありませんから」


「ソウデスネ」


 魔法学園にきたのはなんとか魔法を使えるようになるためだ。

 アリスティアお嬢さまがいうように、もう隠せるわけがない。


 伯爵領のみなさんでボクを囲んでもらってどうもすみません。

 守っていただきありがとうございます。


 うぅ、また胃が痛くなってきた……。


「この学園都市で君に下手な真似をすると、王家が動くだろう。そういう意味では安心してほしい」


 いや!?

 むしろそれでどうやって安心しろと!?


 ますます胃が!? うぅっ……。


「それよりも、君の魔法の方が気になるね。読めない文字以外は何かあるのかい?」


 それよりもって王家よりも!?

 王家よりも魔法なんだ!?


 学園長はボクの胃痛を無視して自分の興味を優先した。きっと悪気はない。


 魔法学園のトップだから『なんとか魔術師』が気になるのは当然なんだろうし。


「……文字以外だと、何か、長方形の枠があります」


「長方形の……枠、か。他のページはどうなっているかね?」


「他のページは……あれ?」


 ボクはページをめくろうとしたけど……めくれない。

 十分な厚みはあるので、他のページもあるはずだけど……。


 どうなってんの、これ?


「……ページはあるみたいですけど、めくれない感じです……」


 ボクの魔法はまだまだなぞだらけのようだ。


「ふむ。そうすると……その長方形の枠がカギになりそうだ。大きさは?」


「大きさ、ですか……ええと、トランプくらいっていうか……」


 ぴくりとアリスティアお嬢さまが反応して、後ろにいるエリンを見た。


「エリン」

「はい。こちらにございます」


 エリンはメイドエプロンのポケットからトランプをケースごと取り出した。


 いや、持ってるんかい!?

 なんでエリンがトランプを!?


 エリンはふふんと自慢げにボクをみた。かわいい。

 でも、そういうのであとから侍女さんに叱られちゃうんだって。


「……道中の馬車の中は時間がありますでしょう? オリーナやエリンとトランプで楽しんでいたのです」


 そういってにっこりと笑うアリスティアお嬢さま。


 いやいや、アリスティアお嬢さまはいいとして。


 おいこらエリン!?

 ボクとソードアークは護衛として働いてたのに!?


 トランプしてたんかい!?

 給金もらってトランプってどういうことだ!?


 エリンはこっそりとボクに向かって親指を立ててみせた。

 何それ、自慢か?


 いや、確かにアリスティアお嬢さまの遊び相手も仕事かもしれないけど!?


 ボクの心の中の叫びを無視するように、ケースの中からアリスティアお嬢さまがトランプを一枚、取り出した。

 そして、そのままボクの方へと差し出してくる。


「……それをその枠にはめてみてもらえるかい?」


「は、はい」


 学園長にそういわれて、ボクはアリスティアお嬢さまからトランプを受け取る。


 枠の大きさはまちがいなくトランプくらいのサイズだ。

 トランプの方がほんの少しだけ小さいけど、小さいのならこの枠の中には確実に入るはず。


 ボクはドキドキしながら、魔力でできた本の中の枠へとトランプを近づけていく。


 学園長も、アリスティアお嬢さまも……学園長室の中の全員がごくりとつばを飲み込んだような感じで緊張感を高めていく。


 そしてボクはトランプを枠の形に合わせて……手をはなした。


 ……スルっ、ポトン。


 トランプはそのまま枠を通り抜けて、ローテーブルの上に落ちた。






 シーン……。






 なんだか微妙な空気の中、ボクのはじめてのなんとか魔法は本が出ただけで他には何もできないまま終了した。






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