第99話 学園祭開幕
『今、私は戦場の歌姫、虎咆ミーナさんが在学する特務魂装学園の上空に来ております。日頃、この学校敷地上空は飛行が許可されていないのですが、本日は特別に許可が下りております。見てください、虎咆ミーナさんの全国ライブのスタートの場という事で、多くの方が開場を今か今かと待ちわびているようです』
テレビのワイドショーの生中継で見ると、やっぱりこの学園の敷地も広いよなと思った。
っと、ちゃんと仕事しないと。
『マスコミの撮影隊には、きちんと広報班が張り付いてろよ。あと、事前登録のない撮影スタッフは一切、門の中に入れるな。ルールを徹底しろ。相手が恫喝して来たら俺が行くから呼んでくれ』
『はい』
インカムで、広報班に指示を送ったあと、俺は一息ついて指令所となっている生徒会室から校舎を見下ろす。
学園祭は、準備期間も開催の周知期間もまるで足りなかった。
それにも関わらず、今日は大変な盛況ぶりだ。
「指示出しお疲れユウ。はい、コーヒー」
「いや、大して大変じゃないよ。周防先輩が作ってくれた警備計画がしっかりしてて、細かく指示まで入れてくれてたから、その通りやるだけだから」
「それにしても凄い人だね」
「歌姫が来るなら皆来るよね。結構、小さな子供も来てるんだね」
盛況なのは、ミーナという歌姫の母校凱旋ライブという話題性もさることながら、今まで外部に積極的には内部の状況を明かしてこないで、謎のヴェールに包まれた特務魂装学園の中に堂々と入れるという点も大きいだろう。
魂装能力者の希少性と、機密性を考えると、事前招待制とは言え、外部の一般人を学園の内部に招き入れるというのは驚きだ。
まぁ、最近は学園生徒も力こそ正義みたいな蛮族思想は急激に尻すぼみしているし、外部からの侵入者の数も激減している。
それもこれも、真凛ちゃんがことごとく、学園の内外の反抗の芽を摘むどころか、発芽すら許さずに駆除してしまっているからだが。
学園祭準備期間中は、そのデスマーチっぷりで気付かなかったが、影で真凛ちゃんが暗躍してくれたおかげで、学園祭準備に専念出来たのだ。
後でちゃんと御礼を言っておかないと。
「じゃあ、私はステージの方へ行ってきますね」
「私も行きます。火之浦様に何かあっては……」
名瀬会長が、慌てて同行しようとするが、
「名瀬会長は生徒会室にいてください。何かトラブルがあった時に判断・決定する人が、ここを離れちゃダメですよ」
琴美が、もっともな理由をつけて名瀬会長に留まるように促す。
「しかし……」
「心配ならユウを連れて行きますから」
「……解りました」
渋々という感じで、名瀬会長が引き下がる。
「じゃあ、行こうかユウ」
「ついでに屋台で何か買って行こうか」
「うん。楽しみ」
分担が決まり、俺と琴美は生徒会室の外へ繰り出していった。
◇◇◇◆◇◇◇
「むふふっ」
「何だかご機嫌だね琴美」
昨夜はしっかり寝たのと、俺の匂いを堪能したおかげなのかな?
「こういう風に文化祭デートを回るのが夢だったからね」
俺の腕に自分の腕を絡めながら、嬉しそうな笑顔で琴美が俺を見上げる。
「うん。俺も、自分の学校の文化祭をこうして回るのは夢だった。何だか、昨日まではひたすら準備と連絡調整でいっぱいいっぱいだったけど、全ては今日1日のためなんだよね」
感慨深げに、俺も学園祭の様子を見渡す。
ほとんど準備期間が無いのは、各クラスの出店や展示も同様だったのだが、ほとんど反対意見は出ずに、みなノリノリになって進めてくれた。
なんだかんだ言って、皆も歳の頃は高校生。
魂装能力者という特殊な立ち位置であっても、人並みの青春を送りたいという願望を抱いている人が多かったのだ。
「ユウのクラスの出店は焼きそばだっけ?」
「うん。けど、生徒会の方が忙し過ぎて、結局、準備も店番も免除して貰っちゃってたから、クラスの皆には悪いなって思ってる」
この部分は、本当に心残りだ。
クラスでの文化祭準備で、ちょっとしたトラブルを皆で話し合って乗り越えて、それでクラスの連帯が高まるというイベントが、俺の思い描いていた青春像だったのだが。
「私も同じだよ。クラスの方の準備には、全然関われなかった。まぁ、けど内容的に関わらなくて正解だったかな……」
微妙そうな表情で、琴美が苦笑いをしている。
「琴美のクラスは何をやるんだっけ?」
「コンセプトカフェ。いわゆる、コスプレ喫茶だよ」
「おお……メイドさんとか?」
「そうそう、そんな感じ。けど、私は背が低いから、あんまりそういうのは似合わなさそうだから、幼稚園児のキャラとかにされそう。」
それは、ぬいぐるみのチュウスケを抱いているからでは……
と思ったが、そこには触れないでおく。
「ん~、けど自分の好きなキャラとか恰好を選べばいいんじゃない? 自分の好きなキャラになれるのがコスプレの魅力なんだろうし」
「けど、似合ってないと変な目で見られちゃうし……」
「俺たちは、日頃、似合いもしない軍服を着せられてるんだから、こういう時くらいは自分の好きにしちゃおうよ」
「そっか……うん、そうだよね! 実は、着てみたいキャラの服が合ったから、今度注文してみよっと」
他愛もないことを喋りつつ学内を闊歩していると、目的のステージについた。
「うわっ! ステージ凄い人!」
「こりゃ、想像以上だね」
グラウンドに作られた野外ステージのエリアにはたくさんの人がひしめいていた。
一般の人にとっては、ミーナのステージこそが今日のメインイベントなんだな。
「入場者を絞っててもこの状況か。もし、自由入場だったら、コンサートは中止になってただろうな」
「そうだね。今も、人は多いけど見事に人流は捌けてるしね。あの人たちのおかげだね」
俺と琴美は、各ポイントで人を見事に誘導している風紀の腕章を着用した人たちを見やる。
「いつの間にか、本格的な組織になってたよね風紀委員たち」
「真凛ちゃんの手腕なら、人を集めるのなんて造作もないってことだね」
『A班は、入口付近で案内。B班、C班は人が滞留しやすい中央通路で、片側一方通行御を徹底させろ。D班は定期的に空席状況を報告しろ』
そして、彼ら風紀委員が、統率された動きをしているのは、コンサート会場の高台指令室でインカムを用いて、周防先輩が見事に彼らを差配しているからだ。
「周防兄妹は、学園祭で更に学園内での影響力を高めたね」
「もし次の生徒会選挙で真凛ちゃんが出馬したら、私は確実に負けるな」
副会長の琴美は、順当に行けば、来年には会長に持ち上がるわけだが、それに黄色信号が灯ったと危機感を抱いているようだ。
「まぁ、真凛ちゃんが今積極的に動いているのは、大好きなお兄ちゃんのためだから。周防先輩が会長やりたいって言わなきゃ、多分大丈夫だと思うよ」
これなら、コンサート会場は周防先輩と真凛ちゃんに任せておいて大丈夫だな。
そう判断した俺と琴美は、本来の目的である、今日の主役であるミーナのお出迎えに向かった。




