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軍の少将になって帰国したら今さら学園に通えと言われました  作者: マイヨ@電車王子様【11/25発売】


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第98話 学園祭前夜

「じゃあ、小箱中佐。ステージの強度設計については委託業者に一任で良いんですね」


「ああ。そこは、委託する専門業者が見てくれる。というか、その辺りになると契約行為の範囲だろ。生徒会で一生徒が担当できる行為じゃないぞ」


「学園の事務室も教官もまるで人手が足りてなくて……ステージに関する準備は、生徒会で巻き取ったんです」

「そうか……契約書のひな型と実施計画資料や図面資料をメールで送るから、それを使ってくれ」


「ありがとうございます。あ、受信しました。うん……これなら手直しして何とかなりそうです。ありがとうございます。大変助かりました」

「いやいや、どういたしまして。火之浦さんだったかな? まだ1学年なのに有能だな」


「いえ、そんな……」

「少なくともうちの幼年学校の生徒で、ここまで事務処理能力に長けたのは3学年にもいない。魂装兵は、その辺がてんで出来ないのも多いからな。誰かさんみたいに」


「呼んだ? トシにぃ?」

「呼んでない」


 Web通話の画面に、嫌そうな顔をしたトシにぃの顔が映し出される。


「あ、トシにぃ。ひとつ質問いい?」

「なんだ祐輔」


 面倒くささを隠そうとしないトシにぃを無視して、俺は言葉をつなげる。


「なんで俺の電話やWeb通話の呼び出しには出ない癖に、琴美のコールだとすぐに出たの? なんで? なんで? なんで?」


「目が怖いよユウ……」

「男のヤンデレとか需要ないぞ祐輔」


 琴美とトシにぃが何やら言っているが。

 これは重大な問題なのだ。


「いや、俺も残業続きでちょっとおかしくなってるからね。トシにぃの回答いかんによっては幼年学校を滅ぼ……いたっ!」


 突如現れた見えない障壁にサンドイッチされて、まるで変なポーズをしたピクトグラムのように固まってしまう。


「すいません、小箱中佐。こちらの用件は以上ですから。ユウにはよく言って聞かせておきますので」

「ああ。困ったことがあったら、いつでもメールで相談しなさい。それじゃあ」


 俺が動けないでいる隙に、琴美がせっかくのトシにぃとのWeb通話を切ってしまった。


「なにするんですか名瀬会長」

「火之浦様の命令ですから」


 バリバリと手で、障壁を破りながら聞くと、名瀬会長がすまし顔で、俺の方は見ずに再び机上の書類へと目を落とす。


「だって、小箱中佐に見捨てられたら、私たちの学園祭は本気で終わるんだからね。そこんところ、解ってるの? ユウ!」


「はい……でも、トシにぃと喋りたくて……」


「まったく……『俺がトシにぃと連絡のやりとりするよ!』って、買って出たは良いけど、肝心の連絡が全然付かないんじゃ、いつまでも進まないでしょ」


「だって、それはトシにぃが俺のことを着信拒否してたからで……」

「日頃の行いのせいでしょ」


「はい……そっすね……すんません……」


 勇んで引き受けた仕事が上手くいかず、琴美に文字通り仕事の尻を拭ってもらった形の俺は、か細い声で謝ることしか出来なかった。


「火之浦さん……あなた、私のユウ様をそんなぞんざいに扱って……自分が特記戦力だからって、私が手出しできないとでも思ってるんですか……」


 ユラリと執務机から速水さんが立ち上がる。

 連日のデスマーチで、髪のトリートメントの時間がない速水さんがボサボサの髪を振り乱して、血走った眼球だけがギョロっと動く様はかなり異様だった。


「あら速水先生。誰に手を出すと仰いました? 今、学園の教官としても、特記戦力のお付きの者としても不適切な発言があったようですが?」


 速水さんが売った喧嘩を、琴美の護衛役の名瀬会長が全力で買う。


「あ、マズイ。皆、デスマーチのストレスでおかしくなってきてる。孤立部隊で撤退してた時の絶望の状況に似てて懐かしいな」


「戦場を懐かしんでる暇があったら、ちゃんと自分の副官を止めてユウ!」


「おっと。ほら、速水さんドウドウ」


 本当に睡眠不足は、色々と良くないなと思いながら、今にも名瀬会長に飛びかかろうとしている速水さんを俺は後ろから羽交い締めにしながら思った。




◇◇◇◆◇◇◇



「とうとう学園祭前日……」


「けど、これでようやく…」


「終わった……」


 いや、もう0時を過ぎているから、もう学園祭当日か。

 学園祭当日も、色々とやることは多いのだが、とにかく事前に準備すべきことは全て終わったのだ。


「みんな、本当にお疲れ様でした……ほんと、絶対無理だって何度も思ったけど……ホント……ホントに……」


 俺と琴美、そして名瀬会長という本来の生徒会メンバー3人しかいない気の緩みもあったのか、名瀬会長が涙ぐむ。


「名瀬会長、泣かないで」

「泣くのは、無事に学園祭が終わってからにしましょう」


 ブラック名物、仕事の区切りのところで、感情が高ぶって泣く奴。

 ほんと、みんな大変だったな……


「もう終電ないよ……」

「学園に泊まるしかないですね」


「速水さんは今日は宿直当番で、宿直室で寝てるから、そこを使わせてもらうとか?」


 準備最終日だったが、自分だけ離脱することを速水さんは嫌がっていたが、元から決まっている宿直業務だから行ってもらった。


 他の教官方も、急な学園祭準備のために忙しくしていて、宿直当番を代ってもらえる余裕のある人はいなかったのだ。


「じゃあ、名瀬会長……って、もう寝てる」


 さっきまで情緒不安定だったのに、もうソファですやすやと寝息を立てている。


「うーん。唯一のソファが埋まっちゃったな」


 生徒会室の応接セットは、ソファの対面は独立したイスで寝るのにはとっても不向きだ。


「仕方ない。琴美は魂装研究会の部室の畳で寝て」


「え、ユウはどこで寝るの?」


 寝入ってしまった名瀬会長に毛布をかけながら、琴美があわてて聞く。


「え? 生徒会室の床に段ボールを敷いて寝ようかと」


「なんでそんな家なし子みたいな寝かたなの!?」


「いや、イスを何脚か使って寝るのは腰によくないから、床に寝た方が体にはいいんだよ。生徒会室の床面はふかふかの絨毯だから滅茶苦茶快適そうだし」


 日頃は、趣味に合わないと文句をつけている、この豪奢な絨毯だが、今日ばかりはその存在に心から感謝した。


 きっと、歴代の生徒会の人は、こういった事態を想定して、ふかふか絨毯をこの生徒会室に敷き詰めたんだろうな、うん。


「ダメ。ユウも隣の部室に来る」


「え? けど、年頃の男女が一緒にっていう訳には」

「生徒会室でユウが寝たら、名瀬会長と同じ部屋で寝たことになるでしょ。婚約者の土門前会長に言い訳できないでしょ」


「た、たしかに……」


 言われてみると、その視点が抜け落ちていた。

 無論、俺に名瀬会長とどうこうなろうなんて発想は毛ほどもないが、密室で何もなかったことを証明するのは悪魔の証明だ。


 疑わしいことは慎むべきなのだ。


「その点……私は、別に特定の恋人がいるわけでもないし……ユウとは時々、一緒にお昼寝したりもするし? 平気っていうか……」


 モジモジとする琴美。


「それに、私も連日のお仕事で疲れてて、久しぶりにユウの匂いを堪能したいというか……」


 ああ、一番しっかりしている琴美も、やっぱり疲れているんだな。

 上手く誤魔化して誘おうとしたのに、結局は自分の欲望が駄々漏れになってしまっている。


「そういうことなら、一緒に部室の方で寝させてもらおうかな」


「やった! じゃあ、すぐ行こ!」


 琴美に手を引っ張られて、生徒会室の隣の部室に入る。


 真っ暗な部室は、いつもとは雰囲気が違う。


「毛布1枚しかないな」


 昼寝用に部室に毛布は持ち込んでいるのだが、さっき名瀬会長に1枚使っちゃったしな。


「最初から狙ってたし」


 ん? 何か言った?

 ボソッとつぶやいた琴美の声はよく聞こえなかった。


 琴美の方を見ると、寝るときにも一緒のチュウスケが胸に抱かれている。


「じゃあ、俺たちもすぐ寝ようか」

「うん」


 琴美とはすでに昼寝で何度も一緒にゴロ寝してるし、疲れてるしすぐ寝れるだろ。

 そう思いながら、毛布1枚を琴美と分け合い畳の上に横になった。


「……あの、琴美?」

「なに? ユウ」


「なんでそんな身体を俺に密着させて来るの?」

「毛布1枚だから、くっつかないと2人入れないでしょ」


「チュウスケを抱いて寝なくていいの?」


 まるで目覚まし時計のようにチュウスケが枕元に鎮座している。


「今は、匂いの発生元のユウがいるんだから、こっちを抱いて寝るのが効率的でしょ」


「え、臭う!? さっきシャワー浴びたのに」


 俺はスンスンと自分の体臭をかごうとするが、胸の中にいる琴美の髪の毛から香るシャンプーの匂いしかしない。


「ううん、落ち着くって意味。最近は大変だったから」

「琴美は特記戦力としても、生徒会副会長としても大変だったもんね。特記戦力の方はともかく、生徒会の方では琴美に迷惑かけてばっかりでゴメンね」


「ううん。ユウにも苦手なものあるんだって思ったら、なんだかホッとした。ああ、ユウも人間なんだなって」


「そりゃそうだよ。俺は人間だよ」


「…………」


「…………」


 明かりの無い部室内の暗闇に、しばらく静寂が響く。


「プハハハッ! なに今の会話」


「ねぇ。何か宇宙人が、自分は人間だって言い訳してるみたいだった」


 琴美もツボにはまったのか体をひくひくさせながら笑っている。

 俺に抱きついてきているので、笑った時の体の震動がダイレクトに俺にも響く。


「さ、寝よ寝よ」


 俺は仕切り直して、毛布を体に包ませた。


 朝起きたら、とうとう学園祭だ。


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