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軍の少将になって帰国したら今さら学園に通えと言われました  作者: マイヨ@電車王子様【11/25発売】


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第89話 貴方が与えてくれるなら

【速水 まどか視点】


 一体どれだけの日数が経ったのだろう……

 膝を抱えて丸まり目をつぶっている自分には、時間経過はまるで解らない。


 私は自分を覆っている次元の歪みの膜を見やる。


 見たところで、歪んだ膜を通してなので、元の場所の森林の姿はおろか、緑の色すら解らないけれど。


 ただの白い空間。


 私は、自分を捕縛しにきた敵の姿を見咎めた瞬間に、自決用のハンドガンに手を伸ばしたが、その際に咄嗟の思い付きで、この次元と次元の狭間を球体で自分の周りを覆う膜を展開した。


 私はかつて、空間転移の術式の修行時の事故で、次元の狭間に取り残された事があった。

 誰も助けにこない、何もない真っ白な空間に、一人ぼっちでいた時の孤独は想像を絶するもので、私のトラウマであった。


 あの時は、発狂した様に転移を繰り返して、運良く脱出できたが、以来、私は自身の空間転移の魂装術式を行使する際には、大きく安全マージンを取るようになった。


「しかし、この次元の狭間の膜の展開というのは我ながら良いですね」


 私は、孤独を紛らわせるために、あえて声に出して独り言を呟いた。

 しばらく言葉を発していない喉は、ビックリするほどかすれていて、小さな声しか発せられなかった。


「次元の狭間の膜に触れた者は即座に、次元の狭間に飲み込まれる。こうなっては、相手もおいそれとは手が出せなくなる」


 次元の狭間の膜を通して、敵が何とかしてこの膜を破壊、ないしは私の移動を試みた様子が解りましたが、全ては徒労に終わったようです。


 膜に触れた兵はもちろんの事、ライフル射撃、設置式小型爆弾の爆風を受けても、この膜の中には微風すら感じられません。


 この次元の狭間の膜は様々なシーンで役に立つでしょう。


 例えば、拠点防衛用のブービートラップとして設置するも良し、逆にこちらが侵攻している際に敵軍の真ん中に展開して、司令官のいる辺りを飲み込めば敵軍は指揮系統がズタズタに……



「まぁ、ここから生きては帰れぬ私が考えても詮無き事ですね」



 孤独を紛らわせるための思考は、現実の状態がふと頭をよぎっただけで、かき消された。


 現況の私は、敵地のど真ん中で文字通り孤立している。

 救援が来るのは絶望的だ。


 そして、この次元の狭間の膜だって、決して万能な訳ではない。



「くあっ……」



 突然、苦痛が走り、苦悶の声を上げてしまう。

目の前の次元の狭間の膜が揺れ動く。


 この苦痛は、空間転移の阻害術式の影響下で食らった物と同一の物だ。


 外の様子が解らないのであくまで推測だが、恐らくは敵の空間転移の阻害術式を扱う魂装能力者による干渉だろう。


 苦痛を紛らわせるために、そんな分析をしていると攻撃が止んだ。


「はぁ……はぁ……」


 断続的には阻害術式の干渉行われない所を見ると、おそらく相手の魂装能力者も、この阻害術式を連続では発動できないのでしょう。


 能力の再度の発動には、ある程度の冷却期間を要する。


 そしてこれは、相手方に同系統の魂装能力者が複数は取り揃えられてはいないことも意味します。


 そんな敵戦力の分析をしながら、私は残滓のように残った疼痛に喘ぎつつ、何とか呼吸を整えながら、左太もものホルスターに携行している自決用のハンドガンに視線を落とす。


「今のペースなら、あと1日間くらいは確実に持ちこたえられる……」


 私は、自分の命の期限を冷静にスケジューリングした。


 空腹や喉の渇きはとうに限界を超えて、ほぼ辛さはない。

 ただ、体力は着実に無くなっている。


 いざ、この次元の狭間の膜が破られた時に動ける体力がなければ、意味がない。


 また、相手の阻害術式の発動時では、私は苦痛により碌に動けず自決し損なう可能性があった。


 だから、キチンと安全マージンを取る必要がある。

 確実に自決するためには。


「こういう時でも……いや、最期の時だからこそ、こびりついたさがという物が出るのでしょうね」


 自嘲気味に私が笑ったその瞬間だった。


 先程の攻撃から幾何かも経っていないというのに、何の予兆もなく、目の前の次元の狭間の膜がボコボコとまるで沸騰したように、激しく形質変化する。



(…………!)



 そして、今までの苦痛を何倍にもしたような、激しい頭痛が襲い掛かり、私は悲鳴すら上げることが出来ずに、のたうち回ることしか出来ない。


 考えが甘かった……


相手が追加戦力を加えたのか、それとも今まで敢えて本気を出さずに、終盤に最大出力を与える算段だったのか……


 痛みの中で後悔と絶望に苛まれるが、私に反省している暇はない。

 駄目だ……意識を保て……


 まだだ……お前には最期にやることがあるだろ……



 ここで、一つの幸運が起きた。


 激しい頭痛による痛みにより、全身をくねらせてのたうち回った結果、膝が自分の顔面に当たり鼻血を噴いたのだ。


 新たな箇所の痛みを脳が認識したことにより、一瞬だけ脳が危険信号としての頭痛を和らげてくれた。


この間隙により、私は何とか意識を失わずに済んだ。

チャンスは今しかない!


 私は、苦痛に喘ぎながら、何とかホルスターからハンドガンを取り出し、セーフティーを外す。



「良かった……死に方を選べて」



 私は這いつくばりながらも、最期の最期に訪れた幸運に感謝しながら、ハンドガンを自身のこめかみに押し当てる。


 そう言えば、これで自決しようとするのは2回目ですね。


 私は、ふとジャングルで置き去りにされて自決しようとした、士官学校生時代のことを想い出していた。


 そういう意味では、死ぬ覚悟をしてから更に数年間生きられて、憧れのユウ様と一緒にいることが出来たのです。


 ロスタイムとしては上々の人生でした。


 そう思いながら、私はトリガーにかけた指に力を込める。












「待て!」




 突然聞こえた日本語に、私の指が思わず止まる。




 歪んだ世界にわずかに光が差す。


 破れた次元の狭間の膜から、泥だらけの手が、私の領域に入り込んできて私の腕を掴み上げる。



「このまま強引に引き出す! 堪えろよ!」



 ああ……そうか……


 先程の特大の痛みは、敵の猛攻ではなく貴方が与えて下さったものなんですね……


 私に命を与えてくださった貴方は、まだ私に与えてくださると……


 そんな貴方が与えてくれる物ならば……私は喜んで受け入れます……


 強引に次元の狭間の膜が破られる時に、まるで全身を引き裂かれるような激痛が走ったが、私は下唇を噛んで意識を保ちつつ、ある種の多幸感すら感じながらその激痛を受け入れた。


 激痛でも脳のヒューズを飛ばさないでおいたのは、ひょっとしたら今後、私の脳に深刻なダメージを残すかもしれない。


 けど、私はそれでも構わないと思った。



「おい! しっかりしろ! 生きてたら返事しろ! 速水さん!」



 意識を飛ばさなかったおかげで、あの時の……私を救い出してくれた少年兵の時のように、焦った必死の顔で私を見るユウ様の顔をまた拝めたのだから。


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